第十四話 自称賢人会に向けて
二話目。昼もう一話投稿します。
「そう言えば会わなくても良かったのか? 」
「二人が帰る時に少し話したので大丈夫です」
ジスタとトリスタの騎士コンビを見送った後広間から受付に行きそこにいるマリアンに聞いた。
それにマリアンはにっこりと笑みを浮かべて返事をする。
こう見ると騎士というよりかは商業ギルドにいる美人な受付嬢のようだ。
そんな彼女は——現在もだが——公爵家の騎士団所属。
二人は彼女と同僚のはずだ。
ならば少しくらい、例えば働いていた騎士団の事とかで話すこともあると思ったのだが、すでに何か話していたか。
「しかしあの二人の前でこの格好は、やはり少し恥ずかしかったですね」
「いつもが騎士服ならば、そうだろうな」
「話し合いは終わったかい? 」
広間に通じる扉からケルブの声がした。
声の方をみるとやはりそこには白いスーツの猫紳士が立っているのが見えた。
ケルブは軽く中を確認した後、トントントンと杖をつく音を鳴らしながら入ってくる。
受付の端に置いてある椅子まで行くと軽くジャンプし、座って足を組んだ。
「話し合いが終わったのならば連絡くらいしたらどうだい? 」
「なんだケルブ。話し相手がいなくて寂しいのか? 」
「ふん。そう言うことではない。報告、連絡、相談は店を運営するうえで基本だろ? 」
「店主はオレなんだが」
「同時に吾輩は君の保護者のようなものだ。ならばそこに報告義務が発生してもおかしくないと思うのだがね」
「いや、おかしいだろ」
そうは言うものの、結局の所話し相手が欲しかったということのようだ。
少し拗ねているような気もする。
正直じゃないな、ケルブは。
しかしオレもオーガじゃない。そのことには触れないでおいてやろう。
「しかし……マリアン嬢は素が良いのか何を着てもよく似合うね」
「そ、そんなことはないです。私は武人。剣一本あれば十分です! 」
「いやなに、本心からだよ。騎士服も似合うが、こういった事務方の服も似合う。違う服を着せてみるのもいいかもね」
否定するも、マリアンの瞳は少し輝いている。
一見するとマリアンはあまり服にこだわりが無いように見える。
しかし、女性らしく着飾りたいという気持ちもあるのではないだろうか。
強制しているわけでもないのに受付の時この服を着ているのが証拠だ。
しかし、ま、ケルブの言う通り彼女は何を着せても似合うような気はする。
アーク公じゃないが、確かに事務服は正解だった。
メイド服とかも似合いそうだな。
「……なにやら不穏な視線を感じるのですが」
「気のせいだろう」
「顔を逸らしながら言っても説得力がないと思うがね、アルケミナ。しかし君は……いや失礼。君も……似合うと思うよ……ふっ」
「おい、今なにを想像した、ケルブ」
「着てみると、いいんじゃないかい? それこそ君の親衛隊が泣いて喜ぶと思うがね」
「誰がやるか! そう言うケルブこそ違う服を着せてやろうか? 」
「ほう。吾輩とやると? 」
「ケルブが魔力切れを起こしている時にスーツからドレスにしてやろう」
それを聞いてケルブの猫顔の毛が少し逆立った気がした。
恐らく自分が着ている姿を想像したのだろう。
……。オレが想像しても、これはないな。
不利を悟ったのかケルブが「そう言えば」と話を切り替え椅子から立つ。
オレ達の前まで来てくるりと杖を回していった。
「そろそろ賢人会 (笑)の時期じゃないのかい? 」
「笑ってやるなよ。まぁ確かにおふざけだが」
「あの。賢人会とは何でしょうか? 」
オレとケルブが話していると少し気おくれした感じでマリアンが聞いて来た。
彼女の方を向いて、少し苦笑いを浮かべながら説明する。
「あぁ……何というかこの町の錬金術師や薬師で定期的にやる会合のようなものだ」
「それを賢人会 (笑)という」
「因みにいい歳した爺婆が三賢人を名乗って町のやつらを集めているから賢人会だ。まぁ自称だが」
「だが実際この町で高品質なハイ・ポーション類を作れる三人だ。賢人とまで行かなくとも知識人ではあるだろう」
「凄い事じゃないですか! ハイ・ポーション類自体生産が少ないというのに」
そう褒めるマリアンにオレとケルブは苦々しい顔をした。
テンションが上がり気味なマリアンとは対照的にオレ達のテンションは下がる。
「確かにそうだ。ハイ・ポーション類の生産は少ない。だが悪乗りした痛々しい爺婆ほど厄介なものはない」
「まぁ一人を除いたら、種族からすれば若い方なのかもしれないが……」
「種族? 」
「ああそうだ。彼らは——「おはようございやす! 姉さん、旦那!!! 」
自称三賢人について言おうとしたら「バン! 」といきなり扉が開き、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
……。来やがったか。
「姉さん、そろそろ三賢人の御方との会合、と思い馳せ参じやした!!! 」
「……いつもの事ながら迎えはいいと言っているのに」
マリアンの方から輝くスキンヘッドの男に顔を移し、呟く。
だがそれを気にせず中に入ってきた。
「姉さんを護るのが我ら親衛隊の役目。こればっかりは譲れません! 」
「いや、誰から護るんだよ。ナルク」
「色々な害悪でさぁ」
「抽象的だな」
ケルブがそう言うと、オレ達の前まで来てピシっと背筋を伸ばして腕を後ろに組み白い歯を輝かせた。
「オレが行くとも限らないのに」
はぁ、と溜息をつきながら受付台に肘をついてだらりと受付台に倒れ込む。
「そう言っても姉さんは賢人会に出なかったことはないでしょう? 」
「確かにそうだが」
「姉さんが町の者との交流を絶やさないのは知ってやす。それが、理由でさぁ」
「アルケミナ。君も大変だね」
「……ケルブも他人事じゃないだろうに」
「吾輩はこれでも楽しんでいる。故に、気苦労というものをしなくてもいい」
「その楽しむ感性が、欲しい所だよ」
オレがケルブに疲れた目を送りながらそう言うと「あの! 」とマリアンの方から声が聞こえた。
見上げると顔、は見えず巨大な脂肪の塊を見上げて彼女の話を聞く。
「私もその賢人会とやらに行ってもよろしいでしょうか? 」
そう言う脂肪の塊から目を離し、ケルブやナルクと顔を合わせる。
二人が頷くのを見て「物好きだ」と思いながらもたゆむ双丘を見上げた。
「構わない、と思う」
「錬金術師や薬師の会合と言っても単なる世間話をするだけ。毎回の如くナルク達も同席している。問題ないだろう」
「あっしとしても、構いません」
「そう言うことで」
行くメンバーが決まったということでオレ達は服を着替えて準備した。
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