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第4話 敵の敵は味方

海賊相手にそんなこと言ったらまずいんじゃねえの?

ほら、言ったこっちゃねえ。

「鍵をよこせ!」

 タックハッチも、鎖の呪縛から女たちを解き放ち始める。

「サンコモア!」

 鎖から解き放たれた女たちは、そう言うと、タックハッチの両頬に口づけをして部屋から出ていく。

 そうしている間にも、海水は見る見るうちに胸のあたりまで達する。

「タックハッチ!もう間に合わない!早く出ろ!」

 背後でデューンの声がする。

 だが、部屋の奥にもう一人女がいた。もう海水は首元に達している。鍵を開けるには水中に潜らなくてはいけない。

 タックハッチは、深呼吸すると水中に潜り、女の手枷を鍵で開け放った。後は足枷だけだが、水中に潜った瞬間、鍵を落としてしまった。

 一旦浮上する。

 女が、顔を真上に上げ、必死に海水から逃げている。

 だが、足枷があって、それ以上海水より上に上がることができない。

「も、もうだめ・・・・」

 海水から逃れ、必死で呼吸する合間に声が漏れる。

「あきらめるな。お前は俺の大事な金ヅルなんだからな」

 タックハッチはそう言うと再び水中に潜った。床に落ちた鍵を捜し出し、それで足枷を解く。

 女が足をばたつかせ浮上する。

 タックハッチも水中から浮上する。

 だがそこにある空間はわずかで、天井までもうすぐだ。

 扉は水没していた。

 女は肩で息をしながら呼吸を整えている。

 タックハッチを見つめるその視線は冷たい。

「わたしたちは、金ヅルなの?」

 女が言う。

「だったらどうする。金ヅルになりたくなけりゃ、この船と一緒に沈む気か」

 タックハッチが詰め寄る。

「いいか。変な誇りを捨てられないならここへ置いて行く。だが、生き残りたいんだったら、俺が何としても助けてやる。どうする?」

 タックハッチの厳しい言葉に、女の冷たい視線が緩む。

「・・・・・こんなところに置いて行かれるのはいや」

「生きたいか?」

「生きたい」

 タックハッチは、その言葉を聞くと女を抱きしめた。



挿絵(By みてみん)



「俺の体に手を回せ。いいか、どんなことがあっても絶対に離すなよ」

「どうするの?」

「水中突破だ」

「この水の中を?」

「俺の泳ぐ力を信じろ」

 女は、タックハッチを見た。

「信じるわ。・・・わたしはダイアン。あなたは?」

「タックハッチ。プロトンキリア号のタックハッチだ。深呼吸しろ。一気に行くからな」

 そう言うと、タックハッチは大きく深呼吸した。ダイアンも深呼吸する。ダイアンが息をとめたのを確認すると、タックハッチは胴体にダイアンを抱きつかせたまま水中に潜った。

 力強い泳ぎで、廊下を泳いで行く。一気に階段まで辿り着いた。階段の手すりにつかまり、上へと昇っていく。

 外に出てみると、甲板は、船の真ん中に向かって傾いていた。

「出てきたぞ!」

 ゲルダ号の甲板から、ロープが放り投げられる。

 タックハッチがそのロープを握った途端、敵船は一気に海中に向かって水没し始めた。

 ロープが弧を描いて、ゲルダ号に衝突する。

 タックハッチは、ダイアンが打ちつけれられないよう体を反転させ、背中でゲルダ号の右舷にぶつかった。

 あとは、ロープが引き上げられるがままに任せた。

「タックハッチ!お前があんな船と一緒に沈むわけないと信じていたぞ!」

 キャプテンベロキーが、タックハッチに駆け寄り抱きしめる。

 身長差がありすぎる。

 なかなか笑える光景だ。

「キャプテンベロキー、ビーチャムは?」

「ボートで逃げられちまった。近くに奴の仲間がいやがったんだ」

「奴の仲間が?」

 タックハッチが、海の方を見る。

「もういない。逃げちまった」

「仲間の船がやられたってのに、攻撃もしないで?」

「ああ」

「なら、追撃すれば」

「お前を置いたままで行けるか」

 キャプテンべロキーのその一言で、タックハッチは黙ってしまった。

 妙な沈黙が、船を包む。

 さっきは、いかにものように抱きあっていたが、海賊のルールじゃ船長の足を引っ張ったとあっては、ただじゃ済むまい。

 腕の一本でも切り落とすか?

「ああ、一言よろしいかな」

 デューンが口をはさむ。

「何だ?お前は?」

 キャプテンベロキーがデューンの方を見て言う。

 ローディンが、話すのを止めようとしたが間に合わなかった。

「デューン・エイン・マクガイアスだ」

「デューン?どこの馬の骨だ?」

「あの髭ヅラ野郎には、俺も頭に来ている。放っておいたら、ろくな事にはならないだろう。だが、若い乙女たちの命と引き換えにしたらどうだ?あの髭ヅラ野郎の首を眺めているより、若い娘たちに囲まれている方がどんなにか・・・」

 その時、海賊たちが一斉に剣をデューンに向けた。

「思いだしたぞ。デューン・エイン・マクガイアス。お前は賞金首になっている。たしかにビーチャムよりお前の首の方が高そうだ」

 ローディンが、しまったバレたか、という顔になる。

「余計な口出しして、てめえの方からボロを出しやがったな。とんだ、お坊ちゃんだな」

 キャプテンベロキーが、剣を振りかぶる。

「待った!」

 ローディンが動こうとしたその前に、タックハッチが、デューンとビーチャムの間に割り込んだ。

「待ってくれ、キャプテンベロキー」

「どけ、タックハッチ。なにをトチ狂ってる?」

「俺は、こいつに命を救われた。その首を取るのは勘弁してくれ」

「命を救われた?どこに、海賊の命を助けるようなとんまがいやがる?」

「ここにいる」

 デューンが胸を張る。

 キャプテンベロキーが、なんだこいつ?という表情で顔をしかめてデューンを見る。

「お前の首を取るかもしれない海賊を何で助ける?」

「あんた達の船が突っ込んで来てくれなかったら、俺の大事な仲間の首がビーチャムに取られていた」

「仲間だと?」

「キャプテンベロキー、あんたが仲間を大事にする尊敬に値する船長だってことはよくわかった。それは海賊だろうがなんだろうが関係ない。そして、俺にも自分の命と同じくらい大事な仲間がいるんだ。その命を先に救ってくれたのはそっちだ」

「俺達が先にお前たちを救ったと?」

 デューンは真顔になって、キャプテンベロキーに言った。

「敵の敵は味方だ」

 キャプテンベロキーの顔も真顔になる。

 しばしの沈黙。

 と、突然、キャプテンベロキーが笑いだした。

「面白い奴だ!金に変えるより、お前を生かしておいた方が面白そうだ。よし、今日からお前も俺の船に乗れ!」


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