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プロローグ② 俺の中にいる四人の俺

 



 裕賀(ああ、さっきはすまない。でもあのハンバーグの味はお世辞にも美味しいとは言えなかった。

 母親の料理が俺の味覚の進化に追いついていないんだ)


 充(僕もごめん。君が寝ている間にエロゲーアプリ落とせたからついやりたくって。なんだかKYだったね)


 翔太(こらこら二人とも。まずは俺たちの紹介からしなくちゃいけないだろ? すまないな、隆二、俺の名は翔太だ)


 俺は茫然自失としていた。自分とは違う誰かの声が頭にシラミの如く湧いてくるなど前代未聞の体験だったからだ。おぞましいとか気色悪いとか奇妙だとか、色んな感情がクライマックスに達した結果、俺は放心状態になった。

 頭の中でガンガン知らない声が響くせいで、心の収拾がつかない。


 翔太(隆二、俺たちの話を聞いてくれないか?)


 一つの声が俺に話しかける。どうやら対話を望まれているらしい。

 その一見穏やかな口調は安直に信用してしまいそうになる。でもやはり俺はその声に受け答えしていいものか躊躇した。

 心霊の類とかで、頭に響いた声に返事をしたらそのままあの世に連れてかれる的な話を聞いたことがある。

 母親に放った最期の言葉が"豚の餌"では死んでも死に切れない。てか、死にたくない。


 ……でもいくら経っても、他にこの状況を切り抜ける代替案が思い浮かばないのと、今脳内にいるこいつらが怨霊とかそういう系じゃなさそうなことから、結局俺は話を伺うことにした。

 すると、律儀に無言で黙っていたさっきの声の奴が俺にこの状況に至った経緯について概括し話し始めた。






 まず単刀直入に言って今日俺の脳内に、俺とは異なる三つの人格が生まれた……のではないらしい。こいつらはここ数日の俺の行動についてそれはそれはこと細かに把握していた。

 それについてこの声の説明によると、こいつらは数日前から俺の脳内に生まれてはいた。が、それに俺が気付いたのが今日だったということだ。

 つまりこいつらは俺の体に潜み、ここ数日俺の生活ぶりを覗き見ていたわけである。考えてみるとゾッとする。


 翔太(俺たち三人は君が寝ている時に脳内会議を開いて、この現状について話し合ったり、君の体を操作したりしていた。隆二、君は今日急に俺たちが頭の中に現れていて驚いてるかもしれないが、俺たちにしてみても急に誰とも知れない人間の体の中に生まれて色々混乱していたんだ)


 とどのつまり、俺は今頭の中に三つの居候を抱えたことになる。どこから来たのか、どんな闇を抱えてるのかも定かでない三人の人間が俺の脳内に居候。いまだかつて味わったことのない不条理だ。


 しかしこのまま何もしなくては、黙っていてもことの進展は望めない。

 だからまずこいつらの紹介をしようと思う。






 一人目は裕賀(ゆうが)

 母親の料理を犬の飯と抜かし、号泣させた大馬鹿者だ。

 その上厄介なことにコイツはその件について一切悪びれていない。

 俺がそう思ったんだから言っただけ、それにあれを上手いと食うお前の貧乏舌が信じられない、と言いやがる。

 お前の舌は俺の舌だろうが。



 二人目は(みつる)

 コイツは根っからの引っ込み思案でアニオタ、ゲーオタときた。ついでにやや空気読めない、コミュ障。

 俺のアイデンティティにおける汚点以外の何者でもねーじゃないか。

 ちなみにコイツが勝手にエロゲを俺のスマホにぶっ込んだ犯人らしい。

 しかも毎日夜中には俺自身が寝てる間に、勝手に俺の体を操作し、色んな動画サイトやネット掲示板に飛んでは、コメントを書き込みまくってたそうだ。

 道理で変なメールや検索履歴があるなぁと思ってたところだ。

 乗っ取りかと思っちまうだろうが!



