第1話 キルンの森での出会い
伝説とされた四大奇獣のひとつ巨象ガイモスが現れる。折も折、月明りの塔の火災で未亡人となった公爵夫人を西の塔に受け入れることに。だが、これがすべての始まりだった。
今回は一大スペクタクル!
大地を揺るがす足音、炎を上げる王宮、迫りくる地を這う暗闇、危機また危機の連続!果たして、じゅくじゅく坊ちゃんはこの一年を乗り切れるか?
5人目は、はち切れんばかりのダイナマイトボディに、これでもかというほどの天真爛漫さ。ついに願いも成就!果たして、これで王子の何かが変わるのか?
(カシーネ編 全30話)
最近サービスカットが少ないって?
バカ言え、この物語はそっち系の話じゃないんだぜ?
エロシーンは物語の必然。
サービスカットなんかじゃない。
え?
自分でサービスカットって言っている?
・・・・・・ホントだ。
でもそいつは言葉のアヤって奴だ。
そんなこと気にしてから、本筋から外れちまうぜ?
もう一度言う。
諸君、言葉のマジックにだまされないように。
ま、それにしてもじゅくじゅく坊ちゃん成長がない。
もういい加減、朝トイレの洗礼やめたら?
だって、今のところ成功できたためしがない。
それでも、たぎる血がそれをやめさせてくれないのか?
自分の意志で本能を抑えきれない。
それも、じゅくじゅく坊ちゃんのじゅくじゅく坊ちゃんたる所以だ。
◆
今から2週間ばかり前の話。
なぜか、場所はシデオールから遥かに離れたキルンの森。
シデオール近くにあるウークの森と違い、北方に近いキルンの森には、まだほとんど人の手が入っていない。
そこに暮らす人々は厳しい環境の中、森を少しずつ開拓しながら木材や食材など、森のもたらす様々な恵みをシデオールに送っている。
その人々の慰労のため、ウールクラール王は何年かに一度、辺境キルンの森を訪れていた。
コルムナスも一度だけキルンの森を訪れたが、コルムナス亡きあと王妃エスペリエンザは、まだ一度もその地を訪れていなかった。
キルンの森は、北方に近くウールクラールへの属性が薄い。それを強固なものにするためには、開拓者たちへの慰労は欠かせないもの。そう考えた執政官は、王妃にキルンの森に訪問を依頼。シデオールから離れることを渋っていたエスペリエンザもついに、キルンの森を訪れた。
その帰りのことである。
森の中を、王妃の行列が進んでいると、突然黒雲が空を覆い、怪しげな光をその内に光らせ始めた。
「まずいな。ひと雨きそうだ。この先に、休めそうな場所がないか見てくるんだ」
侍従は、警護の王宮騎士団の一人に依頼した。
その直後のことである。
行列を閃光が覆った。
巨大な爆発音。
落雷だ。
それは、エスペリエンザの近くの大木を引き裂いた。
真っ二つに割れた大木が倒れ、行列を分断する。
それに驚いたエスペリエンザの馬車馬が、御者を振り落とし、森の中に走り始めた。
侍従がそれに気付いた時は、馬車は森の奥に姿を消すところだった。
混乱するエスペリエンザ。
縦に横に揺れる馬車の中で、物に掴まって倒れないようにするのが精一杯。
と、突然馬車が止まった。
エスペリエンザは、しばらく耳を澄ませたが、侍従の声も何もしないことが分かり、自ら動くしかないことを自覚した。
エスペリエンザは、恐る恐る馬車の扉を開けると、馬車を降りた。
「侍従、誰かいないの?」
馬車の周りを見ても、人は誰もいない。
馬車の後方には黒い森が広がっているだけ。
前の方に行くと、馬が2頭ブルブルと小刻みにその場で足踏みしている。まだ、興奮状態は続いているようだが、なぜか前に走りだそうとはしていない。
「どうしたの?なぜ、こんなところで止まったの?」
無駄とは知りつつも、馬に思わず話しかけるエスペリエンザ。それほどまでに、森の中での孤立は、心細さを助長する。
そのとき、エスペリエンザは、間近に何かの気配を感じた。
振り返ったエスペリエンザの目に、森の暗闇の中に浮かぶ幾つもの光が映った。それは鋭い眼光がもたらす光。エスペリエンザは、無数の狼たちに取り囲まれていた。
エスペリエンザが、馬車に戻ろうと振り向くと、その扉の前には一匹の巨大な狼が。エスペリエンザは馬車の中にも戻れなくなった。
