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第15話 伝説の四大奇獣

じゅくじゅく坊ちゃん、いつからそんな博学に‥‥?

あ、そういうオチね。

 その日の夕食。

 レオノラ夫人は、西の塔の賓客として、デューンと同じテーブルで食事をする。ダンシャンゲル公爵存命の時は、夫人であるレオノラにもメイドがついていて、毒見したあとの安全な食べ物を食べていた。今はデューンと合わせて、レオノラの分もカシーネが毒見する。

「ガイモスの王宮内での観覧は、間もなくのようですね」

 レオノラが言う。

「レオノラ夫人は、ガイモスはもうご覧に?」

 デューンは、レオノラに聞いた。

「いえ、ダンシャンゲル公爵と近々行こうと話していた矢先に・・・・」

「そうですか。それは嫌な事を思い出させてしまいました」

「気になさらずに・・・・・。そういうデューン男爵は?」

「もう見ました。そこのカシーネも一緒に」

「そうですか。・・・・・ガイモスは、滅亡したとされる4大奇獣の一つなのはご存知ですか?」

「巨象ガイモス、大鷲バール、猿人ピロテックス、大蛇メロキモス」

「よくご存じですね。ではその最後を?」

「2大神ウールとラールが分裂した『クラールの災厄』で滅んだと」

「いえ、それは違います。4大奇獣を滅ぼしたのは人間です」

「人間?」

「地上を楽園にしようとした人間たちは、自分たちの都合のいいように世界を作り替えようとしました。しかし、4大奇獣の存在はその邪魔だったのです。4大奇獣の生息地に侵入した人間たちは、その力の大きさに恐怖を抱きました。そして、その存在を排除しようとしたのです。何千年という時間をかけて人間たちは4大奇獣を追い詰めましたが、それでもわずかな数が細々と生き続けていました。それも滅んだのは、七つの魔界、七つの帝国が滅んだ時。メトローマス・エイン・マクガイアス大帝はそれらとともに4大奇獣も滅ぼしたのです」

「メトローマス大帝が?」

「滅ぼした後に、人間たちは気付きました。4大奇獣は種は別でも一つのものだったと。地と空と森。このどれが欠けても、世界は世界でなくなる。人間たちは、4大奇獣を滅ぼしたことで世界がばらばらに分裂するのを恐れて、その最後をねつ造しました。ウールとラールとともに4大奇獣は滅んだと。それまで4大奇獣は一つだったと」

「それは違いますな」

 デューンが、レオノラに反論する。

「4大奇獣は一つではなかった。魔界が世界を侵食した時、その魔力に侵されたひとつの種が他の種を裏切った」

 レオノラの表情が冷たくなる。

「その、一つの種は何だったのですか」

「大蛇メロキモスです」

「地を這うもの・・・・ですね」

「メロキモスは、他の種を圧倒する力を得られると魔族にそそのかされ、同じ地上を支配するガイモスの子供を食らった。そして、魔族の暗殺者になり下がったのです。魔族は人間たちの欲望を利用し、消してしまいたい人間に人間の姿で近寄ると、言葉巧みにその心を奪い、最後に死の接吻を贈った。魔族の死の接吻を受けたものはすべてメロキモスの餌食になった」

「よくそのようなことを御存じですね」

 そのレオノラの口調には、感情が全く入っていなかった。

「いえ、これはすべて執事のローディンからの受け売りです。実際のところ、どこまでが本当なのかは自分にもわかりません」

 デューンは、レオノラの表情を見ながら、自嘲的に笑った。


 デューンが外出の準備をしているところへ、ローディンがやってきた。

「デューン男爵。火急な用件が」

「なんだ。これから、ロイメルチームとボトスの練習なんだ。あとにはできないのか」

「では、用件だけ。最上階の食堂についてですが、天井に何カ所かヒビを発見しましたので、天井の張り替え工事を行います。本日から3日程度、階下の客間で食事を取ってもらいます」

「今夜からだと?もっと先にできないのか?レオノラ夫人がいるんだぞ」

「承知しております。しかし、ガイモスの観覧が王宮内で始まると、観覧が終わるまで工事は行えなくなります。観覧が始まる前までに工事を終わらせてしまいたいので、不便をおかけしますが、工事を始めさせてもらいます。レオノラ夫人にはわたしから説明しておきますので」

「・・・・・第一、たった3日で終わるのか、あの広い食堂の天井全部を?」

 ローディンは廊下の方を見て言った。

「入れ」

 すると、ぞろぞろと屈強な男達が十数人入ってきた。

「ウールクラール軍が誇る城砦じょうさい築造部隊あがりの建築士たちです」

「城砦築造部隊?」

「ここにいる全員が、アルギユヌスが推薦するプロフェッショナル。腕に間違いありません。必ず期日までに完了させます」

 すると、先頭にいた棟梁らしき男がにんまりと笑って言った。

「おまかせを」

 デューンはうなづいた。

「アルギユヌスの推薦なら間違いなかろう。ローディン、工事の方は進めてくれ」

「分かりました」

 ローディンは、デューンに頭を下げた。


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