第二話 錬金術師、冒険者ギルドに行く
「あら~。アルケミナちゃんとケルブちゃんじゃない」
「こんにちは! 」
「これは華麗なるご婦人。今日も美しいですね」
「あらいやだ、ケルブちゃん。今日も言葉がうまい事。はい。これ私がつくったクッキー。二人でお分けなさいな」
「「ありがとうございます」」
店にケルブが対物理結界、対魔法結界を掛けるとオレ達は朝の商業区を歩いた。
途中いつも食事を買いに行っている所のおばさんに声を掛けられ挨拶を。
クッキーが入った小袋を一つ貰いお礼を言って更に進む。
朝の賑わいを感じつつ小袋を軽く覗く。
「おお! 良い香りだ」
「吾輩には香りがわからない故それは何かの拷問か? 」
「そう言う意図はない。と、言うよりも魔導人形に拷問は通じるのか? 」
「……嫌な人間と組まされる。これはある意味拷問だな」
「何故軽くこっちをみた! 」
「ふっ。特に意味はない。自意識過剰だ」
「お、今日も早いな! アルケミナの嬢ちゃん達! 」
オレ達が少し口論をしながら硬い足場を歩いていると横の方から男の声がした。
声の方を見るとそこには包丁を持った大男が。
「ああ、朝早いのはオレの美点だ。そしておはよう」
「おう、おはようさん」
「早いのはそっちもだろ? 」
「確かに。こりゃ一本取られた」
がはは、と大笑いする大男。
食堂の店主だ。
が、軽く不穏な雰囲気を隣から感じる。いつもの事だが仕方ない。
「じゃ、オレ達は用事があるからこれで」
「おう。また怪我した時でもよろしくな! 」
「いや、そもそも怪我するなよ」
「確かに」
軽く手を振り煉瓦の町並みを更に進む。
そして不穏な雰囲気が無くなった隣を見て白い小さな猫紳士に聞く。
「いつもの事だがなに男に対して嫌悪感を抱くんだ? 」
「製作者曰く、吾輩のモデルとなっているのは神獣ケット・シーのようだ」
「ケット・シー? 」
ケルブはシルクハットを少し深くする。
「ケット・シーは女性の守護者。積極的に男性を守ることは無いのだよ」
「だからと言って毛嫌いしなくても」
「ま、これは性質のような物だ。諦め給え」
軽くクルりと持っている杖を回してオレより前を行こうとする。
ならばオレに対してもっと優しくてもいいと思うんだが、と心の中で思いながらも先を急いだ。
★
石畳の町を行き、一つの大きな建物に着いた。
建物の大きさに見合った巨大な扉には剣と盾が交差した看板がある。
冒険者ギルドだ。
「……納品の時以来か? 」
「納品以外に来ることなんてないからな」
軽く立っていると大勢の剣や魔杖を持った冒険者と思しき人達が入っていくのが見える。
こちらを見てくる人がちらほら。
向こうがお辞儀をするので手を振る。
「君も人気だねぇ」
「いやではないが……。この人気の原因に関しては複雑な気分だ」
「割り切り給え」
「オレもそうだが、ケルブが原因だと記憶しているのだが? 」
「さ、行こうか」
不利になるとすぐさま話を打ち切り扉の方へ向かうケルブ。
カツン、カツンと音を鳴らしながら先を行く。
全く本当に人間らしい魔導人形だよ。
冒険者ギルドの中に入るとそこには多くの冒険者がいた。
朝一で依頼から帰ってきた人もいるのだろう。
汗臭い中、軽く見渡し木でできた床を歩く。
するとギロっとこちらを見る視線が。
その方向を見ると茶色いモヒカンに肩パットの集団やつるっぱげの屈強な男性陣がこちらを睨んでいた。
それに溜息をつきながらも手を上げ挨拶をしようとすると――
「「「おはようございやす! 姉さん!!! 」」」
「や、やぁ。おはよう」
全員が頭を下げて挨拶してきた。
瞬間全員が「またやってる」という視線でこちらを見てきた。
これに慣れれないんだよな。
「「「ケルブの旦那もおはようございやす!!! 」」」
「おはよう。君達も今日もイカしてるスタイルだね」
「「「お褒めに預かり至極恐悦! 」」」
クルりと杖を一回転させオレの前で挨拶するケルブ。
ケルブは彼らには少し優しい。
町の人とのこの落差は一体何なんだ。ほんと。
そう考えていると一人のモヒカンがこちらに近寄る。
「ささ、こちらへどうぞ」
「席はあけやした」
「姉さんと兄さんの席は常に確保しておりやす! 」
ガバっと手で席を案内されていつもの席へ。
目線で助けを受付に送るがうさ耳受付嬢はこちらに手を振るばかり。
くそっ! 助けてくれてもいいじゃないか。
移動し、着席。
まるで貴族様の親衛隊のような感じで整列し、腕を後ろに組みリーダーの男がコホンと軽く咳払いし口を開く。
「本日はどのようなご予定でしょうか」
「お、おう。今日は護衛依頼を頼もうかと来た」
それを聞き男達が一気に目を輝かせた。
「指名依頼でしょうか? 」
「そこまで考えてないんだが」
「それはいけねぇ!!! 」
「ここは安心安全の指名依頼でなくては! 」
「姉さんが作るポーションは随一! この町の冒険者達にはなくてはならないものです! 」
「故に、安全に、確実に依頼をこなせる人材を指名してもらわないと! 」
と、彼らは熱弁しているが彼らの言葉を要約すると「自分達を指名して欲しい」ということだ。
オレのポーションを褒めてくれるのは嬉しいが目的が見え見えだ。
だが見た目を抜きにすれば彼らはBランク冒険者パーティーの集団。見た目を抜きにすれば高位冒険者で実力も保証されている。見た目を抜きにすれば。
確かに彼らに指名依頼を出せば、その言葉の通り「安心安全」なのだろう。
悩む……。
軽く、期待に満ちたその顔を見る。
そして机に肘をつき手を組んで下を向く。
その昔死にかけの彼らにポーションを与えて助けた結果こうなっているのだが、本当にどうしてこうなった。
どう切り抜けようかと考えているとどこからか声が聞こえてきた。
「そうだ。こういうのはどうだ? 」
下を向いたまま声の方を見る。
何か彼らが相談をしている。
悪だくみじゃないと思うんだが。
話し合いが終わったのかこちらを見てリーダーの男が咳払いをして口を開いた。
「姉さん。折り入ってご相談が」
「な、なんだ? 」
「最近近くの町からやってきた冒険者が俺達のグループに入ったもんで。その者達と組んでくれませんかね? 」
「ま、まぁ最悪こっちにはケルブがいるから大丈夫だとは思うけど……。でもどうしたんだ? 」
「やつらこの町について知らない様子。姉さんの事もよく知らないでしょう。ならば! ここで親交を深めていただければ、と! 」
「「「おねがいしやす!!! 」」」
ガバっと頭を下げる強面集団。
なんだかんだ言って面倒見のいい奴らなんだよな、こいつら。
ま、だからほっておけないのもあるが。
「よし分かった。そいつらと会おう! 」
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