エスペリエンザは、唯一近くにあった御者の鞭を手に取って、地面を叩いた。その音に、狼たちは一瞬ひるむも、再びエスペリエンザを取り囲む包囲網を縮めてくる。
エスペリエンザが、再度鞭を振り上げたその瞬間、
「やめなさい!」
突然馬車の後方から声がした。
後ろを振り向くと、一人の若い女が馬車のほうに歩いてくる。
馬車の扉前に陣取った狼は、女が間近を通り過ぎる時、一瞬唸り声を上げたが、女が手のひらを向けると大人しくなった。
「鞭を置いて。彼らを傷つけないで」
その女は、ぐるりとまわりを取り囲んだ狼の中心に行くと、四つん這いになった。
一匹の狼が前に出てくる。
女は、頭を低くして、四つん這いのままその狼に近づいた。そして、その狼の顎の下に入り込むとゆっくりと頭を上げた。
手で顎の下を撫でるかのように、頭で狼の顎の下をやさしく撫でる。
狼は、女のなすがまま。狼は、女に顎の下を撫でられた後、しばらく、その女の目をじっと見ていたが、やがて、一声吠えると、森の中へ帰って行った。他の狼たちもそれに倣う。
狼たちが森の奥に姿を消したのを確認すると、女は立ち上がった。
一方のエスペリエンザは、緊張感が切れてその場に崩れ落ちた。女が駆け寄る。
「大丈夫?」
エスペリエンザがかすかに目を開ける。
「簡単に立てそうにないわね。でも、ここに倒れているよりはいいわ」
そう言って、女はエスペリエンザの肩に手をまわして立ちあがらせ、馬車の扉を開けると、担ぎあげるようにエスペリエンザを馬車の中に入れた。座席に何とか座らせる。
自分もその横に座ると、女は腰に下げた袋の中を見た。
「・・・・一つだけか」
女は、中から木の実のような物を取りだした。
「今夜の食事だけど、いいわ。我慢する」
そうひとり言のように言うと、木の実をエスペリエンザの口に入れた。エスペリエンザは、目をつぶりながらも、もぐもぐと口を動かし木の実を噛み砕いて飲み込んだ。途端に目が開く。
「・・・・今のは?」
「クラッカスの実よ。一粒食べれば、山一つ越えることができる」
「なんだか、すごく気力が湧いてきたわ」
女は笑った。
「よかった。あなたは、何者?大方さっきの雷で馬たちが暴れて、隊列からはぐれた口でしょうけど」
女が聞く。
「その通りよ。わたしは、エスペリエンザ。あなたは?」
「わたしはカシーネ。エスペリエンザはどこから来たの?」
エスペリエンザの名を聞いても、王妃であることに気付いていない。それほどまでに、この地にはウールクラールの常識が届いていないのだ。
「わたしは、シデオールから来たの」
「シデオール!ウールクラールの都ね?」
「あなたはどこから来たの?」
「北からよ」
「北のどこから?」
「・・・・・実は、わたし逃げているの」
「逃げている?」
「わたしの故郷では、土地の族長同士の子が夫婦になると決められている。でも、わたしはどうしても、その相手と結婚したくなかった。それで、故郷を飛び出して来ちゃったの」
「そんな無茶をしてこれからどうするの?」
エスペリエンザは、カシーネが思ったより幼いことに気付いた。つい、自分の娘のような感覚になり心配になって聞いた。
「故郷を飛び出してからいろいろやった。果物の売り子や、飲み屋の踊り子、大道芸の動物使いもやった」
「動物使い?そう、さっき、あなた狼をどうやって追い払ったの?」
「わたしの一族には昔から、動物たちと心を通わせる力がある。でも、わたしが心通わせることができるのは、四足の動物だけ。空飛ぶ鳥や、地を這うものや、木々を渡る動物とは心を通わせられない」
「そう・・・・不思議な力ね」
「でも、お金にはならない。せいぜい大道芸の動物使いが関の山。しまいには、裸になってお金を稼げと言われてそこを飛び出したの」
「まあひどい」
「ちゃんとした仕事について、自分の一人の力で未来を切り開いていきたい。もし相手に見つけられた時、自分の力で生活できていなかったら引き戻される。そうなったらもう逃げ出すことなんてできない」
「ちゃんとした仕事?」
「目の前のお金のためじゃなく、自分の力を全て捧げられるような仕事。そのためなら、どんなことでもする自信がある」
「どんなことでも?」
「ええ」
「・・・・・それなら、ちょうどいい仕事があるわ」




