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第13話 生まれたて①

 



 ……鬱になりそうだ。



 中学三年、世の同級生が受験に向けていよいよ大詰めだという中、俺はとんでもない穴場に落ちてしまった。

 心なしかいつもの登校する道があわよくば、デスロードに見えてくる。


 裕賀(おい隆二。お前の心が暗くなると、同じ頭の中にいる俺の気持ちまで暗くなる。さっさと歩け、愚図がッッ)


 原因はこれだ。俺の中にいるまた別の何か。昨日の夜、突如俺の脳内に姿を現した三つの人格のうちの一つ、裕賀だ。


 俺(はぁ〜、わかったわかったって!! 黙って何も考えずに歩けってんだろ? 今お前、腹減ってイライラしてるもんな?)

 裕賀(そうだ……って断じて違う。貴様如きにこの俺の心が読まれてたま……読めるはずがないっ!! 俺は今……今……便秘なんだ!!)

 俺(…………)


 そっちの方がダサいし臭いし、俺は今腹痛感じないから嘘ついてるってバレバレだしなんなんだコイツは?

 裕賀……本当に気に食わない奴だ。


 コイツは今日も母親が作った朝食を俺が口に運ぶのを拒んだ上に、皿に盛られたそれらを床にぶちまけたのだ。

 よって俺は朝飯を失い、極度の飢えに苦しんでいる。


 充(ねぇ僕昼は食べた方がいいと思うんだよ、裕賀。

 流石にこのままだと体が持たないし……)

 裕賀(却下だ。中学校の昼飯は給食だぞ? 給食係の手が汚かったらどうする!? 彼らの唾や髪の毛が具の中に入ったらどうする!?

 もしそれらを免れたとしても運ぶ際に他のはしゃぐ猿どものせいで埃が立つなど必至!!

 あんな不衛生な環境で食事を取るなど狂気の沙汰だっ!)

 充(そっ、そんなことないよ! もし給食の米の中に女子の唾液が入ってみろよ? それはもう間接キスじゃんっ!)

 裕賀(はっ、くだらん!! 間接キスに反応する者は童貞と処女だけだ)

 翔太(おい裕賀。君は今この上なく、自分の発言に苦しめられているぞ)




 ……いや、もうこれ共存は不可能だろ。

 裕賀にしろ充にしろ、数日前まではよく俺に存在を気づかれないように潜んでいられたなって思う。

 だって俺の頭の中でもうこんなにも会話が展開されている。


 俺(おい裕賀、給食は食うぞ。腹が減っては戦はできない。俺は今受験という戦のために常にエネルギッシュな体調とメンタルを保たないといけないんだっ!)

 裕賀(ふん、くだらないな。そうして受験して高校に受かって何になる? お前は誰もが行くのと同じルートを辿ることしか眼中にないのか?

 そうしてゆくゆくは高校も大学も卒業し社畜にーーー)

 俺(ああ〜、わかったわかった。お前にはなんか別にしたいことがあるんだな? わかった聞いてやるよ。勉強の合間にできそうなことならなんでもオッケーだ)

 裕賀(……いや、ない。あったとしてもそんな高飛車な態度なお前には決して話さない。俺の道は俺のみぞ知る)

 俺(…………)



 ……こいつ、ぶっ殺してもいいかな? 殺せないけど。

 つーか、さっきからわがまま言い過ぎだろ。いくら昨日の晩の脳内会議で翔太が個人主義をポリシーに掲げていたとはいえ、翔太はのさばりすぎだ。ガ○イのガイだ。


 翔太(裕賀! 君は何か勘違いしていないか?

 大手を振るっていいってことは自分勝手を許すってことではーー)

 俺(あ〜もういい、いいよ翔太)

 翔太(なっ、隆二?)


 これ以上は馬の耳に念仏。裕賀が態度を一変することなんてあり得ないだろう。

 ならば、これは放置するしかない。ウザくて気に食わない奴は放っておけばいい。

 返って関係がこじれるくらいなら、もう何も話さなかったらいい。




 だから……頼むから学校でだけは大人しくしといてくれよ。






 そして学校に着いた。


「おっ、隆二。おっはよ〜〜」

 俺「おはよう、美希。今日も綺麗だ。香水変えたのか?」


「隆二。昨日俺の父ちゃん知らない女と寝てたんだけどよ〜〜その女がこれまたナイスバディで……。

 正直、今の母ちゃんよりその間女の方が、俺いいんだ……」

 俺「龍我、その間女とお前の母ちゃんの前に立ってお前のナニを握ってみろ。ナニが反応した方がお前の本当の母親だ」


 俺は教室に入るなり、話しかけて来たクラスメイトたちと当たり障りない会話を交わした。その間、案の定裕賀たちは何の言動も発さなかった。

 やはり、内弁慶ではないとはいえ裕賀たちもよっぽどのことがない限り俺とクラスメイトとの会話に横槍を入れてくることはなさそうだ。


「隆二、この三角形の面積の求め方が分からないんだ」

 俺「ああ、いいとも。教えてやる。お前クソ雑魚だもんな」


 誰も俺の中に別人格が潜んでいることになど気がつかない。まあ、後天的に別の人格を授かるなどかなり稀なケースだから、もし俺が普段しないような発言をしても奇をてらっている程度に捉えられるのかもしれないな。

 それでも変な印象がつかないのに越したことはないが。

 なんの影が差すこともなく淀みなく進むコミュニケーション。それから特に何ごともなく午前の授業は過ぎて行った。




 そして正午! さあ、ここからが本番だ。

 給食の時間が来た。




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