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第11話 混沌

 



「なんでブランコ?」

 俺「差し当たりのいい椅子がなかったからな」

「じゃあさっきの遊具でよかったんじゃないの?」

 俺「お前さ。親の説教とかを犬に跨って聞く?」


 猫に跨りながら真剣な話をするのは流石に体裁が悪い。

 俺は由紀をアンパンのキャラクターがチェーンに描かれたブランコに座らせた。

 ブランコなど所詮、漕がなければただの椅子だ。リストラされたりいじめられたりした大人や子がよく座ってる。


「それでなぁに、その話?」


 由紀がつまらない話だと割り切った様子で促してくる。いきなりムーブを乱されたからな。


 常人ならここで、多少勿体ぶったりとか前置きを挿入したりするんだろう。でも俺はいろんな意味である意味常人じゃあない。

 俺は直球で由紀に告げた。



 俺「俺、実は今の俺以外に三つの人格を持ってるんだっ!」



 言ったが最後、心臓がバクバクと振動し骨に響く。

 隣を見れば由紀の反応も確かめられる。

 でも俺は続けた。確かめられなかった。



「そいつらはみんないいやつらで、みんな俺の兄弟みたいなものなんだ!! 本当だ。だから……そいつらのことを由紀にも知って欲しいんだ!!」



 全てを吐き出した後、俺は心臓が更に激しく鼓動するのを感じた。恐らく四人分の鼓動が響いてる。

 俺は黙って由紀の返答を待った。

 でも由紀は窮さずにすぐそれを返した。



「知ってたよ…………」



 俺「えっ…………?」




 俺は自然と下がっていた頭を上げた。

 気がつけば由紀は俺の前に仁王立ちしていた。


 なぜ知ってる?


 その疑問はすぐに消え去り、新たな疑問が浮かんだ。



 なぜ泣いてる?



 しかし、その答えは聞くまでもなかった。


 大粒の滴と拙い比喩では表しきれないくらい冷たい感情を包含した涙の結晶が俺の膝元で崩れ散る。それは由紀からのメッセージを暗示していた。

 俺は全てを後悔した。



「別れよ……」

 俺「なんでっ!!」



 今度は俺から出た涙が由紀に降りかかる。由紀に俺のメッセージが届く。そしてまた由紀のメッセージが俺に届き俺のメッセージが由紀に届く。

 そしてーーー


 そこからの会話は涙の垂れ流し合いだけで事足りた。

 それはさながらエンドロールのように。




「分かるよ。りゅうくんがりゅうくんじゃないときくらい。だって世界で一番愛してる人なんだもん」

 俺「だったらなんでっっっ!!?」

「逆になんでわからないのっ!? 私はりゅうくんだけを愛していた! なのにりゅうくんは私に嘘をついてたっ!

 勉強ができるりゅうくんサッカーができるりゅうくん、通学中急に発狂するりゅうくん。あなたは全部それわ自分だって嘘をついてた!!」

 俺「それは……由紀、お前に喜んで欲しくて、まだバレたくなくて……」

(ここで由紀からのビンタ×四)

「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つきっ! それで私が喜ぶと思ったの!? 嘘偽りの魅力や言葉を自分のものだと言い張って、私を喜ばせたかった!!? そんな事情があると知ってれば私もその翔太くんとかいう人と友達として付き合ってたかもしれないのにっ!」

 俺「だっだから俺は今日今ーーー!!」

「……もう遅いよ。嘘で塗り潰されちゃった後に、そんなこと言われてももう遅いよ。ねぇ今日のデートは何パーセントがりゅうくんだったの? そもそもりゅうくんはいなかった? 私には分かるよ。初めてのデートでさえりゅうくんは嘘をついてたんだね」

 俺「由紀……」

「もう今の私には今のりゅうくんが汚れた汚い絵の具にしか見えない。黒ずんでしまった色はもう元には戻らない。

 私のりゅうくんはもう過去にしか……私の心にしかないんだね。

 さよなら……名前なき人」






 そして由紀は俺を残し去って行った。まだ由紀が座っていたブランコは温かい。スプリング遊具さえまだ揺れてる。

 ほんの僅かな時間で俺は全てを失った。

 言わなければ……由紀はまだ……いやどうせなくなる運命だったのだろう。


 俺はメモアプリを開いた。

 翔太たちと幾日かけて考え抜いたデートプランがそこには記されていた。

 翔太が調べてくれた顔から心を読み取るワザ。

 充が徹夜で調べてくれた行くはずだったデートスポット。

 裕賀が綴った女殺し語録。

 何一つ俺の色はなかった。

 虚偽虚偽虚偽虚偽虚偽虚偽虚偽虚偽虚偽虚偽虚偽……これが俺の色。



 俺は翔太たちが見ているかどうかなんて配慮せずにそれらを全て削除した。

 俺は今日一人の彼女を失った。




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