 三人目は翔太(しょうた)

 コイツに関しては唯一の善玉菌だ……と思う。

 なんせ、三人の中で一番協調性が有る感じがする。今の所いいことも悪いこともしてないのでかいつまんで紹介することはない。






 淡々と紹介したが、そもそも何故こいつらは数日前に突然俺の脳内に生まれたとかいう割に、ここまで人格が出来上がっているのだろう。あと、三人とも俺とタメっぽいのは何故だろう。

 その他不明な点は大いにある。例えば、なぜか翔太は勉強の知識を俺よりも持っていたり、充がやたら俺の知らないアイドルユニット名やゲーム名を知っていたことだ。明らかにそれぞれに人生経験がある。

 しかし、それを三人に問い詰めても首を振るばかりだった(つまり俺の首が勝手に三度回る)。

 翔太たち曰く、こいつらは気がついた時には既に個々の自我と知識とを持って俺の脳内に誕生しており、それ以前の記憶は覚えていない、或いは持っていないということだ。


 俺に説明をし終えた翔太は四人で今後について、公平な立場で話し合いをすることを持ちかけた。




 俺(どうするもこうするも、お前ら出ていけよ。俺は頭の中に他人が居候するなんて認めないからな)


 翔太(それは出来ない相談だ、隆二。俺たちが君の別人格として生まれた理由など俺たちにもわからないんだ。従って消える方法もわからない。今はこの状況下で今後どのように生きていくのかを決めるのが先決かと思わないか? 少し頭を冷やして考えよう)


 裕賀(俺も翔太に賛成だ。むしろお前こそ大家みたいな口を叩くな、おこがましい。俺はお前の指図など受けない。

 俺の前に広がる道があるならそれだけを歩み続ける、ただそれだけだ)


 充(ぼっ、僕も翔太に賛成だな。僕は別にこの体の統治権なんて握ろうとは思わないけど、消えちゃうのは嫌だし。まだ昨日入れたゲームのチュートリアルも終わってないし、昨日にサイトにアップされた某アイドルライブのライブビューイングも見終わってないし)




 ……なんだこの状況は。

 翔太があたかもリーダー的な立ち位置になるし、俺だけなんか疎外されるし、マウントとる余地がない。そして話は勝手に進行する。



 翔太(まずお互いに最低限の人権は守るように心がけよう。一つの体を四人で共有となると、色々不備も生じるだろう。でもそれが俺たちのデフォルトになる)



 どうやら俺の不満は悟られていないらしい。

 分かったことだが、こいつら三人とは脳内で話し合えるとはいえ心の奥底で思っていることまではバレないようだ。体の感覚器官とか運動器官は共有で、意識は個々で独立しているわけだ。

 つまり俺自身が眠りについていたとしても、他の三人の誰かが俺の体を俺が知らない内に動かすことも可能ってことだ。

 だから俺が気づかない間に充がゲームアプリをダウンロード出来たのか。


 充(じゃっ、じゃあ真夜中は僕がこの体動かしていいかな? 学校は嫌だし……僕はほらっ、ゲームしかできないじゃん?)


 知るかよって言うんだ、お前の特技とか趣味趣向とか。


 裕賀(俺は真夜中でも昼間でも俺が使いたいときにこの体の操縦をやらせてもらう。まあ俺がずっとそうすべきなんだろうが、生憎それはかったるい。すまんな)


 お前のことはよく分かった、裕賀。

 一体全体どうやったら数日でそんな高飛車な人格に育つんだ?

 俺はそんな子を育てた覚えはないぞ。



 ってか、コイツら統治とか操縦やら言ってるけど、もしや誰がこの体を支配するかって話をしているのか?



 俺(おいおい、冗談じゃねーぞ! これは元々俺の体だ。

 俺が常時動かすかってのが、定石だ!)


 裕賀(お前は本当にオツムが緩いな。そうやって上から物を言うのはやめろ。それにこんな超常現象に定石という言葉を用いるとは滑稽だな)


 ぐ〜、腹が立つ。でもなんか言い返せないのが悔しい。

 でも裕賀の言う通り、俺がこの体の家主とかそういうのを主張するのは止した方がいいかもしれない。

 ここで孤立したらヤバイ。



 ……自分の心の中で孤立ってどういう状況だよ。



 翔太(まず各々がこの体にもたらす恩恵や、この体に対する要望などを述べていこう。

 四人でなんとかこの体を一人前に育て上げよう)

 裕賀(ああ、それがいい)

 充(僕も賛成)




 っつうか、なんやかんやで翔太がリーダーだな。

 ……なんか……俺は別にクラスの主役とかそんなんじゃないけどさ、ここでリーダーになれないなら、一生そういう立場になれない気がするよ。






 ……そして話し合いの結果、我が隆二の肉体の中に翔太を総理大臣とする民主国家が誕生した。

 四人の国民が一人一人、自らの役割を果たし、且つ人生を謳歌する。それがポリシーだ。


 翔太は総理大臣に就任するが否や俺にこう言った。


 翔太「高校受験は俺に任せろ隆二。実は俺は君よりも勉強が出来ちゃったりする」


 何の権利も持たない平民隆二はその有り難い言葉ににっこりと微笑んだ。

 ああ……こうやって俺はこの先色んなものを失っていくのだろうか。




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