第11話 未亡人レオノラ
彼女を西の塔に迎え入れたことは、吉と出るか、凶と出るか。
レオノラは、身一つだけで西の塔にやってきた。
デューン達は、レオノラを西の塔の扉の前で出迎えた。
「マイフリュースト、レオノラ夫人」
未亡人の黒いベールで顔を覆った女性には、公爵や伯爵の爵位はつけないで呼称する。
「あまりにも急なことで、心も落ち着かないことでしょう。ドビュアー侍従長からこの話を頂いて間もないため準備も整いきれていませんが、葬儀が行われるまでの間、少しでもお役にたてれば」
「ありがたい言葉ですデューン男爵。突然のことで、迷惑に感じていることと思いますが、葬儀が行われるまではわたしは王宮を離れるわけにはいきません。そんな行き場のないわたしを迷惑を顧みず招いていただいて、今は感謝の気持ちでいっぱいです」
「では、塔の中へ」
レオノラは、塔の中に入ると黒いベールを外した。
特徴的なのはその髪の毛の色。
レオノラの髪は、濃い紫色をしていた。
その紫色に波打つ長い髪を束ねたレオノラは、物憂げな深い灰色の目をしていた。
レオノラが中に入ってくると、ローディンとカシーネが前に進み出た。
「執事のローディンです」
「デューン男爵のメイド、カシーネです」
「ローディン・・・・、噂は聞いているわ。有能な執事だともっぱらの評判ですよ」
「ありがとうございます」
レオノラは、カシーネの方を向いた。
「カシーネは、どこの出身?」
「わたしは、エルデラ38部族の内の一つ、カリウェル族の出身です」
「カリウェル・・・・エルデラ38部族の中で最も古い歴史を持つとされる一族ね」
「よくご存じですね」
「わたしも北方の古い一族の出なのです。だから。民族のいわれや、その歴史には明るいのです」
「北方のことを知る人が増えることはうれしいことです。この塔のことは遠慮なくわたしに聞いて下さい」
レオノラは、笑顔を浮かべながらうなづいた。
「塔の中では、このカシーネに何かとお申しつけを。ただ、デューン男爵外出の際にはカシーネもこの塔からいなくなりますので、その場合は、配膳係のドリューか、パーティルまで」
傍にいたドリューとパーティルは、ローディンの紹介に合わせて、お辞儀をした。
「では、お部屋に案内します」
カシーネの部屋は、メイド控室を挟んだデューンの寝室の隣だった。その大きさはデューンの寝室とほぼ同じで、より女性的な装飾が施された豪奢なつくりだ。
「・・・・・このような豪華な部屋を?わたしのような者にはもったいありません」
「ここは、かつて西の塔の主だった方の妻の部屋。女性を招くのに適当な他の部屋が見当たらなかったのです」
「先ほど通り過ぎたデューン男爵の寝室の隣の部屋は?わたしごときにはあの程度の部屋で十分です」
そこは、例の天井が低くなった謎の空間がある部屋。
「あそこは、今閉鎖されているのです」
「閉鎖?なぜですか?」
「ローディン様の命令です。レオノラ夫人もあそこには立ち入ることのなきようにお願いいたします」
「そうですか。ローディンの命令なのであれば、招待客のわたしも聞かなければなりませんね」
うなづくカシーネ。
「夕食まではご自由にしていて下さい。着替えなどは用意してありますがお気に召さなければお呼びください。交換いたします」
カシーネはそう言うと部屋を出て行こうとした。
「カシーネ」
レオノラが呼び止める。振り向くカシーネ。
「シデオールには北方出身の者は少ない。カシーネは、その数少ない北方出身の仲間。短い間とは思うけれど、身分に関係なく、わたしのよき話し相手になってね」
「分かりました」
カシーネは笑顔で答えた。




