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第9話 ミラーニャの踊り

一皮むけたじゅくじゅく坊ちゃん。

ポルトレシアの伝統芸能をじっくり堪能

 翌日の朝。

 デューンは、安定感のあるベッドでの深い眠りから目覚めた。

 半分寝ぼけ眼で、トイレへと向かう。

 そこには、ダイアンが控えていた。

 デューンとともに、トイレに入ろうとしたダイアンを片手を広げて止める。

「一緒に入らなくていい」

「しかし、デューン様の健康状態を知るためには・・・・」

 デューンはダイアンの方を見て言った。

「自分の体調は、人に見られなくても分かる。朝のトイレでメイドに体調管理させるなんて、どこのエロ親父が考えた事だか知らないが、もう俺には無用だ」

 ほう、ようやく気付いたようだ、じゅくじゅく坊っちゃん。

 まあ、カシーネに思いっきり握られて、一皮も二皮もむけたってことかな。

 そんなことで始まったポールトの二日目は、王妃名代の歓迎式典。

 場所は、港を一望できる小高い丘に建てられた豪奢な館の前にある広大な庭園で開かれた。

 庭園には人があふれ、南国特有のリズミカルな音楽と踊りがデューンの前に次々披露される。

 そこへ、一人の男がデューンに近づいてきた。

「はじめましてデューン男爵。わたしは、ポールトの貿易商ドルコス。もとはシデオール市民でしてな。久しぶりに故郷の人間にお会いできて光栄に存じます」

 デューンは、握手を求められ、仕方なしに握手する。

「この広大な庭園はドルコス邸の一部。ドルコスはポールト一の資産家なのです」

 ノーケイマンが言う。

「オキーニュの貿易で当たりましてな。デューン男爵はポールト産のオキーニュを?」

 ドルコスがにこやかに言う。

「いや」

「それはもったいない。シデオールで流通するオキーニュとは比べ物になりませんぞ。ポールトに来たからには、ぜひお試しください。ポールトの中でも各島ごとでオキーニュの風味が変わる」

「俺は、オキーニュよりチャッカーが好きでね。シデオールで出回っているオキーニュの味はよくわからないな」

「それでも、是非お試しを。チャッカー好きでも後悔はしませんよ」

 デューンの嫌味も笑顔で受け流すドルコス。海千山千の豪商は、デューンのいやがらせなど全く意に介していない。

「おっ、そろそろ始まりますな」

 ドルコスが、広場の方を見て言う。

「何が始まる?」

「ミラーニャの踊りです。ウールクラールには数々の踊りがありますが、ミラーニャの踊りだけはここでしか見られません」

 ノーケイマンが言う。

 すると、数人の若い女が檀上に現れた。女性たちは胸と腰だけ巻き物を巻いただけのセクシー衣装だ。特徴的なのは、伸縮性のある紐にぶら下がった木の実のような物をいくつも腰に巻いたベルトからぶら下げていること。

「あの腰からぶら下がっているのは何だ?」

 デューンが聞く。

「あれは、ミラニの実。そして、ミラニの実がついているあのベルトをトルテスと言います。他であんな衣装を見たことはありますか?」

「いや、初めてだな。なんであんな恰好をしている?」

「踊りが始まれば分かります」

 音楽が始まり、女たちが踊り始める。

 女たちが、リズムに合わせて腰を回転させると、どういう仕掛けかトルテスも回転し、ミラニの実が遠心力で宙に浮く。女性たちは腰を回しながら互いの位置を入れ替える。しかし、舞いあがったミラニの実はぶつからない。

 まさに熟練の動き。見事としか言いようがない。

 最初はゆっくりだった入れ替えのスピードが次第に速くなっていく。

 それでもぶつかりそうでぶつからないミラニの実。

 そのスピードが最高潮に達したとき、太鼓のリズムが止まり、唐突に踊りが終わった。

 一人だけが壇上に残り、他の女性たちは壇上から降りていく。そのかわりに、棒の先に車輪を横に寝かせたような台が、壇上に立てられた。見た感じは、生地のないビーチパラソルってとこか。車輪の外枠には、綱が巻きついていて、綱の先には木の実のような物が付いている。

 太鼓のリズムとともに、踊り子は両手を真上に上げ、腰だけを回転させ始める。腰だけが激しく動き、他は微動だにしない。腰にぶら下がったミラニの実が舞いあがり始めると、台の上に置かれた車輪が回転を始め、それとともに巻きついていた綱がほどけて、木の実のような物が次第に降りてくる。

 やがて、踊り子の腰の位置まで木の実が降りてくると、それに踊り子のトルテスから伸びたミラニの実が当たって、外側に弾き飛ばした。その木の実が弧を描いて戻ってくると、踊り子はミラニの実で、再び外側に弾き飛ばす。

 何回外側に弾き飛ばしたろうか。

 再び、外側に木の実を弾き飛ばすと思った次の瞬間、車輪から降りてきた木の実が突然破裂した。

 人々から歓声が上がる。

 驚き顔のデューンを見て、ノーケイマンが言う。

「あれは、爆発ジク。何回か衝撃を与えると突然爆発する。その回数は決まっていないが、爆発するまで爆発ジクをミラニの実で弾き飛ばすことができれば、一流のミラーニャの踊り手と評されるのです」

「最後に爆発する踊りは初めてだ。ここでしか見られないというのは、そのとおりだな」

「ポールトでは、女の子はミラーニャの踊りを小さい頃から覚えるのがならわし。しかし、このような舞台に立てるのはわずかです」

「じゃ、ダイアンもミラーニャの踊りを?」

 半分冗談のつもりで、デューンが振ると、

「ダイアンも、かつては一流のミラーニャの踊り手でした」

 ノーケイマンが、満面に笑顔を浮かべて言う。

 デューンが振り返ると、ダイアンは少し気恥ずかしそうに顔を赤らめていた。


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