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千年の魔女

勇者を目指しているのに世界が敵視する魔族の一員である件

作者: 如月いさみ

アーサーとアシュレイの新しい生活に行くまでに少し二人の秘密を書いてみました。

無垢の平和から原始一〇〇年戦争が勃発し、魔王の消滅によって終結して数百年。

再び世界に怪物や魔物が出現し始めた。


人々は魔王が復活したのではないかと流れる噂に翻弄され、多くの若者は魔王を倒す勇者となるべく不老不死と強靭な力を与えると言われる千年の魔女を探し始めていた。


■勇者を目指しているのに世界が敵視する魔族の一員である件


アーサーは思わずウトウトと前のめりに倒れ掛かった。

先日、暮らしていた島が襲われた時に父のアシュレイが魔王であることが判明し、島のあったエデン群島から遥か北にあるエスター王国へ向かって丸二日…眠気も最高潮であった。


翼竜を駆るアシュレイは前に座らせていたアーサーを片手で支えながら

「もうすぐだが…セダで一度休憩した方がいいか」

と呟いた。


エスター王国に直線で向かえば、恐らく到着する頃なのだろうが世界の中心にある世界結界石の島の上空を通ることになる。

アシュレイとしては出来るだけそのルートを避けたかった。


世界結界石の島はアーサーの母親であり彼の妻であるミーアの誕生した島であり世界結界石との共鳴が起きることを恐れたからである。


遠回りしてもムール帝国とセダ王国の上空を経由するルートを選ばざる得なかったのである。

が、睡魔で愛息が竜から落下するという事態も避けたかった。


アシュレイは既に半分寝入っているアーサーを見つめ

「寝顔もミーアに似ていて可愛いな」

とふふっと微笑むと見えてきた緑の島に向かって高度を落とした。


原始一〇〇年戦争の終結に活躍したと言われる英雄の一人マーレ女王が管理するセダ島。

北南に長く伸びる島で北側に王都があり、南側と東側に大きな町が栄えていた。

南側の町は主にはムール帝国とカルカス共和国など西南の国との貿易で発達し、東側はエスター王国への開放口となっている。


なので、南側の町ウインザーには多くの店や宿屋、そして、大きな港があった。

アシュレイはウインザーの町の近くの森に降り立つとアーサーを片手で抱いて町の中へ入った。


町は活気に満ちて石畳の道を多くの馬車や人が行き交っていた。


アーサーは人々の声や走る馬車の音にふっと目を覚まして顔を上げると

「お父さん、ついたのか?」

エスター?

エスター?

