第十八話 自称賢人会からの帰路
「それにしても個性的な人達でしたね」
「確かに個性的であるな」
「ケルブにそう言われたら終わりだ」
太陽が頂点に達したくらいの時間、オレ達は店に帰っていた。
むぅ、と唸りながら不満げにこちらを見上げるケルブだがまずもって動く人形というところから彼は個性的だ。
そんな個性を集めたかのような存在に「君は個性的である」と言われたら悔し涙の一つは流したくなるだろう。
「しかし姉さん。あの質問は何だったんですかい? 」
「ポーションの味の事か? 」
ナルクの声が後ろからするが、振り向かず聞き返す。
「ええ。確かにポーションは苦い。しかしこれは常識では? 」
「あぁ。常識だ。苦く、後味が悪い。だがそれを改善すれば、面白いと思わないか? 」
「くぅ~っ! 痺れるぜ、姉さん! 味が苦くて飲めない子供達の為にそんなことを考えるなんて」
後ろでナルクが号泣しているようだが……。
( ( (オレ (アルケミナ殿) 。そんなこと言ったっけ??? ) ) )
何故かはわからないがナルクの中でオレの株が爆上がりしているようだ。
しかも脳内で誤変換した状態で。
一体ナルクの頭の中はどうなっているんだ?
結構本気でどこか治療院を探してみてもらいに行った方がいいんじゃないか?
そう思うも、水を差すわけにはいかず足を進める。
商業区に入り町の所々からいい匂いが漂ってくる。辺りを軽く見渡すと人も増えてきている。
昼か。ポーションの味付けの事でいつもよりも時間が経ってたんだな。
「そう言えば昼、食べてなかったな」
「今回は真面目な話もとんだからね。その影響だろう」
「遠回しにオレのせいと言っているか? 」
「いいや。ただ有意義な時間だったと思っただけだよ。まさかポーションに酒を入れるとあのような反応をするとは知らなかったからね。もし何かしら含みを感じるのならばそれは吾輩のせいでなく、君の感受性の問題だと思うが」
こいつ、と少し額に青筋を浮かべながらケルブを見下ろす。
しかし気にする様子もなく進んでいる。
はぁ、と気が抜ける息を吐き前を見た。
すると隣から高い声が聞こえてくる。
「この町の薬師や錬金術師の方達はあれで全部なのですか? 」
軽く下から覗くように体を前にしてマリアンが聞いて来た。
「オレ達が知っている範囲では、全部だな」
「やはり少なすぎではないですか? 」
体を起こした彼女が言う。
「都市部の事情は分からないが確かに少ない。隣にウルの町と言うのがあるがそこはもう少し多いからな」
「やはりスタミナ草の事ですか」
「それもあるな」
ちらりと横を見ると引っ掛かりを覚えたのか「それも、ですか? 」と頭に疑問符を浮かべて呟いている。
「よく考えてみてくれ。グレカスの爺さんは置いておいて、錬金術師として高みにいることに加えて薬に関する知識が深いエルフ族と回復が使える神官魔族がこの町にいるんだぞ? 商売になると思うか? 」
「ならないですね」
オレの言葉を聞いて笑いながら同意するマリアン。
実際、他の錬金術師が寄り付きにくいというのは笑えない問題だ。
錬金術師としても、薬師としても、医療に従事する者としても高みにいる長命種二人がいることは確かにこの町にとってメリット。
しかし錬金術師や薬師が寄り付かず後続が育たないのはデメリットでもある。
どうしようもない事ではあるが、町長辺りが対策でも考えるだろう。
そうしているうちに店に着いた。
護衛役のスキンヘッド冒険者『ナルク』が「あっしはここで! 」と言いながら笑顔で去っていくのを見送り、遅めの昼ご飯を食べた。
★
「終わったな」
夜、通常ポーションを作り終えたオレは器具を洗い終わり一息ついた。
光球が刻印されている魔道具に照らされながらも軽く窓の外を見る。
完全に夜中になってしまった。
昼の賢人会 (笑)が原因だろう。
しかし、ケルブじゃないが確かに有意義な時間ではあった。
あれで自分から賢人と名乗らなければ本当に賢人なのだろうけれど。
軽く息を吐き手を動かす。
それぞれガラスの器具を乾燥させるために机に置く。
逆さになったそれを固定して、部屋を出た。
「今日は何か疲れたな。こういう時は——飲むか」
独り言ちて、調理室の扉を開けた。
果汁酒の瓶と木のコップを手に取った後、広間に向かう。
灯した光の中、廊下を歩いていると前の扉が開いた。
そこにいたのは——黒い下着姿のマリアンだった。
眠たそうに目を擦りながらマリアンはオレに気付いたようだ。
こちらを見て「こんばんは」と声をかけてきた。
「飲むかい? 」
そう言い用を済ませて、広間に集まった。
★
「時にはケルブなしで話すのも良い」
机の上に置かれたコップに果汁酒を注ぎ、マリアンに渡す。
逆にマリアンがオレのコップに注いでこちらに渡してきた。
金色の瞳をこちらに向けて口を開く。
「確かに二人のみで話したことはないですね」
「常にお目付け役がいるからな」
「いつも一緒ですからね」
「ああ。ま、前置きもなんだ。じゃぁ」
言い祈りの言葉を述べ、コップをかち合わせる。
少し果汁酒がこぼれる中、それを気にせず口にやる。
「うん。やっぱりうまい」
「美味しい……。口の中に浸透するみたいですね。公爵家で飲む果汁酒とはまた違う感じです」
「高いものでもないんだが」
そう言いつつ、再度口に含む。
机に置いてある食べ物を軽く摘まんで、噛む。
「これも美味しい」
「……マリアンは一体どんな生活を送ってきたんだ? このくらい市場に行けば、少し高いが食べれるぞ? 」
そう言うと軽く頬を赤らめたマリアンがこちらを見て口を開く。
「そうですね。騎士になる前、ローズ伯爵家にいた頃は……いえ、騎士になる前は学園の騎士コースでしたね。その時からいつでも戦えるような、素朴な食べ物でしたよ? 」
「……騎士とは難儀な職業だな」
「まぁ色々と危険な職業なので」
なるほど、と言いつつもう一杯飲む。
空になってしまった。
中身を見つつ軽く振っていると、マリアンが「注ぎましょうか? 」と聞いて来たのでお願いする。
「すまないな」
それを受け取りつつも軽く微笑む。
マリアンも軽く苦笑いしコップを口につけた。
「しかしこの町は平和ですね」
「普通じゃないのか? 」
そう言うと少し表情を暗くさせるマリアン。
「……そうですね。町によってはスラム街もありますし、犯罪が多い町もあります。ここ一か月ほど見てきましたがそう言うのを聞かないので」
「あぁ……一応ない事はないんだ」
「? しかし見かけませんよ? 」
「時折……やはりというべきか子を捨てる親がいる。そういう子が村からこの町に流れてきた時大体が教会、カムイ司祭が面倒を見てるんだ」
カムイさんが? と少し驚いたような表情をするマリアン。
「集まった子供達と遊んだり……そう、時々炊き出しとかもしてるぞ? 気が向いたら行ってみると良い」
「そうします! 」
二人で話しつつもその日を終えた。
黒い下着の彼女を背負い、部屋に入れるはめになったが時にはこういうのも良いなと感じた。
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