第14話 妬みと祝福
おいしい料理が食べられなくなるのはさみしいけれど‥‥送り出すのが主の務め!
雅牙の塔の大広間。
正面演壇の上には、王妃エスペリエンザ。
その右手に執政官カルモス・ゲイレン六世、左手にドビュアーが控えている。
「ウールクラール王国を支える愛国者、そして我が親愛なる友たち。あなた達のおかげで、ウールクラール王国は成りたっています。まずはそのことに感謝を」
いつもの決まり文句をエスペリエンザが宣言する。
その額には王妃の象徴ミエプリマが緑の輝きを放っている。
「一人の脱獄犯が、こんなにも王宮を恐怖に陥れたことがあったでしょうか。我が息子ペトリアヌスの執事だったプリンシファ。この憎むべき男は、罪もない執政官のメイドを毒殺しました。王宮への復讐はまだ続くと思われましたが、王宮には平静が戻りました。わたしは信じました。王宮騎士団の警備の前に、その災いは抑え込まれたと。いいえ、プリンシファは新たな刃を研ぎ澄ませていただけでした。昨夜、西の塔にプリンシファが現れ、デューンを亡き者にしようとしたのです。しかし、プリンシファは、メイドのペイネントに、その命をかけた方法で倒されました。紹介します」
演壇下に控えていたペイネントは、演壇に上った。
侍従長ドビュアーが、エスペリエンザの横に進み出る。
「今回、デューン男爵の命を救った功績により、ペイネントにはレディプラウド褒章が授与される。メイドの職は解任され、しかるべき身分が与えられる」
大広間は、ペイネントに対する惜しみない拍手に包まれた。
ペイネントの表情は、複雑だった。
姉の罪を背負い、プリンシファとともに地獄に落ちる覚悟だった自分が、このような祝福を受けていいのか。
無言のまま、壇下に目を移したときユーグと目が合った。
その邪気のない目を見た時、ペイネントの煩悶は終わりを告げた。
わたしは、この人のために生きなければならない。
そして、この世で幸せを掴めなかった姉エレーナリントとプリンシファのためにも。
ペイネントは、大広間の聴衆に笑顔でこたえ、深々と頭を下げた。
「住む場所はもう決まっているのか?」
西の塔の扉の前で、ローディンが聞く。
「ビジュヨルドの近くに住まいを探しました」
ユーグが答える。
「花屋のクインランも近いんでちょうどいいんです」
とペイネント。
「花屋?また花屋に戻るのか?」
とデューン。
「・・・・・・クインランの仕事がなかったら、この西の塔のメイドになっても、ユーグと会う機会はなかったかもしれない。クインランは、わたしたちを結びつけてくれたキューピットなんです」
「なるほど、恋のキューピットの近くに、愛の巣を作ろうとそういうわけか」
デューンが言うと、ローディンが、
「デューン男爵、幸せな2人を前に、妬み嫉みはそれくらいにしましょう」
「俺は、妬みも嫉みもしていない!」
ユーグとペイネントは2人の会話で笑顔になる。
「これから食事の楽しみがなくなるな」
ローディンが言うと、
「大丈夫です。僕の料理法は厨房の全員が習得済みですから」
「だが、たまには、ユーグの料理も食べてみたい・・・・。よし、決めた。西の塔だけでレストランのコンテストをしよう。ビジュヨルドやミシュゲイレンみたいなレストランを集めて、どのレストランの食事が一番うまいか、みんなで決めるんだ」
デューンが言う。
「それ、面白いですね」
ユーグは乗り気。
「誰が、その資金を工面するんです?申し訳ありませんが、デューン男爵には、ビジュヨルドで食事できるほどの金もないんですよ」
ローディンが釘を指すと、
「なら、王宮全体のコントテストにすればいい。そうすりゃ、資金問題解決だ。早速、侍従長に提案だ」
ローディンは肩でため息をついた。
「ぜひ、そのアイデアが実現するのを楽しみにしています」
ユーグが言うと、
「その時また会おう」
デューンは答えた。
「デューン様」
ペイネントがデューンに呼びかける。
「うん?」
ペイネントは、いつもの明るく柔らかな笑顔で言った。
「デューン様に、竜の守りの恩寵がありますように」
デューンは笑顔でうなづいた。
2人の後ろ姿が、西の塔から遠のいて行く。
「ああ、デューン様、先ほどのコンテストの話ですが・・・・」
「なんだ?もう決めたんだ。やるぞ」
「いやいや、その前にまず根回ししないと・・・」
「根回し?俺にそんな難しいこと出来るか」
「しかし・・・」
「それが執事の役目だろ。やれ!」
2人は、最後まで言いあいながら西の塔へと入っていった。
これが、デューン男爵19歳の時に起こった出来事である。
そして、このとき三つめの卵が割れた。
そろそろ、主と執事のデコボコぶりが浮きたってきましたね。
次のメイドは、ちょっとシリアス。
次第に、本悪の姿もちらほらと。
4人目もお楽しみに!




