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第2話 海賊の襲撃

安けりゃいい、イケイケどんどん‥‥それが危険の元なのです。

「これから向かう七つの島には、かつてメトローマスが悩まされた海賊が今も出没します。いかに早く海賊たちのいる海域を突破できるか。それにかかっています」

 ローディンがデューンに告げる。

「ポールト在駐のウールクラール海軍には伝えてあるんだろ?」

「それが、きちんと伝わっているかが問題です」

「どういうことだ?」

「執政官ゲイレン六世です」

「ゲイレン六世?」

「あれだけ外遊をいやがるエスペリエンザ王妃をキルンの森への慰労には行かせたのに、今回はエスペリエンザ王妃の言うがままです。わたしには、あえてデューン男爵をポールトに行かせたがっているように感じてなりません」

「考え過ぎだ。今、王宮内に俺の居場所はない。西の塔再建までの間、居場所を確保するために俺をポールトに送り出したんだろう」

「それなら、明日ウールクラール海軍は、七つの島のうち最も北にあるギルカの海域に来ているはずです」

「もし来ていなかった場合は?」

「七つの島を迂回しましょう。そのために、水と食料は1カ月分積んであります」

「随分ゲイレン六世を疑うんだな。確かに、ゲイレン六世は、レオノラ夫人がメロキモスを王宮に解き放とうとしていたことを知っていた。だが、それは、愛人の機嫌取りに過ぎなかったんじゃないか?」

「レオノラ夫人が、ゲイレン六世の愛人だったかどうかも疑問です」

「何?」

「わたしは、ゲイレン六世の動向が気になり、過去にゲイレン六世が王宮外から取り寄せたものを調べたんです。その中にコカの実があった」

「コカ?」

「オキーニュの材料になるオキニンと似た植物ですが、成分は全く違う。一度飲んだが最後、二度とそれから離れられなくなるコカビアの原材料。コカビアは常用すると神経系を破壊する。コカビアに依存する者は、自分の意志をもたない奴隷と化してしまうんです」

「・・・・・レオノラ夫人が水路を伝ってまでも、夜な夜なゲイレン六世に会いに行っていたのは、そのコカビアをもらうためと?」

「レオノラ夫人は愛人などではなく、ゲイレン六世にコカビアを餌に操られていた可能性もあるということです。あくまで可能性ですが。そうなると、今回のデューン男爵の名代も何か裏があるのではと疑いたくなる」

「ウエステリアにいるはずだった新しいメイドも結局来ずしまいだったからな」

「そのために、ウエステリアに2日も足止めを食らってしまいました。今回のメイドは、ポールトの領主ノーケイマン公爵が王妃から権限を得て選んだ者。そのノーケイマン公爵は、領民からの信頼厚い領主と聞き及びます。それが、このように約束を違えるとはとても思えないのですが」

「たしかに、ゲイレン六世でなくても、誰かが何か怪しいことを仕組んでいるような気もするな」

「わたしの考え過ぎであればそれに越したことはありません。すべては、明日判明します」

 さて、その翌日だ。

 デューンは目を覚ますと甲板に出てみた。

 まだ朝早いのか、一面霧が覆っている。

 その霧の中、先に甲板に出ていた人物がいた。ローディンだ。

「霧だな」

 デューンは、ローディンに話しかける。

「早いですね」

「ローディンにあんなことを言われれば、気になって眠れなくもなるさ」

「申し訳ありません」

 舳先で望遠鏡をのぞいている船員がいる。

「この霧では、あの望遠鏡もあまり意味を持たないな。むしろ肉眼で霧の中の影を探した方がいい」

 ローディンが言う。

 その直後だ。

 右舷の甲板から前方を見ていたローディンが、右の方に目をやると、霧の中に影が見えた。

 目を凝らす。

 船だ。

 その船は、ゲルダ号と平行に航行している。

「デューン男爵」

 呼びかけられたデューンがローディンの指さす方を見る。

 デューンが、そちらを見たその時、霧の中から旗が現れた。

 骸骨の図柄が描かれた旗だ。

「海賊だ!」

 デューンが叫ぶ。

 途端に、船員たちが船底から上がってくる。それが合図になったかのように、船が近づいていてきた。

 準備をする間もなく、ゲルダ号は海賊船に体当たりされた。

 甲板に倒れ込むデューンたち。

 起き上がろうとしたデューンの目に、先に鉤爪のついた縄が何本も放りこまれる様子が映る。鉤爪が甲板の手すりに引っ掛かると一気に引き寄せられる。

 船と船の間に板が掛けられ、海賊船の乗組員たちがゲルダ号に乗り込んでくる。

 乗組員たちは、抵抗する間もなく海賊たちに捕り抑えられた。

 デューン達も例外ではない。

 甲板を伝って、黒い獣皮を羽織った髭ヅラの大男が乗り込んでくる。

「デューン・エイン・マクガイアスはどこだ」

 デューンは、ローディンの方を見た。

 やはり、俺が狙いか。

 ローディンはあえて、デューンの方を見ない。

 こうなればデューンを見つけられないようにするのが、執事の務め。明らかに船員とは違う服装のボトスチームの若者の一人が髭ヅラの大男に立たされる。

「お前が、デューン・エイン・マクガイアスか?」

「ち、違う」

 髭面の大男は、にやりと笑うと、その若者をデューン達の方を向かせて膝まづかせた。

 そして、その髪を掴みあげ喉をさらさせると、そこに鋭い短剣をあてる。

「て、ことは、今座っているどこかにデューン・エイン・マクガイアスがいるってことだな。まあいい。一人一人調べていくが、本物が名乗り出れば、この坊ちゃんも、これから調べていく奴らも死なずに済む。さあ、本物は誰だ」

 デューンは、歯ぎしりしながら、その男を睨んでいる。

 髭ヅラはものすごい表情で見ているデューンに気付いたが、あえて視線を外し、

「名乗り出なければ、こうなる。まず一人目だ」

 短剣で、若者の首を切り裂こうとする。

 その時、

「やめろ!」

 デューンは立ち上がった


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