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第8話 メイドの資格

自信をなくしたメイドをその気にさせたのは何と‥‥!

 ポールト港を一望できる露天の浴槽に浸かるデューン。

 その浴槽の端には、ローディンが浴衣に着替えて立っている。

「・・・・どう思う。ローディン」

「どうもこうも、デューン男爵はただ今相手の罠のまっただ中です。本来ならこんな危険な場所からは一刻も早く逃げたいところですが、うわべ上は王妃の名代。ビラキューソカーニバルの開催が終わるまでは、ここに留まらなければなりません」

「心が重いな」

「そんな心にもないことを」

「ばれたか。それより、気になることが」

「なんです?」

「ウエステリアに来るはずだったメイドのことだ」

「ほう。いつもメイド選定には無関心だったデューン男爵とは思えぬ発言」

「違う。メイドがいないと、いつまでたってもお前がこんな感じで俺のそばにいることになるんだろ。それが嫌なだけだ」

「わたしは、全然嫌ではありませんがね。それも、ここから出たらノーケイマン公爵に確認してみましょう」

 だが、それを確認することはなかった。

 風呂から上がり、部屋に通されると、そこにメイド服を着た若い女性が待っていた。

「お前は・・・・」

「ダイアンと言います」

 ダイアンがお辞儀をする。

「ダイアン?」

 そこへ、ノーケイマンが後から部屋に入ってきた。

「先ほど、カイウス提督が送り届けてくれました。ダイアンは、わたしがウエステリアに送ったデューン男爵のメイド。ウエステリアに向かう途中海賊に誘拐されていたのです」

「そうか。どうりでどこかで見たような気がしたわけだ。お前は海賊に誘拐された女のうちの一人だったんだな。なぜ、船の上で俺のメイドだと名乗らなかったのだ」

「わたしは、デューン男爵のメイドであるにもかかわらず、デューン男爵が海賊に剣を突き付けられた時も何もできませんでした。自分の命が惜しかったのです。わたしは、デューン男爵のメイドとしては失格です」

 ダイアンは、デューンを見て言った。

「デューン男爵。わたしは、王妃からメイド任免の権限を得ている。もし、デューン男爵が望まれるのであれば、ダイアンを罷免することもできる。どうしますか?」

 ノーケイマンが落ち着いた口調で言う。

「海賊に囚われたあげく、危うく船とともに沈みかけ、ようやく助かったのに、主のために命を捧げられなかったからと自分を責めているのか」

 デューンの言葉に、ダイアンは下を向いて黙ったままだ。

「もう一度、俺に命を捧げろ」

 デューンの言葉にダイアンが顔を上げる。

「命を惜しんだ自分が許せない?綺麗ごとはいらん。それは、自分に厳しいんじゃない。単なる逃げだ。ノーケイマン公爵は信望厚い人物と聞く。お前はそのような人物から選ばれたのだ。その誇りを簡単に捨てるな」

 ダイアンは、ノーケイマンの方を見た。

 それに気付いたローディンが、ノーケイマンに聞く。

「ノーケイマン公爵閣下。何故ダイアンをデューン男爵のメイドに選ばれたのですか?」

「・・・・ダイアンとの出会いは、ポールトのはずれにある療養所だった」

「療養所?」

「今から3年くらい前になるが、荒天をおして、ポールトのはずれまで狩りに出かけたわたしは、そこで仲間からはぐれ、挙句に落馬して動けなくなってしまった。そのわたしを救い、看病してくれたのがダイアンだった。わたしは、その療養所で、誰にも分け隔てなく献心的に尽くすダイアンの姿を見て、いたく気に入ってな。我が屋敷にメイドとして招き入れたのだ」

「ダイアンはポールトのはずれの出なのか?」

 デューンの問いに、ダイアンは口ごもる。

「ダイアンは過去のことを話したがらない。実のことを言えばどこの出なのかも知らない。いや、知る必要などないのだ。重要なことは、過去や出身地ではなく、今、そしてこれからどのように生きていくかということ。ダイアンはメイドとしても申し分なく、そのバイタリティーに溢れた働きぶりは、わたしの選択眼に誤りがないことを教えてくれた。そして、わたしは、それをわたしの屋敷に閉じ込めておくのがもったいなくなってしまったのだ。より多くの人に知られ、多くの人からもっと称賛されるべきだと」

「それで、マクガイアスのメイドにと?」

 ノーケイマンは深くうなづいた。

「どうだ、ダイアン。このようにお前を想うノーケイマン公爵の心遣いを無駄にすることはこの俺が許さない」

 デューンの言葉に、ダイアンは、頭を下げた。

「申し訳ありませんでした。わたしの浅はかな考えで、自分は失格などと軽々しく申し上げてしまいました。これからは公爵様の期待に応えられるようデューン男爵のメイドして努力します」

 ノーケイマンはその言葉を聞いて、ダイアンに笑顔を向けた。そして、その笑顔をデューンにも向けた。

「デューン男爵。あなたは、わたしが聞いていた人物とは大分違うようだ。ポールトは、王妃の名代としてではなく、デューン男爵として歓迎しますぞ」

 そう言うと、ノーケイマン公爵は、デューンに頭を下げた。


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