第94話 初めての褒章
ついにじゅくじゅく坊ちゃんが王位に就く!
王になったじゅくじゅく坊ちゃんの最初の仕事はこれだった!
その何か月か後の、シデオールの王宮。
西の塔は、途中まで再建が進んでいた。
王が住まう雅牙の塔。
その扉をくぐると、何千人も入れそうな巨大な玄関ホールがあり、その奥には3メートルの柱の上に女神像が立つ。その左手の上には透明な水晶球がのっているが、それは「ウールの涙」ではない。
その女神像の背後には、王の戴冠の時にだけ開かれる扉がある。シデオール王宮中、最も煌びやかで荘厳な礼拝堂。そこには、ウールクラール中の名だたる諸侯と、今までデューンにかかわった人々が詰めかけている。
ミロディを始めとするメイドたち、アルギユヌスやユーグ、クレールと言った知己はもちろんのこと、ポールトのノーケイマン公爵や七島の族長たち、それにカイウス提督。さすがにキャプテンベロキーの姿はない。プリンテミリアからは、ギルモアのドレイク伯爵に娘のカテリナ、大僧正ベルトラにエルドラスのキンムリ、ガルタスのフークス公爵に、ボルテガのブロトーンも列席している。当然、グリムウェルのダーダルネン公爵とエルデラ38族長もいる。
本日は、デューン男爵25歳の誕生日。
そう、ついにデューンが、マクガイアスの王位を継ぐ日が来たのだ。
礼拝堂の壇上には、各教会の教主を束ねる大教主が立っている。
「デューン・エイン・マクガイアス男爵。ここへ」
デューンは、ぴっちりとした戴冠用の服装で、壇上に上がる。
「汝、癒しの神ウールと、勢力の神ラールの前にて、神の御子たるウールクラール国民のため、そのもてる知恵、もてる武技、もてる情熱のすべてをもって政を行うと誓うか」
デューンは、大教主を見上げて言った。
「誓います」
「王たるものの恩恵をあまねく、ウールクラール国民に与えると誓うか」
「誓います」
「良き時も、悪き時も、常に国民に寄り添い、ウールクラール国民の心の支えとなることを誓うか」
「誓います」
大教主は、礼拝堂の祭壇の上に置かれた王冠を両手に取る。
「デューン・エイン・マクガイアス。ウールクラール王国マクガイアス王朝第657代王。その誕生をここに告げる」
大教主はそう言うと、王冠をデューン男爵の頭に戴せた。
デューンは、人々の方を見た。割れんばかりの拍手が礼拝堂を満たす。
「ウールクラール王国を支える愛国者、そして我が親愛なる友たち。あなた達のおかげで、ウールクラール王国は成りたっている。まずはそのことに感謝を」
エスペリエンザの決まり文句をよどみなく言うデューン。
「今は亡きわが父コルムナス王、そして、わが兄ペトリアヌス男爵に、まずは報告したい。再びマクガイアス王政が復活したと。周知のとおり、マクガイアスの王位は常に短命だった。時には王位を継げずに命を落とすものもあった。この呪いは一体何だったのか。その正体は、他ならぬ執政官であるカルモス一族の謀略であった。この度のグリムウェルの謀反も、すべては執政官の陰謀の一端。その陰謀は、黒き竜の復活を招き、魔界の扉も再び開かれたが、寸でのところで世界の危機は回避された。黒き竜は執政官とともに消えた。長らく王宮に巣くっていた害悪は洗い流されたのだ。これから王宮は、いや、ウールクラールは、新たな時代を迎える。そのために、まずわたしは新たな執政官を任命する。ハーディガン・モロトイコ」
人々の先頭にいたハーディガンが、一歩前に出る。
「そなたを、新たな執政官に任命する」
新王に向かって頭を下げるハーディガン。
「黒き竜は言った。お前たちに神と同じ領域にまで達することができるものを与えても、それを制御することができず、いつまでたっても愚かなままだ。そのような人間どもは滅ぼしてしまおうと。だが、わたしは黒き竜に約束した。人間は変わる。古き暗黒の時代を捨て去り、新たな光の時代を作り上げると。この約束が達成されなかった暁には、黒き竜によって人間は滅ぼされるだろう。だが、そんなことはさせない。我々は変わるのだ。光の時代は、わたし一人のものではない。ここにいる諸侯たち、そして、ウールクラール国民すべてのものだ。わたしとともに向かおう。新たな時代へ、光の時代へと」
「デューン新王に栄光あれ!」
そう叫んだのは、メッシュの族長だった。
その声にこたえるように、礼拝堂に集まった人々の歓声が響き渡った。
「デューン新王に栄光あれ!」
デューンは、片手を上げて歓声を鎮めた。
「ありがとう、諸君。あなたたちの祝福をありがたく頂戴した。わたしは先ほど約束した。王の恩恵をあまねく、国民に与えると。そこで、まずここで褒章を与えたいものがいる」
人々は互いの顔を見合った。
「古きものを変えるのには勇気がいる。その勇気を身をもってわたしに教えてくれたものがいる。プリンテミリアが災厄に襲われたとき、ギルモアでは、穀物不足による病気が人々の間に蔓延した。そのとき、ギルモア港は救援物資の穀物が大量にあったのだ。だが、港湾官は古いルールを理由に穀物の荷下ろしを禁じた。ギルモアでは港湾官の言葉は絶対。それには誰も逆らうことができなかった。ドレイク伯爵は、この時英断を下した。港湾官の言葉を曲げて、人々に穀物を分け与えたのだ。古きルールを曲げ、絶対のものに逆らう勇気をドレイク伯爵に与えたもの。その時、わたしはその勇気の大事さをその者から学んだのだ」
デューンは、そう言うと、階段を下りて、その人の前に膝まづいた。
それは、父の横に立っていた幼い女の子。
「ギルモアのカテリナ。あなたの言葉からわたしは多くを学んだ。その純粋な心が求めるものこそ、これからウールクラールが目指すもの。それを、わたしに示してくれたカテリナにレディプラウド褒章を授与する」
それを聞いたローディンは、礼拝堂の末席で笑顔になった。
満面の笑顔で、デューンの言葉に答えるカテリナ。
そのカテリナを、両手で抱きあげるデューン。
人々は、老若男女の分け隔てなく、良き行いにしかるべき栄誉を与えるデューンの姿勢を歓迎し、笑顔と拍手でこれを受け入れた。
その姿を確認したローディンは、一人礼拝堂を出ていった。
次回、いよいよ最終回!
半年以上に渡るご愛顧に感謝しつつ、感動のフィナーレ(?)を迎えます。




