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第17話 未亡人のあとを追って

年増の未亡人と張り合ってどうするの?

そんなことをしたら‥‥あっ、危ない!

 カシーネは、思わず窓から身を引いて、ローディンを呼びに行こうとした。だが、立ち止まり、再び窓からレオノラの方を見る。

 このまま誰かを呼びになんか行っていたら、レオノラを見失ってしまう。レオノラがどこへ行くのか突き止める絶好の機会を逃してしまう。

 カシーネは、窓から身を乗り出しその下を見た。

 すると、窓の下に1メートルぐらいの突き出しがあり、突き出しの外側は、まるで低い手すりのように装飾が立ち上がっていた。その突き出しは、ぐるりと塔の外壁に沿って周り、水路の屋根に繋がっている。

 レオノラはこの突き出しを伝って、水路の屋根までたどり着いたのだ。

 レオノラ夫人ができるのならわたしにだって。

 カシーネは、ためらうことなく窓枠を乗り越え、その突き出しに足を突くと、下を見ないように外壁から出た装飾を掴みながら水路の方へと向かう。

 水路の屋根は半円形をしていたが、屋根頂上の棟と平行に平らな突き出しが1メートル間隔で何列も伸びている。カシーネはその突き出しに乗った。風にあおられ、倒れそうになりあわてて身をかがめて四つん這いになる。

 レオノラははるか先を行く。

 カシーネは、レオノラから目を離さずにその後を追う。

 それにしても、誰かが西の塔から水路を見ればすぐに分かってしまうようなものだが、レオノラはそれを全然気にしないかのように慣れた足取りで屋根を進んでいく。その身の軽さも意外だったが、それ以上に、夜中とはいえこんなに目立つ行動に出る大胆さも日ごろのレオノラからは想像できなった。

 レオノラ夫人にできるのならわたしにだって。

 またまた出てきた対抗心にあおられ、カシーネも思いきって中腰に立ち上がってみた。途端に突風が吹き、カシーネの体が、屋根の外側の方に傾く。何とか体勢を持ちなおそうとしたが、一瞬下の方を見てしまった。

 その高さに目が眩み、全身から力が抜ける。

 目に見えない何かに引っ張られるように、屋根の軒の方に体が倒れていく。このまま倒れれば屋根からの転落は免れない。

 平衡感覚に敏感な自分の体質をいやというほど思い知らされていたのに、不用意にこんな所で立ちあがるなんて。

 悔やんでも、傾いて行く自分の体をどうしようもできない。

 カシーネが、あきらめかけたその時、カシーネの体を力強い腕が屋根側の方に一気に引き戻した。

 ふと気付くと、カシーネは分厚い胸板の上に身をあずけていた。

「何あきらめてるんだよ。面白いのはこれからだろ」

 その胸板の主はデューンだった。

「デューン様、なぜ、ここに?」

「お前はあれで静かに扉を開閉したつもりだったのか?うるさくて目を覚ましちまったよ」

「も、申し訳ありません」

「あやまることはない。そのおかげで危うくメイドをまた一人失うのを止められたんだからな。それより、おまえこそなんでこんな危ない所でアクロバットしてたんだ?」

「わたしは、レオノラ夫人を追って・・・」

 ハッと気付いて前方を見ると、レオノラ夫人の姿は消えていた。

「レオノラ夫人?」

 デューンが聞き返す。

「この先にさっきまでいたんです」

 前方を見たまま立とうとしてふらつくカシーネ。

 再び、その体を抱き寄せるデューン。

「危なっかしくて見ていられない。ほら、俺の手を掴め」

 体の安定を取り戻したカシーネは、デューンを見た。

 そして、差しだされた手を握り、ゆっくりと屋根の上を歩きだした。

 手を握っているだけなのに、体の中心に支えが立ったかのようにバランスが安定する。

 あっという間に、先ほどまでレオノラがいたはずの場所にまで到達した。

「わたしが見た時は、この辺にいたはず・・・・」

 カシーネが前に進もうとした時、後に続こうとしたデューンの足が何かに引っ掛かった。

「おっと」

 今度は、デューンがバランスを崩しかける。カシーネが手を引っ張ると、デューンはすぐ体勢を立て直した。

「この下に何かある」

 2人は、足元を見た。

 取っ手のような物がある。

「扉だ」

 その取っ手を握り、引きあげると扉はすぐに開いた。真っ直ぐ下に降りる通路が口を開ける。その片側には足場のような突起もある。

「レディーファーストと行きたいところだが、ここは行かせるわけにはいかん。ここからあとは俺一人で行く。お前はローディンにこの事を伝えろ」

「そういう訳にはいきません」

「何?」

「この先にどんな危険が待っているか分からないのに、デューン様をお一人で行かせるわけにはまいりません」

「言っておくが、ここから先は、自分で自分の身を守れよ」

「分かっています」

 先にデューン、次にカシーネが降りていく。

 縦穴の通路はすぐに水平の通路にぶつかった。

 高さは、人がようやく四つん這いできる程度だ。

「さて、左右どちらに行くか・・・・」

「降りてきた位置からすれば左の方が雅牙の塔に向かうはずです」

「さえているなカシーネ」

 そう言うと、デューンは四つん這いで左に向かった。その後にカシーネが続く。

 通路の上には数メートル間隔で明り取り用の穴が開いている。その明かりは水路の下に開いた窓から入る月明かりのおこぼれ。

 デューンたちがいる通路は、水路下にある窓のさらに下にあった。ローディンが無駄なスペースと言った空間は、無駄な空間ではなかったのだ。

 わずかな明かりを頼りに、どこまでもまっすぐ続く水平通路を進む。

 やがて、通路は十字路にぶつかった。デューンは、交差する通路の左右両方を覗いてみたが、通路の先は暗く何も見えない。

 とにかく先へと進む。

 すると今度は、床に縦穴が開いていた。その穴は今進んでいる通路より一回り狭い。その内壁に突起物はなく、人が落ちればまっさかさまだ。何のための縦穴かは不明だが、正面に顔を上げると、その穴の先に扉らしきものが見える。そこに辿り着くためにはこの穴を跨いで行かなければならなかった。狭いとはいえ、人がすっぽり入るだけの大きさはあるので、デューンは、慎重にその穴を跨いだ。カシーネも穴を跨ぐ。

 ようやく扉に辿り着いた。その扉をかすかに開ける。部屋の灯りが通路に差し込む。

「・・・・・早く、早くそれをよこしなさい」

 レオノラの声だ。

 デューンは、カシーネの方を見た。

 そして扉をもう少し開いた。


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