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第7話 アレンジメント

 



 俺(なあ靴はこれでいいかな)

 充(ダメダメ。普段使ってるのとは分けないと。運動シューズをそのまま流用なんて論外だよ)

 翔太(隆二。今は新たな流行病が出回ってると小耳に挟んだ。マスクを……)

 充(ダ〜メ〜。ダメに決まってるじゃん! 大丈夫、馬鹿は風邪をひかないよ!!)

 裕賀(やめろ充。その言葉は無差別に突き刺さる)


 今日は日曜日。学校も部活もない。なんならテスト週間でもない。俺の今日のスケジュールはざっくり一つに定まっていた。

 それは……



 由紀との初デート!!



 やっぱり高校生活の花形といえば彼女とのデートだろう。

 これぞアオハルッ!!


 だが俺は約束の昼の時間が迫っているというのに自宅の玄関で悪戦苦闘していた。


 充(いやこの靴下何!? 黒い靴下とか正気の沙汰じゃないよ!! お葬式かよっ!!)

 俺(手厳しい意見ありがとう)

 翔太(隆二。羽織りものは赤い物にしておけ。性的魅力を与えられる色だ)

 俺(御意!)

 裕賀(女はハゲに性的魅力を感じるらしい)

 俺(すまん! そこまでの冒険はできんっ)


 何故今こんなにも、服装髪型のチョイスに手間取っているのか。それは今日のデートプラン作成に時間を割きすぎたせいで、衣服等の買い出しに行く時間がまるっきしなかったからだ。

 お陰で少ない持ち手の中からベストマッチな組み合わせを編み出さなければいけない。灯台下暗しとはこのことだろう。


 俺(というか、服装なんて二の次なんじゃないのか)

 充(馬鹿なっ! これだから素人はっ!!

 もし由紀さんが彼氏の服がダサすぎて、そっぽを向いて歩いてしまったらどうするのっ!?

 その向いた視線の先に僕たちとは雲泥の差があるハンサムがいるかもっ。そして由紀さんは欲情だけに誘われて、その男と結びつき……僕たちの前でアオカンに走るっ!!

 隆二はそれでもいいのっ!?)

 俺(よくないですっ!!)

 翔太(最悪のシナリオだな……)

 裕賀(そんな女なら別れるべきだ)


 俺は今回のデートは四人三脚で挑むことにした。

 そもそも俺は告白の時でこそ単独の勝負に出たが、その延長線上ではそこまでの拘りはなかった。

 だからデートプランを練る際も翔太たちの助言を借りることにし、翔太たちも快諾してくれた。

 充に関してはどこぞで手に入れたのかわからないこの道のノウハウを披露してくれている。


 充(ふぅ、あらかたこれでいいかな。じゃあ少し休憩しよう)

 俺(ぬわんだって? 約束の時間に間に合わなくなるぞっ)

 裕賀(喚くな、隆二。女は少し待たせるぐらいがいいんだ)

 翔太(俺もなんかの文献で読んだことがある。確か敢えて彼女を待たせることで心に不安感を生じさせる。そこに彼氏が現れることによって彼女は不安感から放たれる。いわば、吊り橋効果というやつを狙うわけだ)


 ほんとに通説かどうか怪しい理論に俺は多数決の原理に則って従う。


 こうして俺は至ってオーソドックスな赤いスニーカー、チェリー色のストレートパンツ、茜色のテーラードジャケットを装着させられた。

 交際経験ゼロの四人が机上の空論に空論を重ね、独断と偏見によって出来上がった服装である。因みにジャケットの下はユーネックシャツにしており、胸板がアピール出来るように施されている。充は胸毛があれば完璧だとほざいていた。


 俺「やっと出発出来そうだな」


 既に徒労感に浸りつつある俺はなんとかドアノブに手を伸ばしそれを手前に引いた。開いた隙間から外の世界が入り込んでくる。

 ちょっとやり過ぎたぐらいの快晴。予約していた訳ではないが俺のために用意されたのではと曲解してしまいそうだ。


 充(あと歩く時首は真っ直ぐだよ)

 俺(誰かがよく徹夜でネトゲするせいで痛いんだが……)

 翔太(背筋には常配慮しろ。服の上から骨が浮き出るくらいが理想的だ。由紀さんが背中フェチである可能性をこぼすなよ)

 俺(了解です)

 裕賀(おい後ろに母親がいるぞ)


 俺は裕賀の報告にビクッと後ろを向いた。そこには口元に手を添え、なぜかクスリ笑いを催している母親がいた。秘密を握った子供のように母親は悪戯な声で俺に声をかける。


「ふふっ、今からお出掛け?」

 俺「あっ、まあな。ちょっと学校の連中と」

「あ〜ら、そう」


 母親は尚溢れたる笑みを絶やさない。

 どうやら大丈夫そうだ。時々俺は翔太たちと脳内会話してるときに無自覚でそれを口に出してないか、危惧することがある。俺が一人でベラベラ喋ってたら気味が悪いし多重人格であることに懐疑心を抱かれかねないからだ。特に母親は卑近な関係ゆえ、俺は余計神経過敏になる。


「そうそう、そう言えば……」


 母親は思い出したように付け足した。


「あなたの高校の近くにある幼稚園……」

 俺「ああ、綿野原幼稚園?」

「そっ、それそれ。そこの園児たち最近行方不明になってるんだって」


 俺は固唾を飲んだ。なぜ今から遊びに行くというときにそんなことを言うのだろう。綿野原幼稚園、綿野原高校とは体育会や家庭科の保育実習で交流のある施設だ。

 そこの園児たちが近頃、次々と行方知らずとなっているのは巷どころかニュースにも取り上げられていた。事実、今その幼稚園は休園となっており、地元警察も誘拐を焦点におき捜査を行なっている。

 こうして坦々と語ってるが何気にヤバイ事態になっているわけだ。


 そんな話よっぽど冷酷でない限り耳に当てている。


 俺「ああ、心底心が痛むよ。でも俺は年齢的に……」

「あら、あなたは誘拐する方でしょ?」

 俺「あっ、そうか。って自分の子をなんだと思ってるんだよ!!」


 そうねめつけると、母親はペロリと下を突き出し、右手の拳で自分の額をコツンと叩く。


 ……年甲斐もなく粋な真似を。


 俺はそれを視界から消すように外に出てドアを閉めた。ドアの向こう側からクスクスと笑う声が漏れている。


 俺(母さん、すっかり骨抜きになってしまったな)

 翔太(勉強さえしっかりしていれば大人しい生物だからな。昔の母親に会いたいなら、次の考査の点数下げようか?)

 俺(いややめてくれ。わざわざこっちから火をつける理由はないし)


 俺はやっと閉塞感から釈放され駅に向かって歩き出した。

 由紀とは駅で合流という段取りを組んでいる。

 遅刻することは予定の内だが待たせてイラつかせないようなさじ加減で到着しなければ。



 ……ここまで本で言えば、プロローグ が終わったってとこか。

 やっと今から第一章だ。




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