第26話 屋根の上の攻防
屋根の上にも下にも敵だらけ!
まず、デューンが屋根の上に出て、次にカシーネが出てくる。
「さすがにこの屋根にまでメロキモスは来ないだろう」
デューンが言う。
「西の塔に急ぎましょう」
ローディンが先頭、間にカシーネが入り、最後尾にデューンがつく。3人は平らな突き出しから落ちないよう一列に並ぶと、中腰でバランスを取りながら西の塔に向かって進み始めた。
だが、数メートルも進まないうちに、丸屋根の反対側から剣を持った王宮騎士が3人現れた。
3人は立ち止った。
「まさか、本当に来ようとはな」
王宮騎士の一人が言う。
「どうしてここに?」
ローディンが聞くと、
「執政官の命令だ。デューン男爵とその執事らが出てくるまでここで待機せよと。メイドと執事は処刑命令が出ている。デューン男爵は拘束せよとの命令だ」
王宮騎士3人が、ローディンたちの方に近づいてくる。
ローディンは、その足元を見た。先頭の男の足運びはおぼつかない。
「大人しくしていれば一瞬だ。そのまま立っていれば一撃で首を跳ね飛ばしてやる」
先頭の男は、片手でローディンに剣を突き付け宣言する。
ローディンは、まるで言葉に従うかのように背筋を伸ばし、首をさらけ出した。
先頭の男はにやりと笑うと、剣を両手に持ち変え、水平に構えた。その剣を横に振り払った瞬間、ローディンは後ろに上半身をのけぞらせ、先頭にいた王宮騎士の足を横に蹴り払った。
先頭の男は、バランスを崩し、剣を取り落とすと、そのまま屋根から転がり落ちた。男の絶叫がどこまでも続く。
「デューン男爵、通路に戻って下さい!」
ローディンの言葉に一番後ろについていたデューンは、開けたままの扉から縦穴通路に戻った。
ローディンは落ちている剣を拾い上げると、2番目にいた王宮騎士の剣を受け止めた。
「カシーネも急げ!」
カシーネが振り返ると、もう一人の王宮騎士が扉の前に立ちふさがっていた。その王宮騎士の横殴りの一撃を、何とか避けるカシーネ。
ローディンは、対峙している王宮騎士が上半身ばかり狙ってくるので、ガラ隙の腹部を蹴飛ばした。
王宮騎士はバランスを崩して倒れ、屋根にしがみついた。
カシーネの方を振り返る。
カシーネは、棟と平行に並んだ平らな突き出しを登り、屋根の上の方に逃げていた。そのカシーネに下から迫ろうとしていた王宮騎士に斬りかかるローディン。王宮騎士は横からの不意打ちで、バランスを崩した。その一瞬を逃さず、ローディンはその王宮騎士に剣の一突きでとどめを刺す。
王宮騎士が倒れたのを確認すると、ローディンは呼びかけた。
「カシーネ!」
ローディンの方に降りようとしたカシーネが叫ぶ。
「ローディン様!後ろ!」
ローディンが振り返ると、屋根にしがみついていた騎士が、体勢を立て直し、剣を振りかぶっていた。後ろに下がりながら、強靭な一撃を剣で受けるローディン。続きの一撃を避けようと、更に後ろに下がった時、ローディンは開いたままの扉から、縦穴に落ちてしまった。
王宮騎士は、ローディンが落ちたのを確認すると、扉を閉めた。
通路の中、水平通路でデューンが待っていると、縦穴からローディンが落ちてきた。
「ローディン、何をやっているんだ。カシーネは?」
「まだ外です。わたしは、王宮騎士に突き落とされたんです」
「なんだと?」
デューンは、縦穴を登り、内側から扉を開けようとするが、やはりびくともしない。
「カシーネ!」
その時、下からその様子を見ていたローディンが、何かに気付き、雅牙の塔からつながる通路の方を見た。
上に開いた穴から差し込む陽光が、光の柱のように何本も立っている。その柱が奥の方から一つ、また一つと消えていく。穴を塞ぎながら黒い何かが近づいてきた。
「デューン男爵、早く降りて下さい!」
「何だ?」
「メロキモスです!メロキモスが通路に入ってきました!」
「何?」
カシーネが縦穴に落としてしまった王妃の血で、メロキモスが完全に目覚めてしまったのだ。
デューンは、縦穴を大急ぎで降りてきた。
デューンも、メロキモスが接近してきているのを確認する。
「こうなればメロキモスと競争だ。ローディン、ついてこい!」
デューンはそう言うと、先頭に立って西の塔へと猛然と進み始めた。




