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第8話 秘められていた力

その力は、魔女のものなのか?それとも‥‥。

 翌日早朝から王宮舞踏会の準備は始まった。

 各公爵や伯爵達の執事が、会場準備の手伝いに来る。

 王宮内の執事はもちろん、メイドたちも手伝いに来ていた。

 その中にはクレールも、アシュエルも混じっていた。

 クレールは、外の看板を引き上げる作業を指揮していた。

「いいか、この看板は綱二本だけで吊っている。その末端をきちんと縛り付けておかないと、あれが落下したら、下にいた人間はひとたまりもない。舞踏会での安全性はお前たちにかかっているんだ」

 作業員に、看板を引き揚げさせるクレール。

 そこへ、アシュエルが歩いてきた。

「アシュエル・・・・・もう、体は大丈夫なのか?」

「はい・・・・あの」

「うん?」

「先日は大変失礼なことを」

 アシュエルは、頭を下げた。

「失礼なこと?」

「あの・・・・クレール様に口づけを・・・・」

 クレールは、唇をかみしめた。いつものクールな表情が緩む。

「・・・・・怒っていますか?」

 無言のままのクレールに、アシュエルは恐る恐る聞いた。

「・・・・・この間のことは何も覚えていないと聞いたが、ホントなのか?」

「はい、わたしは正気を失っていたようです。あんなに破廉恥なことを皆の見ている目の前で・・・・」

「あれは正気を失っている時にすべきことではないな」

「申し訳ありません」

「ホントのアシュエルの気持ちはどうだったんだ?」

「えっ?」

「今でも、わたしと口づけしたいと考えているか?」

 アシュエルは、言葉に詰まった。

「・・・・・もし、そうしたいと考えてくれているなら、うれしい限りだ。自分に少し自信が持てる。こんな無愛想な自分でも女性から求められることもあるんだなと」

 クレールのその言葉は、デューンの言葉を思い出させた。

「俺に心を捧げないのなら、いつまでもそれを内に秘めておくな。そこまで人を想うことができるなら、もっと自分の気持ちに自信を持たなくちゃだめだ」

 自分の気持ちに自信を・・・・・。

「うれしい限りだなんて・・・わたしのような者が想いを寄せるなんてことは、・・・御迷惑ではありませんか?」

「迷惑なものか。確かにわたしの今の身分では、アシュエルの想いに答えることはできない。だが、人を想う気持ちは、身分や爵位など超越する。互いに待つ事だ。想いが枯れなければ、いずれ来たるべき時は来る」

 アシュエルは、クレールの目を見た。

 その目は、クレールの言葉が社交辞令の美辞麗句ではなく、心の底から出た真実の言葉であることを物語っていた。

「おい、王妃さまが見えられたらしいぞ」

 突然声が上がり、作業員が一斉にそちらに駆けだす。

「王妃さまというだけで、一目見ようとは。野次馬根性も甚だしいな」

 クレールが呆れたように言う。

「今は、明日の王宮舞踏会のことだけを考える時だ。まずは、明日の舞踏会を成功させることだけ考えようじゃないか」

「おっしゃるとおりです、クレール様。持ち場に戻ります」

 クレールはうなづいてアシュエルに背を向けると、看板の様子を見に行った。

 アシュエルも、持ち場の方に戻りかけた。

 その時、耳を逆なでするような何かがすれる音がした。

 何の音かとアシュエルが振り返った瞬間、吊りあげられた看板が落下してきた。

 あれだけクレールが注意したにもかかわらず、作業員は、王妃の方に気がいって、綱の結び目をいい加減にしたまま持ち場を離れてしまったのだ。

 看板が落下するその真下にはクレールが。

 このままでは、クレールはその下敷きになり、命はない。

 アシュエルが駆けもどっている時間はなかった。

 アシュエルはとっさに両手を、看板の方に向けた。

 アシュエルの緑の瞳が黄金に輝く。

 その瞬間、看板は、膝を折ってかがんでいたクレールのわずか上の空中で止まった。

 透明な糸で釣られているかのように、ゆっくりと床に降りて行く看板。

 その看板を、驚きの表情で見ていたクレールがアシュエルに気付く。

 クレールは、立ち上がり、周囲に誰もいないことを確認すると、アシュエルに近づいた。

「アシュエル・・・・今のはアシュエルが?」

 アシュエルは、首を横に振った。

「分かりません。・・・・・ただ、ただ夢中で、看板が止まるように祈ったんです」

「・・・・・アシュエル。その力は、皆の見ている目の前では決して使うな。その力がどこから来るのか分からないが、必ず魔女だと誤解される」

「クレール様、信じて下さい。わたしは決して魔女などでは・・・・」

 クレールは、アシュエルを抱きしめた。

「たとえ、わたしの身分がアシュエルを守りきれなくても、わたしの心は常にアシュエルを信じ続ける。わたしは、迷信や言い伝えは信じない。わたしが信じるものは、今、目の前にある現実の物とその心だけだ」

 クレールは、アシュエルを引き離した。

「行くんだアシュエル。何もなかったように、今までどおり働くんだ」

 アシュエルは、うなづくと持ち場に戻って行った。


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