第10話 初デートその3
由紀が行きたかった場所はなんて事もない、俺の家の近所にある公園だった。
俺「まさかここが最後に来たかった場所なのか?」
「うん。締めくくりには丁度いいでしょ」
俺「締めくくりって……」
俺はもう既に日が沈みかけているのを見た。そろそろ、おいとまの時間が来ているのか。もっと朝から遊ぶ約束をしておけば良かったな。
俺は何日もかけて練ったこの日のプランを全然実現化出来ていなかった。というのもプラネタリウムの後、赴きたい処があると由紀が言ったのは今日当日だったからだ。まあ予定立てしてあると事前報告しなかった俺が悪い訳だが。
「ねぇ、見て見て。このタコの遊具全然変わってないっ!
あっ、このデッカい滑り台もまんまだっ、錆びれてるけど」
由紀は分け目も振らず犬のスプリング遊具に乗り込んだ。そして途端に犬から激しくクラッキング音が鳴る。
言って園児向けだからな。小さい子がいなくてよかった。
俺も手招きする由紀に誘われ、渋々由紀の隣の猫のスプリング遊具に腰を下ろした。腰が意思にそぐわず揺れる感覚が懐かしい。
この公園は公園といってもかなり広くて、ぶっちゃけると東京ドームの半分くらいの敷地面積がある。その為、二つの市に跨っており、管理問題に置いて懸念点があるとたびたび地方紙でも取り上げられている。
とはいえ、やはりその広さと遊具の豊富さは行く場のないものたちには格好で、休日の昼間には親子連れからお年寄りまで、地元住民の寄り合いどころになっている。
俺「やっぱり年々人足が途絶えてるからな。ここ最近は新しい遊具もできてないんだ」
「え〜だから余計人が来なくなるんだよ。もっと公園内にキャンプ場とかコンビニとか野球場とかテニス場とか色んなもの増やせばいいのに」
俺「落ち目の公園にどれだけ求めてるんだよ」
しかし由紀の言うことにも一理ある。こんだけ広ければいくら遊具を作っても持て余す土地は出る。実際遊具があって子供の遊び場として機能してるのは全面積の三分の一に満たない。他はもはや公園という名の空き地だ。
いっそ土地を分割して、レジャー施設運営の会社に売ればいいのに。ここ東京に置いてこれほど贅沢な土地の使い方があるだろうか。
「ねっ覚えてる? よく小学校の頃クラスのみんなでこの公園に遊びに来てたよね」
俺「ああ覚えてる覚えてる。他に行くところがなかったからな。校区外に行くのは御法度だったし」
「だから私の小学校の頃の思い出は全部ここに詰まってる。転校した後もずっとこの公園が恋しかったんだ〜。転校なんてしたくなかったよ〜」
由紀がこの公園に来るのは小学校以来らしい。
というのも由紀は小学一年だった頃にとある事情で他区に引っ越ししてしまったからだ。
当時俺は、由紀が近く転校する事実とその事情とやらを知らなかった。だから俺が指を咥えてる間に由紀は転校してしまった。
高校で再会し、一年が経った今も由紀は急に引っ越した理由については隠匿している。
「私は……もっとみんなとここに来たかったな。せっかく学校に馴染み始めたばっかりだったのに」
俺「そういえばお前小学校に慣れるまでにかなり時間がかかった口だったな」
「あ〜もうそれそれ。ほんっとに最初は辛かったよ」
由紀は小学校に入りたての頃、殆ど周りと口を聞かなかった。というか、飛び方が分からない雛鳥が急に独り立ちを督促されたみたいにコミュニケーションの取り方が分からないみたいなところがあった。
「私、幼稚園にも保育園にも入園してなかったから。距離感が分からなかっただよな〜」
俺「入学時の友達俺だけだったもんな」
「うっさい! まあ事実だけど」
由紀が揺れながら、そっぽを向きふてくされる。冗談めかしにご機嫌斜めを装ってるが手に取るようにわかる。こうやって自分の心を露わにすることが昔由紀は苦手だった。こういう人間は必然的に孤立する。
でも俺だけは入学前から家が近いという理由で由紀との交流があった。俺だけが由紀が一人を望んでいないことを知っていた。
だから俺は由紀を出来る限りクラスの輪に入れるよう計らった。ただ俺の由紀をみんなに知ってもらいたい、その一心で。
「とはいえ、私の友達が増えたはりゅう様のおかげか〜。感謝感謝」
俺「そのセリフ目を合わせて言うべきだな。後言うのが十年ほど遅い」
「え〜、そこは素直に謙遜するところでしょ。気恥ずかしいからに決まってるじゃん」
別に鼻にかけてもいないから謙遜する必要もない。ただ俺のおかげで由紀が外向的になれたなら、俺は幼い俺に感謝したい。そのおかげで今由紀と恋人同士になれたのだから。そう、昔の俺のおかげで……
……いや、それだけか?
「どうしたの? 神妙な顔つきになって……」
俺「うわっ、急にこっち見るなよ」
「君が向けって言ったんじゃん」
由紀がまたむくれる。でも俺は先にそのご立腹に対処する前に今頭に浮かんだモヤモヤを晴らすことにした。
今の高校に受験し見事合格したから由紀に再会できた。
サッカー部で活躍したから、由紀に漢としてカッコいい姿を見せれた。
あの日由紀に自分の気持ちを伝えられたから、由紀に告白出来た。
……全部、あいつらがいたからこそじゃないか。
受験に合格出来たのは翔太のおかげ。
サッカー部に入れたのは裕賀のおかげ。
由紀に告白出来たのは充たちが背中を押してくれたおかげ。
今由紀と俺で、まさに文字通り一対一の会話ができているのもあいつらがそう気遣ってくれているおかげ。
由紀が転校した理由を言わないなんて本当に些細なことだった。
本当に由紀を愛してるなら、俺は今由紀に伝えなきゃいけないことがある。
俺「由紀、話したいことがあるんだ」
「えっ……今の今まで話してたことはなしですか?」
俺「うん、なし。真剣な話」
俺は話す前に河岸をブランコに変えた。