とキョロキョロと辺りを見回した。


アシュレイは背中をポンポンと軽く叩きながら

「まだだ、ここはセダのウインザーだ」

と答えた。


セダ。と言えば、英雄王の統治する島である。

アーサーはビコンと体まで起こすと

「おお!俺、城見学したい!!」

と興奮しながら言い、スルスルとアシュレイの腕から降り立った。


子供とは現金なモノである。


アシュレイはアーサーの頭を軽く撫でると

「先にエスターへいく」

ジークやトールが首を長くして待っているからな

と嗜めた。


アーサーはムゥと口を尖らせたものの

「わかった」

でも、お父さん

「今度、城見学連れて行ってくれよな」

と笑顔を見せた。


つくづく城好きな息子である。


アシュレイは「しかしやはりうちの子は可愛いな」と思いつつ

「わかった」

と答えた。


二人はウインザーの港の近くにある一軒宿に入ると二階の部屋を借りて二日ぶりにベッドにたどり着いた。


アーサーはベッドに身体を投げ出し

「ご飯食べる!」

お腹もすいた

と二言いった途端にそのままパタンと眠り、くーくーと寝息を立て始めた。


眠かったのである。


アシュレイはアーサーの頭を撫でながら

「起きたら食事をしてから食料も調達しておくか」

と呟き、窓の外に見える石畳の道を一人の女性と数人の近衛兵が歩いてくるのを目にした。


金色の長い髪にキリっとした表情。

そして、人々が頭を下げて彼女を見送っていた。


セダ島の管理者マーレ女王である。

アシュレイは階段を登ってくる足音に扉へと視線を向けた。


そこに先ほどの女性が姿を見せたのである。


「お久しぶりでございます」

アシュレイ殿

彼女は深く頭を下げアシュレイを見つめた。


アシュレイは静かに笑むと

「原始戦争以来だな」

と答えた。


マーレはくーくーと眠っているアーサーを微笑ましく見ると

「成長を始められたと聞きましたが…安堵いたしました」

ミーア様に似ておられますね

と告げた。


アシュレイはニコニコと

「ああ、兄弟の中で一番ミーアに似ているかもしれんな」

どの子も本当に可愛いぞ

と答えた。


親ばか丸出しである。


マーレは笑みを深め

「先日、リーア様がお知らせに来られ、立ち寄られるかもしれぬと視察をかねて来ておりました」

お会いできてよかった

「何よりもそのお子が無事に成長している姿を見れて安堵いたしました」

と告げた。


アシュレイは立ち上がると

「貴方とキースには感謝している」

あの時、二人がいなければ俺は…世界を消滅させていた

と視線を伏せた。


マーレは首を振ると

「我々が浅はかだったせいです」

全ての根幹の罪は我々にある

と答えた。


アシュレイは首を振り

「そんなことはない」

と答え「ただ」と付け加えると

「リーアから聞いているかもしれんが」

と告げた。


マーレは頷き

「魔物と怪物の出現の多さに…あの噂ですね」

我々も注視しております

「国内では原始一〇〇年戦争についても研鑽し出来る限り正史を伝えるようにしております」

なので勇者志望の者が来た場合は千年の魔女の話も眉唾だと注意しております

と告げた。


アシュレイは「そうか」と答え

「もしかしたら、世界を巻き込む原始戦争に近いものになるかもしれん」

その時は

と告げた。


マーレは静かに頷いた。

瞬間であった。


アーサーがガバッと起き上がると

「俺、勇者になる!」

なってお父さんやお母さんやみんなを守る勇者になる!

と急に言うと、マーレの方をぐっと見て

「…英雄王がいる」

俺、お城にいるのか?

「すっげー」

というと、驚く二人の視線を受けて、再びバタンと倒れるとくーくーと寝息を立て始めた。


…。

…。


派手な寝言である。

アシュレイもマーレも堪えきれずに笑いを零した。


マーレは笑いを収めると

「私もキースも同じ過ちを二度は繰り返しません」

ご安心を

と答え、頭を下げるとその場を立ち去った。


アシュレイは頷き

「よろしく頼む」

と答え、アーサーの頭を撫でた。


マーレは宿を出て暫く歩くと肩越しに宿を見つめ目を細めた。

「勇者、か」


原始一〇〇年戦争の真実を知ったときに世界を襲った魔王の力を止めたのは世界結界石の落とし児であるミーアだけではなかった。


己とキースだけが見た。

あの姿。

恐らく、魔王であるアシュレイと世界結界石の子ミーアの子供であるアーサーの未来の姿なのだろう。


「ミーア殿の空気が強かったが…姿はアシュレイ殿に近かった」


あの子供の力が無ければ世界の破壊は三分の一ではすまなかったはずである。

恐らく、あの場にいた自分たちは完全に消滅していた。


マーレは静かに笑むと

「もしかするとアシュレイ殿をも凌ぐ力を持つかもしれないな」

と呟き、足を再び進めた。


アーサーは翌朝まで寝続け、ことと次第を知ると

「なんで起こしてくれなかったんだ」

俺、会いたかったのに!

