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第7話 寝込みの襲撃

ついに、本当の敵が正体を現す!

そうか、やっぱりあいつだったんだな!

 デューンが蔵書庫から出てきたのは、月が中天にかかろうとする夜更けだった。

 夜遅い食事を済ませ、何とか寝ないで入浴を済ます。

 デューンはそのまま、ベッドに横になった。

「明日は、いつもより早く起こせ。今日は二列目の棚が終わらなかった。侍従はあと二日で三列目までの確認を終了するようお望みだ」

「そのことですが、デューン様、あの侍従は・・・・」

「話は明日だ。では頼むぞ」

 そう言うと、デューンは瞬殺で眠りについた。

 既に疲労は限界に達している。

 昨日もおぼれながら目を覚まさなかったほどだ。

 ちょっとやそっとでは決して目を覚まさないだろう。

 メイドは、主の睡眠が確認できたら寝室を出なければならない。

 ミロディは、隣のメイド控室に戻り、その扉を閉めた。


 更なる夜更け。

 デューンは、深い眠りについたままだ。

 そのベッドの横に人影が立った。

 暗闇で顔は見えない。

 その人物は、デューンの熟睡を確認すると、その首に黒い何かを巻き付けた。わずかに差す月明かりに照らされたその黒い物の正体は、長い髪の毛だった。

 誰の毛か?これだけ長い髪の毛を蓄えているのはミロディしかいない。・・・・・

 おーっと、カッツェンバックにはあんなこと言っておいて、やはりデューンの嫌がらせを恨んでいたかミロディ!

 恐るべし、女の怨念!でも、そのまま絞め殺してしまうのはやりすぎじゃないか?

 とそう言っている間にも、巻きつけられた髪の毛は次第に絞まっていく。だが、デューンが目を覚ます気配はない。

 いきなりここで主役に死亡フラグだ!

 と、その瞬間、メイド控室の扉が開いた。

「そこにいるのは誰?」

 ミロディの声。

 え?てことは、・・・・。

 ミロディが、灯りをともす。

 デューンのベッド横に立っていた何者かが振り向く。

 振り向いたのは、痩せぎす長身の侍従だった。

「やはり、あなただったのね」

「順番が狂ったが、まあいい。お前には先に死んでもらおう。その後、お前の長い髪でデューン男爵殿を絞殺したように見せかける」

 侍従はデューンの首に巻き付けた黒髪の束を離し、細い銀色の糸の様な物を懐から取り出すと、ミロディに迫った.

