第20話 未亡人のアリバイ
待っていたのに、いつの間に???
「ついてきているか?」
「はい」
「真っ暗闇でも、前へ進んでいけばいずれ道は・・・・」
その次の言葉は続かなかった。
突然、デューンの言葉が途切れ、前方に人の気配を感じなくなったカシーネは、四つん這いのスピードを上げた。
「デューン様・・・・・キャッ!」
カシーネの悲鳴は、通路の床に開いていた縦穴の通路に飲みこまれた。
随分落ちたような気がしたが、体に受けた衝撃はさほどではなかった。
「カシーネ、大丈夫か?」
「はい、デューン様」
デューンの呼び掛けに答えるカシーネ。
この落とし穴に比べれば、もうよほどのことがない限り驚きはないだろう。
デューンは、暗闇の中手さぐりで、一方に向かった。
すると、床を探っていたデューンの手が、何かの取っ手を掴んだ。
「カシーネ止まれ」
デューンは、自分のケツにカシーネを突っ込ませないように、自分が止まる前に声をかけた。
「どうかしたんですか?」
「ここが終点のようだ」
デューンは、取っ手を引き上げた。
その下は暗かったが、明かりがどこからか入ってきている。
デューンが、まず下に降り、次にカシーネが降りてくる。
一方の壁に縦の線があり、そこから月明かりがかすかに入ってきていた。月明かりの縦線の両側を押すと、壁が観音開きに外側に開いた。
「・・・・・ここは・・・・・」
2人が出てきたのは、閉鎖になった部屋。
そう、通路の先は、閉鎖になった部屋のクローゼットに繋がっていたのだ。
「水路の屋根にあった扉は入るだけの扉。そして、この部屋にある扉は出るだけの扉なんだ。だから、取っ手は通路側にだけあって、この部屋側には何もない。天井の空間に出入りする扉を見つけられなかったわけだ」
デューンが言う。
「でも、ここで待っていれば、レオノラ夫人を捕まえることができます」
カシーネの言葉にうなづくデューン。
「そうすれば、執政官の悪事も暴くことができる。ローディンを呼んできてくれ。俺がここでレオノラ夫人を見張っている」
カシーネはうなづくと、ローディンを呼びに行った。
ローディンは閉鎖部屋にやってくると、まず、デューン達が出てきたクローゼットの天井をランプで確認した。
「・・・・・ここに扉があるとは、全く見えませんね」
「だが、俺達はそこから出てきたんだ」
「・・・・・・なるほど。これで、天井裏と水路の下の空き空間の謎が解けましたな」
ローディンはクロゼットから出てきた。
「それで、ずっとここからレオノラ夫人が出てくるのを待っていようと?」
「そうだ」
「その前に確認することがあります」
そう言うと、ローディンは2人をレオノラの部屋の前まで連れて行った。
「ここでお待ちを」
ローディンは、そう言うと、扉をノックした。
「失礼します」
ローディンが1人で、中に入っていく。
2人がしばらく待っていると、扉が開いてレオノラが出てきた。月明かりの影になり、2人の驚きの表情は何とか隠された。
「デューン男爵、カシーネまで。わたしのことを心配して来てくれたのね」
意味が分からない。
そこへローディンが出てくる。
「ここには、賊が入った気配はなさそうです」
その一言で、デューンはローディンの策に気付いた。
「ご無事で何よりでした」
デューンがそう言うと、レオノラが2人に笑いかける。
「安眠中を起こしてしまい申し訳ありませんでした。念のためわたしが警備に付きます」
ローディンが言う。
「それには及びません。何も取られていないのなら、賊を見たというその使用人の勘違いかもしれません。王宮騎士団を呼ぶほどのこともないでしょう」
3人は、レオノラに頭を下げた。
「まだ、夜明けには間がある。あなた達も休んだ方がいいわ」
レオノラはそう言うと、寝室へと戻って行った。
デューンの寝室に戻る3人。
「どういうことだ?」
「前にも言ったように、天井裏に空間がある部屋は、閉鎖された部屋以外にもあります。おそらくそこから戻ったかと」
デューンの問いに答えるローディン。
「だが、通路の中にはメロキモスが徘徊しているんだぞ」
「レオノラ夫人は、地を這うものと心通わすことができます。メロキモスを操ることもできるのでしょう」
今度はカシーネが答える。
「水路からつながる通路が塔の中に張り巡らされているのは分かりましたが、レオノラ夫人がここから毎夜執政官の部屋に逢引きに行っているという証拠は何もありません。執政官は、表立って目立ちませんが、相当の切れ者と聞きます。こちらが下手に動くと、執政官は何をするか分かりません。ましてや、レオノラ夫人は王妃のお気に入り。カシーネも王妃の勧めでメイドになれましたが、レオノラ夫人にあらぬことを吹聴されれば、いきなり処刑もありうる。ここは慎重にことを進めましょう」
ローディンは2人に言った。




