ホームに立っている男
ギギキキィィー! ドン!!
「キャァァー!」
「人が落ちたぞぉー!」
「飛び込みだぁー!」
電車の前に人が飛び込み急ブレーキが掛けられたが間に合わず弾き飛ばす。
弾き飛ばして十数メートル進んで電車は止まる。
ホームの周辺では遺体を見て嘔吐する人、顔を背けその場を離れようとする人、スマホを片手に事故現場を撮影しようと群がる野次馬で混雑していた。
地下鉄のホームに男が1人立っている。
男は何故ここに立っているのか思いだせないでいた。
残業続きで疲れた身体を引きずるように階段に向かって歩いていた筈なのに。
考えるのを止め動こうとしたが足がいうことをきかず動けない。
左右を見回し駅員が歩いて来るのを見て声を掛ける。
「すいません、肩を貸して頂けますか?」
聞こえなかったのか駅員は歩みを止めない。
もう一度先程より大きな声で頼む。
「すいません! 肩を貸して貰えませんか」
「ハアー」
溜め息をつき駅員が男の方を見た。
「何か用か?」
「何故か動けないのです、肩を貸して頂けませんか?」
「あんたはそこから動く事は出来ないよ」
「え!?どういう事ですか?」
「だってあんた地縛霊だから」
「は? どう言うこと?」
「あんたは一昨日その場所から飛び込んだ人だと思う。
地下で自殺すると、地上で自殺するのと違って魂がその場から動けずに地縛霊になるのだよ。
上を見れば分かるだろうけど、何処かに行こうとしても天井に阻まれて行けないからな」
「そんな………………
私は未来永劫此処に縛り付けられるのですか?」
「否、あんたらが見えてしまうのは俺のように霊感が強い奴だけだけど、放置するわけにもいかないから2年に1度全駅で一斉にお祓いが行われる。
だからそれまでの辛抱さ。
お祓いが行われるまでそこで、俺達駅員や鉄道会社に迷惑かけた事を反省しているのだね」
駅員はそう言って歩み去った。