 侍従が、両手を奇妙な形で宙に躍らせる。

 空中を舞う糸が白銀の残光を残し、ミロディの首に巻き付こうとする。

 ミロディは、右手を空中に振り上げた。

 首に巻き付くはずだった糸は、その振り上げた右手に絡まった。途端に糸に締め付けられた右手から赤い血が流れ始める。

 ミロディは、残った左手でまとめあげた髪の毛をほどいた。

 美しく長い黒髪が滝のように流れ落ちる。

 ミロディは上半身をしならせ、首を振った。

 すると、長い髪の毛は生き物のように空を切り、侍従の首に巻き付いた。と同時に一気にその首を絞め上げる。

 ミロディの銀色の瞳が強い輝きを放つ。

 ミロディの右手は赤い血に染まり、侍従の放った糸の様な物で完全に自由を奪われていた。

 その一方で、ミロディの髪の毛に絞め上げられた侍従の口は、空気を求めて大きく開き始めた。やがて、小刻みに震えていた瞳が生気を失い、白目をむく。

 ミロディの右手を拘束していた糸が緩み、侍従は床に崩れ落ちた。

 途端に、侍従の首に巻きついていた髪の毛がミロディの元に帰る。

 終わったかと思ったのもつかの間、ミロディは、何かの気配を部屋の中に感じた。

 ベッドで眠ったままのデューンに駆け寄り、その首に巻きついていた長い黒髪をむしり取る。

「デューン様、お目覚め下さいませ!賊が侵入しました!」

 いくら揺り動かしても、デューンは起きようとしない。

 ミロディは振り向いた。

 部屋の別々の方向から、殺気を感じる。

「デューン様申し訳ありません!」

 ミロディはそう言うと、デューンの耳たぶにかじりついた。

 これにはさすがのデューンも飛び起きた。

「うお、なにか、今何か耳に・・・・!」

「デューン様、申し訳ありませんが、お目覚め下さい。今この部屋は賊に取り囲まれています」

「何?」

 デューンは、周りを見渡した。

 そして、ミロディに視線を移すと、

「ミロディ、その右手はどうした?」

「ちょっと、傷をつけまして」

「ちょっとどころじゃないぞ」

 デューンはそう言うと、ベッドのシーツを引き裂いた。

「悪いが、今はそれで応急処置だ。あとで傷の様子を見る。自分で止血できるか?」

「はい」

「よし」

 そう言うと、天蓋ベッドの四本の支柱の内の一本から剣をとりだした。

「自分の身は自分で守れ。俺にはお前のことまで面倒みる余裕はない」

 そう言うと、デューンは剣を振りかざし、姿を現した数人の賊に向かっていった。

 残されたミロディが気配を感じて後ろを振り向いた途端、横殴りの剣が飛んできた。そのままベッドの上仰向けに横たわるミロディ。ミロディの目の前をかすり、横殴りの剣は、そのまま支柱の一本に突き刺さった。それを抜こうとオタオタしている賊を蹴り飛ばすミロディ。

 ミロディが身を起こそうとしたところに、別の賊が飛び乗ってきた。ミロディを跨ぐようにベッドの上に立ち、剣を振りかぶる。

 振り下ろされる剣。

 ミロディは衝撃を覚悟し、目をつぶった。だが、次の瞬間、暗闇に白刃がきらめき、賊の剣は弾き飛ばされた。

「ミロディ!早く起きろ!」

 ミロディが目を開けると、ベッドの横にカッツェンバックが立っていた。ベッドからミロディが降りるや、その腰を抱いて、自分の体に引き寄せる。

「もう、自分の身を守らなくていい。ミロディの身は俺が守る」

 そう言うと、ミロディをかばいながら、剣をふるって賊を切り倒して行くカッツェンバック。

「デューン、お前の身は自分で守れよ!」

「余計な御世話だ!」

 2人の会話はまるで遊んでいるかのよう。

 だが、ものの数分もしないうちに、賊はすべて2人に討ち倒された。

「カッツェンバック公・・・・。どうしてここに?」

 ミロディが聞く。

「こんな時間になってしまって申し訳ない。侍従長に、西の塔に行かせた侍従がいるか聞こうとしたのだが、当人に逃げまくられてな。なかなか捕まえられなかったんだが、ついに就寝のタイミングで捕まえて聞いたのだ。すると返事は、ノーだった。そうなれば、西の塔に入り込んだ侍従は、誰からの命令もなく勝手に王宮に入り込んだ賊だ。デューン一人じゃ心細かったんでな。もしやと思ってきてみれば、賊は一人じゃなかった。まあ、結果オーライということだ」

 カッツェンバックは、説明しながら、切り倒した男達の上にかがんだ。

「この男は見たことがある。今はどうだか知らないが、王宮内にいた者だ」

「ということは・・・・」

「侍従長が嘘をついているか、それとも侍従長が誰かにはめられたのか」

 カッッツェンバックは、立ち上がろうとして、倒れている男の切り裂かれた服の間から見える肩を見た。

「ん?」

 カッッツェンバックは、手で肩の周りの血をぬぐった。

「何か書いてある」

 デューンもその遺体にかがみ込む。

「なんて書いてある?・・・・G・・・・」

 デューンが目を細める。

「もう一文字あるぞ。G・・・・Pだな」

 カッツェンバックが言う。

「GP・・・・なんのことだろう」

「デューン様。こちらも」

 ミロディが差し示した遺体は胸がはだけていたが、そこにもGPの文字が。

「ここで頭を悩ましていてもしようがない。詳細は、明日侍従長に聞くとして、まったくこの塔は賊に無防備すぎる。よし、今日は2人とも俺の家に来い。我が家の防備は、ちょっとした城砦並みだ。ここにいるよりは安心して眠れる」

 カッツェンバックが言う。

「マイフリュースト。ありがたい申し出、謹んでお受けしよう。このあと大人しく眠れるかは疑問だが、死骸の中で寝るよりはいいからな」

「お前の言葉は、いつも余計なひと言が多い」

 カッツェンバックは、デューンに釘を刺した。

「ミロディは、わが姉の寝室を使ってもらおう」

「俺は?」

 デューンが聞く。

「お前は俺と、居間で雑魚寝だ」

「・・・・たまらないね」

 こうして、3人は皆が寝静まった暗い街中を、クリエル公爵の別邸に向かって歩いて行った。


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