「英雄に会うなんて一生にあるかどうかなのに」

お父さんの意地悪だ

と駄々をこねて、アシュレイに担がれながらセダ島を後にした。


泣きながらアシュレイに宥めるように渡されたチョコを食べ、夕刻を迎えた朱の空間の中に見えてきた島に目を見開いた。


青い海の中に緑の島が浮かぶ。

ただその島は他の島にはない輝く透明の幕に覆われていた。


結界石から生まれた四兄妹が管理するアーサーの母であるミーアの故郷エスター王国であった。


アシュレイは王都の上空を旋回し城に黒い翼竜がいるのを見ると

「息子たちも来ているようだな」

と微笑み、城の中にある広間へと降り立った。


そこにリーアと数人の男性が待っていたのである。


アーサーはその中の一人に目を向けると竜から飛び降り

「ユーリさん!!」

と駆け寄って抱きついた。


アシュレイはリーアを見て

「待たせたな」

と言い、彼女の横にいた二人の男性に

「ジーク殿にトール殿、息子ともども世話になる」

と軽く頭を下げた。


ジークも頭を下げながら

「いや、こちらこそ。ミーアの子供たちに会わせてもらい感謝している」

アシュレイ君

と告げた。

トールも笑顔で

「そうそう、お互いかしこまることなくだな」

義弟殿

と笑った。


ただ、アーサーが抱きついたユーリと他の面々の間では衝撃が走っていたのである。

ユーリはアーサーに抱きつかれて嬉しく抱きしめたのだが、弟二人が抗議の声を上げていたのである。


隣にいたアレンが

「兄上!俺も弟を抱きしめたいです」

と訴えた。

勿論、その横にいたドロスもまた

「俺もです」

どれほどこの時を待っていたか

「ユーリ兄上は何時もあっておられたからよかったですが、俺は初めて弟に会えたのですぞ」

何たる感激

おおお、と涙を流した。


アーサーははっと目を見開くとユーリをじっと見つめ

「…ユーリさん…お父さんの子供!!!!?」

と叫ぶと降り立ってアシュレイの方へと走った。


「お父さん!お父さん!!」

俺の兄弟って


ガクガク震えながら聞くアーサーにアシュレイはにこやかに微笑むと彼を抱っこしてユーリとアレスとドロスの前へと進んだ。


「久しぶりだな」

ユーリ

アレス

ドロス

「みんなに会えて嬉しいぞ」

とそれぞれ前髪を撫でた。


ユーリは「父上」と涙を拭い。

アレスも笑みながら「父上、お久しぶりです。お会いしたかった」と涙を浮かべ。

ドロスもまた「父上、お会いできてうれしゅう存じます」とむせび泣いた。


アシュレイは「うちの子は本当に可愛い」と思いながら、驚愕するアーサーに

「長男のユーリに次兄のアレス、そして、三男のドロスだ」

お前の兄たちだ

「どの子も可愛いだろ」

と微笑んだ。


しかし。

しかし。

しかし。


アーサーはどぎまぎしながら

「お父さん、みんな…お父さんよりおっきくみえる」

と呟いた。


アシュレイはどちらかというと青年の姿をしている。

若系だ。


ユーリは青年というよりは若いが成人男性という風貌だ。

アレスも落ち着いた感じだがどう見ても成人男性だ。

ドロスが一番大人の男性に見えた。


アシュレイはそれにあっさり

「魔族は成人した年齢で止まるからな」

アーサーは幾つで成人するか楽しみだな

と答えた。


その意味!


アーサーは慌てて

「俺もうこれで良い!」

お父さんやお兄さんたちより年上になりたくない

「いーやーだー!!」

と叫んだ。


アーサーは魔族の法則の一つを知り驚愕に震えるのであった。


果たしてアーサーがどの年齢で成人するのか。

その実、それを知っているのは奇しくもここにいない世界でたった二人だけであった。


ジークもトールもリーアもその様子を微笑ましく見つめていたのである。


そして、ジークはリーアを見ると

「アーサーがミーアの血かアシュレイ君の血かどちらが強いかは分からないが」

剣術と魔術の勉強はしておいた方が良いな

と告げた。


「あの二人が生きているとしたら…アーサー君も己を守る力だけはつけておいた方が良いからな」


リーアは表情を引き締めると

「そうね」

ミーアのこともあるものね

と答えた。


アーサーは兄たちにギュウギュウに抱き締められながら

「俺、おれ…勇者になれるのか!?」

魔族の成人がおじいちゃんだったとしても勇者になれるのか!?

と心の中で叫んでいたのである。


これから始まるエスター王国での新しい生活は魔族の力と結界石の守護者の力の覚醒の日々となるのであった。

お読みいただきありがとうございます。

楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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