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第3話 俺の告白

 



 俺「やっぱ、告白と言えばここだよな」


 俺は学校の屋上に来ていた。愛を誓う場としてはベタすぎるかと思ったが、変に人目につくような所よりも俺は鉄板コースを採用することにした。


 俺(なんか……失敗する気がしないっていうかな……)


 朝得たテンションと自信をここまで持ってこれたのは奇跡かもしれない。或いは授業中に翔太たちに鼓舞されたことも俺の背中を支えてくれてるのだろう。

 こういう勝負所で抱きがちな緊張とやらは今の俺にはなかった。


 翔太(なぁ、隆二。誰か先客がいるように見受けられるが……)

 俺(なっ、本当だ……)


 一人有頂天になってる俺はそう教えられ、初めて屋上に一人誰かがいることに気がついた。

 フェンスに背をつける形でポツンと体育座りしている誰かがいる。

 遠くでよく見えないが、髪が長いから多分女子だろう。


 俺(あれは、落ち込んでるって感じだな。事情は知らないが……取るに足りない)

 翔太(そうか、まあ君がそう判断するなら、俺は何も言うまい)

 裕賀(頑張れよっ)

 充(頑張ってね)


 三人はそれを皮切りにもう口出しをしなくなった。




 とはいうものの、あの体育座りガールは気になる。よく見れば、隠すように顔を覆うマスクに派手なヘッドホン。


 自己疎外か? あらやだ負のオーラに包まれてる。

 屋上でこんな雰囲気なやつを見たら、まず危ない想像をしてしまう。

 何か励ましの言葉を…………いや待てよ。

 あのうずくまった様子だと思い切ったことはしないのではないだろうか? 友達と仲たがいしたか、痴話喧嘩ぐらいが妥当かも。


 だとすれば俺が干渉するのは不当。

 ヘッドホンで音楽でも聴いて、心のリカバリーを図ってるんだ。




 うん、そうに違いない。




 そう俺が一人ぶつぶつ言ってるところに屋上のドアが開くことを軋み音が知らせる。


「要件は何かな?」


 由紀だった。

 由紀は俺の姿を認めるとおもむろにそう言った。

 どうしようか……いやここはやはり勢いでっ!


 俺「いやぁ〜、今日はいい天気だしさ。お前にもこの素晴らしい空気を吸わせてやろう……なんて」

「……ふ〜ん」


 ……あれ、あんまり反応がよくない。なぜだ?

 あっ……


 俺「なあ、もしかしてまだ朝のこと」

「さ〜、どうでしょうね」


 しまった! 俺は勝手にエモアゲアゲになってたけど、由紀にとって最新最先端の俺は登校中に突如発狂するマジキチなんだ。

 それをすっかり忘れてた。

 まず朝の失態について弁解しなければっ。


 俺「朝のことは本当にすまん! けれどあれはっ」

「……朝の憂鬱?」

 俺「うぐっ」

「はははっ、怒ってないよ、別にっ」


 由紀はそう言い、狼狽する俺を無邪気に笑った。

 ……一杯食わされたな。

 そうだ。由紀と俺は一ヶ月足らずのそんじょそこらの人間関係じゃないんだ。あれくらいの傷ならすぐ簡単に完治できるってことか。


「でも朝のあれは正直引いちゃったな〜。なんだったのあれ? 思春期特有の疾患? ドラマの影響?」

 俺「えっと……じゃあ前者で。あながち間違いじゃないし」


 由紀がこんな性格でよかった。それともこれも今まで積み上げてきたものの大きさか。

 しかし取り敢えず結果オーライ。

 ここでいかなきゃいつ行く?




 そうだ今行け!!

 小学生の頃の後悔はもうしたくないだろ!?




 俺「由紀」

「あっ、そうそう。話って何?」

 俺「ああ、実は……俺……」


 どうした? しっかりしろっ。今日この一瞬だけは誰の力を借りることはできない。翔太の話術も裕賀の女口説きにも頼れない。

 俺の言葉しか使えない。


 そのとき俺は反射的に由紀の手を強く握った。


「えっ……どうしたのっ、なになになにっ」


 由紀の顔がだんだん桃色に変わっていく。

 その体温が上がっていくことが、俺にもまさに手を取って伝わってくる。


 俺は「俺さ、ずっとお前のことが……」


 そうだ、ずっと好きだった。

 由紀がいれば、俺は満たされる。俺も由紀を満たせる存在でありたい。

 俺はお前が笑うだけで満たされる。これは紛れもなくお前が好きだから。


 俺は由紀をやめることができない。

 胸の高鳴りが止まらない。



 俺「俺、ずっとお前のことが好きだったんだ由紀!

 俺は誰よりもお前のことを思っている!

 だから誰よりも幸せにできる!

 だから……俺と結婚してくれっ!!」



 あっ、言い終わった後に気づいた。結婚って言っちゃったよ俺。

 俺は自分の顔が硬直しのぼせきっているのが分かった。

 それでも視線だけは由紀に固定する。

 手をつたう熱量がどんどん増していく。


 そして溜まったそれはたった一言で花火みたく弾け散った。




「いいよ……りゅうくん」




 その言葉を聞くが否や俺は由紀の体を包み込んでいた。

 緊迫した空気が消えた。そして和やかな風が俺たちを抱擁する。

 一気に気が緩んでいく。あたかも厳しい冬が終わり、桜の花が咲いた心地。

 そのせいか、俺は不覚にも腑抜けた発言をしてしまった。


 俺「本当にいいのかっ?」

「はははっ、何それ。冷めちゃうよ」


 俺はそれを受け、慌てて手に意識を戻した。

 しかし残念なことにもうさっきクライマックスだった温かさはそこにはなかった。


「で、いつにするの?」

 俺「ふぇっ、何を?」

「式はいつ挙げる?」

 俺「さっ、それは…………」

「あ〜あ、やっぱり嘘だったんだ〜」


 頰を膨らませ踵を返そうとする由紀に何か気の利いた言葉がないか、脳内辞書のページを繰りまくる。

 だが汗ばんだ俺の手は最適な言葉を見つけ出せない。

 湿って湿って何も読めなくなる。


 俺「あっ、俺はお前が好きだっ」


 ボキャブラリーが小学生レベルにまで衰退する。

 そして頭の中で今の俺を嘲る声が聞こえる。

 その声は外からも聞こえてきた。


「はははっ、冗談冗談。式はお預けにしてあげるっ。

 そっか〜、ずっと好きだったんだ〜〜。私のこと誰よりも知ってるんだね〜〜」


 ……またしてやられた。由紀は俺をせせら嗤い、返す俺の笑いも自重気味だものになる。

 なんで大いなる喜びどころか、こんな辱めを受けるんだ俺は?

 まさか告白の言葉を秒でネタにされるとは。


「い〜よ、交際を受け入れま〜す」


 由紀はそう言うと、手を振りほどきそそくさとその場から去って行った。

 それはさながら朝の光景。でも一つ違うのは彼女が可笑しいくらいに赤面していたこと。


 俺「なんだ、照れ隠しかよ」


 俺は一気にほぐれた体を地面に広げた。

 大の字になって見上げる太陽の光が俺だけを祝福しているように思える。




 今日彼女というモノを手に入れた。




 これが今後俺たちにどう作用するのか、それはきっと予測不可。

 だからこそ俺はこれからの一年を大いに謳歌できる。

 そう思っていた。

 そう、まだこのときは。




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