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第30話 誓いの口づけ

絶体絶命の危機を救ったのは‥‥!

 残骸のわずかな隙間から、空気を求める。

「まさかこんな最後になるとは・・・思ってもみなかった」

 とデューン。

「ここまで来ると、あきらめた方がいいのかと思いますが、どうもそんな気がしません」

 とローディン。

「お前は往生際が悪いな、ローディン」

「生きようとすることに往生際も何もありません。最後に息絶えるその瞬間まで、わたしはあきらめるということを知らない人間なんです」

「ちなみに、どうすればここから生き延びられるというんだ?」

「分かりませんが、例えば・・・・ぶくっ」

 ついに、残骸のところまで水位が到達した。

 水中に2人の姿が沈む。

 最後に吸い込んだ空気を飲み込むデューン。

 この空気が終わったらおしまいだ。

 デューンは、最後の力を振り絞り、水中から残骸を押した。

 びくともしない。

 だめか・・・・。

 空気を求めて肺が暴れはじめる。

 意識が遠のいてく。

 と、その時、デューンの体は、水中深くに引きずり込まれた。

 いや、引きずり込まれたと言うより、デューンの体を覆っていた水ごと下に流されたと言う方が正しい。凄まじい水流が、水中の浮遊物ごと、デューンの体をどこかに運んでいく。

 次の瞬間、デューンはまぶしい太陽の光にさらされた。

 ここが天国?

