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第十三話 定期ポーションの受け渡し

 朝のうちにハイ・スタミナ・ポーションを作り終えたオレは臭いを取り、受付に行く。

 そこには白衣のオレとは反対に、いつもの騎士服ではなく受付用の服に身を包んだマリアンがいた。


「ふぅ……。終わった」

「お疲れさまです! 」


 元気よくそう言う彼女だが鎧に身を包んでいないためか、出るところが出て締まるところは締まっていた。


 今着ている服は冒険者ギルドの受付嬢のような服装だ。

 (こん)色のブレザーに長く白いシャツ、そして少し短めのスカートに黒いパンスト。

 ある時ふとハイ・スタミナ・ポーションを受け取りに来た騎士に彼女に受付を任せると行ってしまったのが原因で彼女はこの服に身を(つつ)んでいる。

 どうやら彼女の直接の上司、アース公爵の指示のようだ。


 オレの中でアース公爵の評価が「エロ爺」にランクダウンした。

 同時にマリアンの後ろで「グッジョブ! 」と親指を立てているアース公の幻影が見えたのは気のせいだろうか。


「やっぱり着慣れないか? 」

「いえ! 新鮮(しんせん)で、いいと思います」


 そう言いながら少し顔を赤らめもじもじしている。

 元々——一部を除いて——細身なせいでもあるのだろう、(わず)かな動きが大きく見える。

 しかし顔を赤らめながらそう言うとマゾっ気があるのではないのだろうかと(かん)()ってしまうのでやめてほしい。

 そんな彼女に()()きながら状況を聞く。


「客は……来ていないか? 」

「はい。残念ながら」


 少し顔を下に向け、落ち込み気味にそう言うマリアン。


「ああ大丈夫。マリアンのせいじゃない。いつもの事だ」

「そうなのですか? 」


 聞いて来るマリアンに受付の端にある椅子に座って腕を組み頷いた。


「基本的にこの店は商業ギルドや冒険者ギルドにポーションを(おろ)すからな。この店に来るのは不定期にポーションを買いに来る冒険者か……あの野郎どもくらいだ」

「そうなのですか」

「あぁ。ま、と言ってもこの店に来るのは、だ。こっちから定期的に動けない患者の方へ行くことはある」

「? それは医師の(つと)めでは? 」


 そう言われ、少し困り頭を()きながら彼女の方を再度向いた。


「確かにそうなんだがこの町には治療院が少ないんだ。だから動けない人に関しては薬師の連中が見て回ってる。ほら、この町は領都(りょうと)から離れてるだろ? それもあってか医師ギルドがない。そして医師が少ない」

「それで薬師の人が代役(だいやく)を」

「代役、というか医師は薬師から派生(はせい)しているからな。薬師が医師の代わりをするというのはあながち間違いではない。つい百年程らしいぞ? 医師というのが出てきたのは」


