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第25話 メイド奪還!

審判どころか、とんだ濡れ衣!

権力をかさにやりたい放題の執政官に、渾身の一撃をくらわす!

 ゲイレン六世の執務室。

 ドビュアーの執務室に似た作りだが、執務机は一段しか上がっていない。ゲイレン六世が座っているその机の横には、3人の王宮騎士に拘束されたカシーネが立っている。

 その扉がノックされる。

「入れ」

 扉が開いて、デューンが入ってきた。

「デューン・エイン・マクガイアス。ただ今、執政官の命により参じました」

 デューンは、ゲイレン六世の所まで歩いてくると名乗りを上げた。

「デューン男爵。昨日の一件はご存じだな」

「はい」

「では、聞こう。なぜ、このカシーネは、一人きりであの檻の中にいたのだ」

「わたしが、ガイモスの出産に立ち会いたいと言い、カシーネはそれに付き添っただけです。わたしは、出産に感動し、祝杯をあげようと西の塔に戻りましたが、カシーネは、出産したばかりのガイモスの親子を心配し、あの檻に残ったのです」

「エスペリエンザ王妃は、コッチ興行団のギャンシーという男に出産を告げられ、テントに向かった。ギャンシーとカシーネは面識があるようだが、デューン男爵は、この男に覚えは?」

「たしか、以前カシーネが所属していた大道芸一座の座長だったかと。しかし、彼が出産を見ていたことには全く気付きませんでした」

「つまり、王妃が来ることは予見していなかったと?」

「はい」

「いや、そんなはずはない。王妃はレオノラ夫人から昨日出産予定だと告げられていたのだ。レオノラ夫人は、自ら出産を確認し、ギャンシーに王妃を呼びにいかせた。レオノラ夫人は、カシーネと会った時、王妃がくることを告げていたはず。にもかかわらず、カシーネがレオノラ夫人を殺害した理由は一つ」

「それは・・・?」

「カシーネが殺そうとしていたのは王妃だったのだ。そのことを悟られ、カシーネはレオノラ夫人を殺害した。そして、ガイモスの近くに落ちていたこの剣こそ、王妃殺害の凶器。カシーネはそれをレオノラ夫人殺害に使えないので、檻備え付けの長槍を使ったのだ」

 ゲイレン六世は、審判をするどころか、話をでっちあげ、王妃暗殺未遂という、より重い罪をカシーネに負わせた。

「王族暗殺未遂は極刑。これより、王妃の委任を受けた執政官の審判により、即刻処刑を遂行する」

「お待ち下さい。それは何かの間違いです」

「デューン男爵。お前には執政官の審判に反論できる権利はない。決定に従うのだ」

 その時、ざわざわするような妙な音が聞えてきた。

 どこかで聞いたことがあるような、しかし明らかに聞いたことのない音だ。その音はみるみる大きくなった。

「何だこの音は?」

 ゲイレン六世がひとり言のように言う。

 その次の瞬間、音は建物にぶつかり、天井近くに開いた窓から無数の黒い物が、執務室内に飛び込んでいた。

 黒い何かは、まるで流れ込む水のごとく部屋内を飛び回る。黒い物の正体は、小さな小鳥たちだった。

 小鳥は、部屋中を飛び回り、机に向かっていたゲイレン六世はもちろんのこと、カシーネを拘束していた3人の王宮騎士にも襲いかかった。王宮騎士は、鳥を追い払うのに必死で、カシーネから離れる。

 その瞬間を見逃さず、デューンは、カシーネに駆け寄ると、拘束された縄を解いた。デューンが手を握って執務室を飛び出そうとすると、

「待って!」

 カシーネは、ゲイレン六世の執務机に駆け寄り、その上にあった赤い筒を掴んだ。ゲイレン六世自身は小鳥を追い払うのに精一杯で、カシーネのそんな動きは全く感知していない。今度こそ、2人は執務室を飛び出した。

 廊下も小鳥でいっぱいだ。

 その中をデューンは、ローディンの頭の中に入っていた図面を頼りに、階段を降り、角を曲がって、ゲイレン六世の寝室に辿り着いた。

「・・・・ここは?」

 カシーネがつぶやく。

「何となく見覚えがないか?」

「レオノラ夫人と執政官が密会していた部屋」

「その通り。つまり、あの棚の後ろに隙間があって、そこから逃げられると言うことだ」

 そこで、デューンはカシーネが掴んでいる赤い物に気付いた。それは透明な筒状のガラス瓶に入っていた。

「それはなんだ。逃げることより大事なものなのか?」

「これは、王妃の血です」

「王妃の血?そうか、やはりまだ使われていなかったんだな。まさかあんなところに置いてあるとは・・・・。」

「あのままにしていたら執政官がメロキモスに与えてしまう。逃げるより、そっちの方が大事だったんです」

「分かった。でもこれからは自分の身をまず第一に考えろ」

 2人は後ろに数十センチの隙間がある棚へと向かう。

 その隙間に入ると、数メートル行ったところに取っ手を発見した。

「ここだけは、内側からでも外側からでも開けられるようになっていたんだな」

 扉を開けると、まずデューンが入り、次に手を貸してカシーネを引き上げた。

「この中をメロキモスがまだ徘徊していないことを祈るだけだな」

 そう言うと、デューンは、西の塔に向かって四つん這いで進み始めた。あとにカシーネが続く。

 最初に注意すべき縦に開いた穴。

 一度来ているという安心感は、進むスピードを上げたが、その気の緩みがまずかった。

「あっ!」

 カシーネの叫び声。続いて、何か固い物が何回もぶつかるような音。その音は次第に遠のいて行く。

「どうした?」

 デューンが止まる。

「王妃の血を縦穴に落としてしまいました」

「・・・・・落ちてしまったものは仕方がない。カシーネが落ちなければそれでいい」

 そう言うと、2人はさらに先を急いだ。

 通路の上に開いた穴からは太陽の陽光のおこぼれが差し、月明かりとは比べ物にならないほど明るい。あっという間に水路の屋根に出られる縦穴の通路に到達する。

「ここを登るぞ」

「えっ?でもそこは・・・」

 カシーネの言葉に構わず、上へと登るデューン。

 その上には内側からは開けられない扉が。

 デューンは何を考えているのか、その扉を下からどんどんと叩いた。すると、しばらくして、扉が外側から開けられた。

「なかなか早い到着ですな」

 扉を開けたのはローディンだった。


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