 そう思った次の瞬間、デューンはしたたか全身を地面にたたきつけられた。

 思わぬ衝撃と痛みにデューンは、おとなしくなった水流の中で思わずバタつき、その場に立ちあがった。

 そこは、西の塔の前の広場だった。

 さっきまでの太陽の光を巨大な影がさえぎる。

 デューンは、その影を作るものを見上げた。

 そこには巨大なガイモスの姿があった。

 テントのガイモスとは比べ物にならないくらいに大きい。

 その時、王宮の庭の方で、何かが倒れる凄まじい音がした。

 ガイモスの観覧テントが破壊され、檻を破った父ガイモスが、母ガイモスと子ガイモスを救い出したところだった。

「デューン男爵、無事でしたか」

 ローディンが、デューンの所によたよたと歩いてくる。

「ああ。お前もか」

「おかげさまで」

 デューンは、巨大なガイモスが何頭もおとなしくその場に止まっているのに気付いた。

「・・・・・ガイモスの行進を止められる者は地上には存在しないんじゃなかったのか?」

 その時、先頭のガイモスが前足を折って頭を下げた。

 そして、鼻を頭の上に上げると何かを掴んで、それを地上に下ろした。

 鼻が元に戻ったあと、そこにいたのはカシーネだった。

「カシーネ・・・・・」

 カシーネは、デューンの姿を見つけると、駆け寄ってきてその体を抱きしめた。

 カシーネの柔らかい豊かな胸が、デューンの胸板に押しつけられる。

「もうだめかと、もう間に合わないかと思いました」

 そう言って、顔を上げたカシーネの目から涙がこぼれ落ちる。

「カシーネの無事を見届けるまでは、死ぬわけにはいかないだろ」

 デューンのその言葉に、カシーネが笑顔を見せる。

 その時、大鷲バールが地上に降り立った。

 バールからロイメルが降りてくる。

「ロイメル、間にあったんだな」

 ローディンが声をかける。

「小鳥たちを雅牙の塔の中で暴れさせた後、バールを呼び寄せるのには少し時間がかかったけどな。すべては、ローディンの見込み通りになった」

「だが、大空の王の力なくしては、この計画は成功しなかった」

「そして、地上の王の力も」

 ロイメルは、カシーネの方を見た。

「このガイモスは、カシーネが?」

 デューンが聞く。

「・・・・・ロイメルが教えてくれたんです。ガイモスの仲間が、テントにいる親子を迎えに来ると」

 デューンは、西の塔を振り返った。ガイモスの破壊力は、西の塔の3階分に大きな穴をあけていた。

「だが、これをしろと命令したのはカシーネなんだろ」

「この塔の中に、デューン様がいるかもしれないと思ったら、ガイモスが突然この塔に穴を・・・・・」

「カシーネの心がガイモスに通じたんだ。俺が今ここにこうして立っていられるのはそのおかげだ」

「デューン男爵。そろそろ・・・・」

 ローディンが、テントの方を見る。

 デューンもそちらの方を見ると、王宮騎士団が集結しているのが見えた。ガイモスの破壊力を目の当たりにし、まだ様子を見ているが、動き始めるまでそう時間はかからないだろう。

「カシーネ。王妃はカシーネを処刑すること以外考えていない。ここにいては危険だ。すぐに立ち去るんだ」

「デューン様は、大丈夫なのですか?」

「俺のことは心配するな。何とでも言い逃れはできる。これからは自分のことだけを考えろ」

「それが、デューン様のお望みならば・・・・」

 デューンを見つめるカシーネの瞳が悲しげな光を湛えて潤んでいる。

 その目を見た途端、デューンは抑えがたい感情の奔流に飲まれた。

 それを収める方法は一つだけ。

 デューンは、カシーネの手を引き寄せ、王宮騎士団から見えないようがれきの影に入り込むと、その唇に唇を重ね合わせた。

「・・・・・言っておくが、今のは人工呼吸じゃないからな」

 唇を離したデューンが言う。

 カシーネの瞳から悲しげな光が失せ、強い光が宿った。

「いいか、何としても逃げ延びろ。俺が王位を継ぐその日まで」

 カシーネは、デューンを見つめたまま後ろに下がって行く。

 そのカシーネを、ガイモスの巨大な鼻が拾い上げた。

 カシーネは、ガイモスの背中に乗ると、一度だけデューンを振り返り、地上最強の集団を率いて王宮を後にした。

「ロイメル、カシーネを無事、安全なところまで送り届けてくれ」

 デューンが、ロイメルに頼む。

「ああ、分かっている」

 ロイメルは、デューンとカシーネの口づけで思いが吹っ切れた。

「ボトスの指南代だけでは足りそうにないな」

 デューンが言うと、

「足りない分は貸しつけておくよ」

 そう言って、大鷲バールにまたがると、大空の王は空高く飛び立った。

「・・・・・で、どうする?」

 とデューン。

「デューン男爵は気に食わないかもしれませんが、カシーネには徹底的に悪者になってもらいます。ゲイレン六世の執務室を襲撃した小鳥は、カシーネが呼び寄せたもの。ガイモスが大暴れし、王宮を破壊したのもカシーネの仕業。すべては、テントに囚われたガイモスの親子を救うためにカシーネが起こしたことだった。我々は、カシーネとはまったく関係ない。むしろ被害者だったということに」

「だが、水路の屋根にいた王宮騎士は?奴らは、俺達がカシーネを救おうとしていたことを知っている」

「死人に口無しです」

「全員倒したのか?なぜ、そんなことが分かる」

「生きている騎士がいれば、バールをけしかけて屋根からはたき落とせとロイメルに命じたからです。ロイメルは、失敗したとは言わなかった。奴の性格からして、それはわたしの命令に成功したということ」

「分かった。見事だローディン。お前の考えは、すべて正解だ。俺もこれからは、お前が言うように、息絶えるその瞬間まで生きることを諦めないようにするよ」

「ようやく、わたしの教示に同意してくれましたね。デューン男爵」

「ああ、だが、すべてにじゃないぞ」

 2人は言い合いながら、疲労困憊の体に鞭打ち、ゆっくりと王宮騎士団の方に歩いて行った。


 これが、デューン男爵21歳の時に起こった出来事である。


何も解決しないまま別れる2人!

どうなる今後の展開!

それは最後のメイドまで持ち越し!

次回は、ついに王宮を飛び出し、南海を舞台に大海戦!

6人目のメイドもお楽しみに!

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