 勉強になります、と言いつつふと何かに気が付いたかのような顔をするマリアン。


「そう言えば錬金術師ギルドも見かけませんね」

「ま、それだけ病人が少ないということだ」


 病人が少ないのは本当だが、加えるのならばそれだけギルドにとって旨味(うまみ)の無い町ともいえる。

 下手(へた)に言うと公爵の耳に入って「それはいけない! 」という流れになってこの町にギルドを作りかねない。

 ギルドが無いのは不便(ふべん)だが、一方で楽な部分もある訳で。


 お客がいないため口を(すべ)らさないように二人で話す。

 世間話をしていると店の扉の方から軽くノックの音がしてきた。


「この律義(りちぎ)なノックの仕方は」


 そう呟くとマリアンが少し苦笑いした。

 オレも苦笑いで返し扉の方へ行く。

 ノブに手を掛け開けるとそこには二人の騎士が立っていた。


「いつもお世話になっております! アーク公爵家のジスタでございます」

「あう。来たぜ」


 わざわざアーク公爵家の家紋入りの布を出して身分証明をする二人に「ご苦労様」と言い一旦店の中に入れた。


 ★


 二人の騎士を迎え入れた後、受付にマリアンを残した状態でオレは広間に彼らを迎え入れていた。


「いやぁ、おかげさまで坊ちゃんも元気で」


 机についてそう言うのは狼獣人の騎士トリスタだ。

 銀色の尻尾を後ろに巻いてにこやかに話す。

 しかし彼の隣から(とが)める声が。


「コ、コラ。トリスタ! 恩人に失礼だろう?! 」


 そう言うのは犬獣人の騎士ジスタである。

 ジスタはどこか礼儀正しく規律(きりつ)(おも)んじるタイプらしくいつもトリスタに注意の言葉を()びせている。

 しかしトリスタは気にする様子もなくオレの方へ話を振る。


「いいじゃねぇか。なぁアルケミナ殿」

「構わない。オレとしては(くだ)けてくれた方がやりやすい」

「ほら」

「……アルケミナ殿がそう言うのならば」


 彼の几帳面(きちょうめん)な性格が出ているのだろう、どうもしっくりしない様子ながらも引き下がるジスタ。

 真面目なことは良いが、真面目過ぎるのも困る。

 こっちとしても敬語で話さなくていいからな。

 下手に丁寧(ていねい)な言葉を使われてもむず(がゆ)い。


「で、最近の子息のご様子、他には? 」

「順調だぜ」

「ええ。まるで今までの時間を取り戻すかのように動き回られて……」


 思い出したのか少し涙ぐみながら言うジスタ。

 あの状態から歩き回るね。

 あれからそれなりに時間が経っている。良い傾向だ。


「しっかしよ、あのハイ・スタミナ・ポーションの味……どうにかなんねぇか? 俺も昔飲んだことあるが相当苦かったぜ? 」

「ちょ、トリスタ! 何を言って?! 」

「だがよ。トリアノ様の事を思うとここで言わないのは、違わねぇか? 」

「それはわかるがアルケミナ殿にこれ以上の負担は」

「あぁ……。味はどうにもならない」


 べー、っと下を出して苦い顔をしてそう言うトリスタだが味ばっかりはどうにもならない。

 トリスタの言葉に少し希望を持ったのかこっちを見るジスタだが「無理だ」と首を振り伝える。


「基本的に液状のものは味を誤魔化しにくいんだ」

「そうなのか? 」

「それこそ……なにか甘味となるものを入れればいいと思うのですが」


 聞き返すトリスタに案を出すジスタだが、オレは椅子の背に体重を乗せて少し前脚(まえあし)を浮かせながらそれを否定する。


「無理だね。まずもって、何かを入れると効力が大きく変わる。例えば蜂蜜(はちみつ)。あれを入れると効力が激減する」

「うぇ、マジか」

「今まで様々な研究がされて来たみたいだが一介(いっかい)の錬金術師じゃ、まず無理だな」


 っと、椅子から立ち上がる。

 ガタンと椅子が倒れるが、気にせず講釈(こうしゃく)しつつ動く。


「効力もそうだが、ポーション類は基本的に抽出(ちゅうしゅつ)物だ。それを濃縮(のうしゅく)したり希釈(きしゃく)したりする。薬のような固形物ならともかく味が(ちょく)で加わる分、ごまかしがきかない」


 広間の(はし)の方まで行き今回の分のハイ・スタミナ・ポーションを手に取り、彼らの方へ足を向ける。


「それこそ「味」に関する研究者と「ポーション」を作る錬金術師が組んで何年、何十年も研究しないと無理だと、オレは思うがね」


 と、彼らの前に今回の分のポーションを置いて()めくくった。


「もし研究して、成功すればそれこそ歴史に名を残す偉業(いぎょう)だろう。ま、その分かかる費用も莫大(ばくだい)だろうが。さて、今回の分だ。きちんと届けてくれよ」


 そう言い二人を見送った。

お読みいただきありがとうございます。


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