第7話 黄金の瞳の魔力
これは、メイドに課せられた呪いなのか?
「キルマー、手伝ってくれない?」
キルマーが配膳係の控室で休んでいると、アシュエルが飛び込んできた。
「どうしたの?アシュエル」
「あさっての王宮舞踏会で、デューン様が使う被りものを探してほしいの」
「どんなもの?クローゼットにはなかったの?」
「赤に緑色のリボンがあって、孔雀の羽根がついているそうよ。クローゼットにはなかったから、奥の倉庫を探してみろと言うの。奥の倉庫は行った事がないから、どこに何があるか・・・」
「わかったわ。行きましょう」
キルマーは休み時間を返上して、アシュエルと奥の倉庫に行った。
倉庫には、何段もある高い棚がいくつも並んでいる。
「この中から探せと言うの・・・・?」
アシュエルがため息をつくと、
「こっちよ、演芸用品をしまうとしたらそっちの棚じゃない」
さすが10年のベテラン、キルマー。倉庫の中も、何がどこにあるか心得ている。
「すごい、キルマーってホントに知らないことがないのね」
「この倉庫の中も時々掃除しているから、いやでも何がどこにあるか覚えてしまうの」
アシュエルに称賛されて、まんざらでもなさそうなキルマー。
キルマーは梯子を運んでくる。
「アシュエルは下を探して。あたしは、3段目から上を探してくる」
「そんな、キルマーを高い所に行かせるわけにはいかないわ。危ないもの。わたしが行く」
「大丈夫よ」
「だめ。こういう時は、若い方が高い所に行くものなの」
キルマーは、あきらめてやれやれと言う表情で笑うと、アシュエルに梯子を渡した。
アシュエルは、梯子を棚にかけると、上に登っていく。
と、そこへデューンがやってきた。
「どうだ、見つかったか?」
アシュエルは、梯子の上からデューンを見ろして、
「デューン様。どうしてここに?」
「その被り物が早く見つからないと他の服装が決まらないんだ。急いでいる」
急かす、急かす。
これも、デューンのメイドに対するいやがらせか?
「分かりました。今、下の方でキルマーも探しているので」
「キルマー?」
キルマーは、棚の奥に入りこんで探しているので、デューンからは見えない。
デューンが、梯子の下まで歩いてくる。
その様子を梯子の上から見ているアシュエルの表情が変わった。
緑色の瞳に、チラチラと黄金色の光が混じり始める。
「キルマー、そんなところに本当にあるのか?」
アシュエルの真下に無防備なデューンの頭が見える。
「どこかで見た気がするんです。確かこの辺で・・・・」
その時、デューンが何かに気付いて、棚に手を突っ込んだ。
「おい、お前たちの目は節穴か?ここにあるじゃないか」
そう言って棚から引き出したデューンの手には赤地に緑リボン、孔雀の羽根の被り物が。
キルマーが、棚の奥から出てくる。
「あれま、デューン様、申し訳ありません。最近目の調子が悪くて・・・」
「老眼か?キルマーはまだそんな年じゃないだろう」
下でそんな会話をしている上では、黄金に輝きだした瞳のアシュエルが、棚の奥から重そうな入れ物を引きずり出す。
その引きずる音に気付いたキルマーが上を見るのと、アシュエルがその入れ物を落とすのは同時だった。
「危ない!」
キルマーは、デューンを突き飛ばした。
次の瞬間、重そうな入れ物は、キルマーの両手をはじいて床に落ちると、木端微塵に飛び散った。
ハッと我に帰るアシュエル。
「も、申し訳ありません!デューン様、お怪我は?」
アシュエルは、あわてて梯子を下りてきた。
「俺は大丈夫だ。それよりキルマーを見てやれ」
キルマーは両手を合わせてぶるぶると震えている。
「キルマー!大丈夫?」
「大丈夫・・・・・手をぶつけただけだから・・・・」
「見せて。手を開いたり閉じたりできる?」
キルマーは、両手を握ろうとしたが、指先が少ししか曲がらなかった。
「これでは何も握れないわ」
アシュエルが言う。
「大丈夫、握るのはダメでも、配膳台を運ぶだけなら手首を使えばいいから」
「だめよ。しばらく手を使う作業をしちゃだめ」
「とにかく、王宮医師にすぐに診てもらおう」
デューンは、キルマーを立たせると、肩を支えてゆっくりと歩き始めた。
アシュエルは、しばらくその場を動けなった。
明らかに自分と違う意思が、入れ物を落とした。
メロディアの言葉なんか聞いていないのに・・・・それならば、自分の意志であの入れ物を落としたの?
デューン様に怪我を・・・・いえ、命も落としかねないような危険な目にデューン様を遭わせた。
わたしが・・・・。




