第9話 初デートその2
新宿駅。東口改札から出れば、街頭ビジョンがまず目に入る。上手い果物屋や、ラーメンチェーン店が所狭しと並ぶ場所があり、少し歩けばアニメショップや大型電気店、映画館にも行ける。
俺と由紀はそこから出て、斜向かいにあるビルの最上階に向かった。
「まさかこんな場所をチョイスするなんてね〜」
俺「へっどうだ? 割とセンスあるだろ?」
「う〜ん、及第点かな。夜ならもっとロマンチックだったけど……童貞だから仕方ないね」
俺「今物凄い言葉の針を感じたが」
俺と由紀は談笑しながら、そのビル内を回る。
俺たちは今"新宿コズミックファンタジア"というイベントモールに来ていた。ビルのワンフロアーを丸々貸し切って行われているイベントであり、建物内は宇宙を模した薄暗い雰囲気に装飾されている。正直昼とか夜とかそんなことはわからない。
ショッピングエリアや専門的な資料が展示されたエリアなど、目移りするものは沢山あるが、俺はプラン通りの場所に由紀をエスコートした。
「ようこそ、星と神々が織りなす神秘の世界へ。お二人様ですか?」
俺「はい。先行予約していた八美ですがーー」
「承っております。暫しお待ち下さい」
俺たちは会場の最奥にあるエリアに案内された。そこはプラネタリウムが上映されている部屋だ。
俺はそこに足を踏み入れた途端、ややガックリした。
俺(人がいるじゃないか)
まあ当たり前といえば当たり前だが、既に何人かの客が上映時間を前に座席に腰掛け、待機していた。
俺(わざわざ白昼を選んだのにな〜)
翔太(無人だったらだったで過疎すぎるがな)
充(おかしいな〜、僕が調べた所じゃこのイベント自体結構穴場なんだけど)
座席は投影機を中心とし、円状に並んでいる。
俺と由紀は取り敢えず、奥の見上げる角度こそ悪いもののあまり人が居ないところを選んだ。
そして時少なくし、上映開始の放送が流れた。
「間も無く上映開始致します。上映時間中の携帯の操作及び私語は、有事でない限りお控えください。また上映中の退室は出来ません」
すると、西洋のクラシック音楽とともに部屋全体に冬の満天の夜空が映し出された。俺は予想外に感極まってしまった。
「スゴイね。私プラネタリウムはお初だな。りゅうくんは来たことあるの?」
由紀が小声で囁く。人が居ない場所を所望したのはこうした会話を成立させるためだ。夜空をダシに由紀の心を射止めるセリフを一発や二発かましてやろうという魂胆が俺にはあった。
俺「いや……実は俺も初めてだ。それにこういうのは……恋人同士で来るもんだろ? 例えば……お前とか?」
俺はチラリと由紀の横顔を伺う。さりげなさ過ぎたのか、意にも介してない様子……あれ、なんかキモかったか今の?
充(いや今のはキモすぎるよ)
俺(じゃあどうすれば良かったんだよ)
翔太(裕賀はまだ傷心気味だしな。致し方ないな。俺が代わろう)
バトンは翔太に渡った。仕方ない。ここは翔太に雰囲気作りをして貰い、トドメとなる決め台詞を俺が放つことにしよう。
翔太「なあ由紀さ……由紀! 星はどうやってできてるのか知ってるか?」
「ん、お星様クイズ?」
成る程、予備知識の披露か。差し詰め博識ということが示唆され、印象アップ出来るという訳か。
よし頼むぞ、翔太。厨二病と思われぬ程度になっ!
「さあ〜、確か隕石同士がぶつかるんだっけ」
翔太「地球はそう出来たとされてるな。でも星はちょっと違って、まず原始星という大きなガスの塊があってそこに、小さなガスの塊がくっついていくんだ。それが次第に大きくなって一つの星が生まれる」
「うっわ〜、詳しいんだね。まるで星博士みたい」
翔太「地学選択だからな、俺は。講義を聞いてればこれくらい訳ない」
上々だろう。実は知ってました感も出ている。しかしそこからどうやってドラマチックな展開に運ぶのか。
翔太「今は簡略化したが、実は過程の中に核融合反応というものがあってだな」
「ふむふむふむふむ」
あれ、まだ知識を見せびらかすつもりか? もういいだろ?そろそろ頃合いが…………
翔太「水素原子からヘリウムを作る活動が生まれるんだ」
「へっ、へぇ〜〜。そうなんだーー」
いやいやいや、もうそれ以上の踏み込みはいらないだろ。専門生じゃあるまいし。それに由紀だんだん疲れ顔になってるぞ。
翔太「そしてーーー。一つの星が生まれる。星が生まれるのにはそれこそ何百万年とかかる。その星々が集まって星座が出来るんだ」
「そっか。じゃあなんだか今夜空に見上げている星座があるのもなんだか運命的な気がするね」
翔太「そうだ。一つでも欠ければ今のそれは無い」
あれ、なんだかいい感じになってきたのか? ないしはその由紀が都合の良い解釈をしてくれてるからか?
翔太(隆二。下ごしらえはしておいた)
俺(えっ、ふぁ。ありがとう)
俺は翔太から匙を受け取った。
俺「あっ、えっと……」
「うん、どうかした?」
まずい、すっかり聴く側に回ってしまっていた。これといった文句が浮かばない。この後に続く最適解が見つからない。そうこうしてるうちに由紀は徐々にプラネタリウムの世界に入り込んでいる。
俺「はっ、がっ、がががっが……!!」
俺はタイミングを失ってしまった。
そして数十分後、上映が終わった。目にとっては余るほどの飽食だっただろう。しかし俺はその得た栄養を口に送り込めなかった。洒落た言葉の一つ思いつかなかった。
「ああ〜〜綺麗だったね星空。都会じゃ中々見れないし、ある意味非日常的な体験だったかも。ねぇ、そう思わない?」
俺「う……そだな」
「どうしたの? 元気ないけど?」
俺は翔太が由紀に言ったことを顧みていた。
俺が今由紀と恋人としていられるのは翔太たちのお陰なんだろう。きっと俺の体が俺一人のものなら俺は由紀に告白なんて出来なかった。俺の中に新たなる三つの心が生まれたことで、俺と由紀のカップリングが生まれた。でも俺は……核となるはずの俺は……大事なところで蔑ろにしてしまった。それが悔しく、申し訳なかった。
俺「……問題ない。少し余韻に浸っていただけだ。ところで次はお前が行きたいところだっけか」
「うん、そうそう。おっとその前に時間を確認しないとね」
由紀が腕に巻いた華奢な時計で時間を調べる。でも俺にはその必要はない。今は午後四時三十分。予定通りの時間だ。俺は今予め定められた路線上にいる。
充(大丈夫だよ隆二。次で挽回すればいいよっ)
翔太(そうだ。何もマイナスになどなっていない。むしろ由紀さんは満足してるじゃないか。君は間違いなく好感度を上げられている)
二人が励ましの言葉をかけてくれる。そうか、この二人の為にも俺は頑張らないといけないのか。
俺(ああ、ありがとう。緊張していい言葉が出なかったんだ。次はキメる)
俺はそう強がった。
そして俺と由紀は次の目的地に向かった。




