第2話 合体オペラ
「では、八美くん、このベクトルの問題が解けるかな?」
翔太「はい。Aを始点におき、そこからこの方程式をーーー」
「素晴らしい、よく予習ができていますね」
今は数学の授業。前にも言った通り、俺は基本的に勉学は翔太に一任している。というか、今となっては俺自身の学力は中学レベルで滞っており、頼まざるを得ない状況になっている。
……だって俺、高校受験の努力全部翔太に潰されたんだぜ? そりゃ、バックれるさ。
俺が授業に集中する必要はない。だから俺が集中していなければ、翔太に授業中の記憶が残っても俺には残らない。
暇なので俺は同じく脳内でくつろぐ裕賀と充に今日の段取りについて釘をさすことにした。
俺(なあ裕賀、充。お前らさっきは頼むって言ったけど、本当に頼むぞ?)
裕賀(分かってるさ。由紀への告白の邪魔はしない。
お前は俺の一部。つまりお前の幸せは俺の幸せになりうるからな)
俺(なんか言葉のあやを感じたが、それなら良かった。
おい、お前はどうなんだよ?)
充(僕は…………)
充はモゴモゴとした口調で言葉を濁す。感情が爆発した後には、その言動を振り返り、罪悪感で煮え返る。これが充の特徴だ。
悪癖にほかならないのだが、何度改善しようとしても治らないのが現状。
朝の大惨事が起きてしまったのもその所為だ。
充(ごめん。でも、やっぱり羨ましくって……。僕なんか、人と喋ることもままならないのに)
そして本音を曝け出す。
……まあ、充も俺が由紀と交際するのはいいってことだな。
翔太も勉学に支障が出ないならって言ってたし。
俺は肩の荷が下りた気がした。
というのも、由紀のことが好きなのは俺だけだ。裕賀、翔太、そして充も由紀と直接話したことはあるが、異性として意識したことはない。
幼い頃から仲の良かった記憶がある俺だけが由紀が好き。
だからこそ付き合うにあたり、他の三人の承諾は必要なのだ。
親に結婚の許しを貰うのと似たようなもんか。
俺(はぁ〜、好きな女性と付き合うにしろお前らの承諾がいる。気の早い話、結婚するときが思いやられる)
充(そっ、それは仕方ないよ。僕らは互助な関係なんだからっ。僕もアプリに内課金するときはちゃんと事後報告してるんだし)
あ〜、そうでしたね。月末のスマホ履歴書に見知らぬ五桁の数字が記載されてるのを発見したときは血涙出ましたよ。
俺(些事には目をつぶったとして、将来の夢とかは四人で一つに選ばないといけないだろ?
そのとき俺はお前らとまともに話し合える気はしない)
俺たち四人は趣味嗜好も特技も全く異なる。
それは長所にして短所。
俺たちが見据えているものは皆違う。
だから俺たちの感情のすれ違いは高校生活が終わるに伴い、ますます露呈してくるに違いない。
四人が別々の夢を抱いたとしたら、四人のうちの誰かが結婚した相手を嫌いになったら……そんな人生における極地における衝突は全てを崩壊に導くかもしれない。
俺は中学でこいつらが俺の中に現れた時には気にならなかったこんな不安に、ここ最近頻繁に襲われるようになった。
俺が得た、かけがえのない幸せを奪うのがこいつらなら、俺はその時一体どうするんだろう?
何ができるんだろう?
翔太(隆二、もし君が俺たちに対して気兼ねしてるなら遠慮は要らないぞ)
俺(あっ、おまっ、授業は!?)
翔太(はなから聞く心持ちがない奴にそこを指摘されたくはないが……)
あっ、そうでしたね。
俺は悪寒を感じた。授業の件ではなく、心の底を見透かされた気がしたからだ。
今のやましい考えを知られたなら、すぐに撤回しなければっ。俺はお前らのことをお荷物とはっ、人生の足枷だとは思っていないって。
……しかし翔太が気に留めたのはそこではなかった。
翔太(君がやりたいことを、君が諦める必要は皆無だってことだ。最初に決めたはずだぞ、俺たちは各自の意志を尊重する。君が由紀との交際の果てのことを気に揉んでるなら、それは筋違いだ)
裕賀(俺も赦す。先のことは心配するな。俺がお前の足を引っ張ることを憂慮するなどすこぶるおこがましい)
充(そっ、そうだよ。僕も隆二と他のリア充は別だと思ってるよ)
お前ら……。
そうか。この二年間、俺たちはここまでの信頼を育んできたのか。これを友情というのか、兄弟愛と呼ぶのか俺には分からない。
でも一つ言えることはこいつらと俺の間にあるものはそんなものを遥かに超えた何かであることだ。
俺(ありがとな……)
俺は僅かに芽生えた闇を握りつぶし、三人にその一言を伝えた。
そうだ、俺は俺がずっと好きだった女性と結婚し、俺が望む家庭を育むんだっ!
子どもは百人でも作ってやる!
そして世界中に俺の血縁をばら撒いてやるっ、そう決めた。
まだ付き合ってもいないんだけどなっ!!




