第91話 GPの意味
ついに解き明かされるGPの意味!
扉の外に出た瞬間、デューンは肌をピリピリ差すような感覚を覚えた。デューンは一瞬立ち止まったが、その先にあるものを見てゆっくりと歩き出した。
遠目には、黒い岩のように見えた。
だが、近づくと、それが金属の放つ黒い光沢であることに気づいた。
形状は、卵を少し平たくしたようだが、よく見ると金色の縁取りが、縦横に走っている。まるで何かのパーツをはめて一つにまとめたかのようだ。
そのパーツの形を見たデューンは言った。
「鎧・・・・・黒く輝く鎧だ」
それを聞いた門番が、思わず言った。
「黒き鎧・・・・」
デューンたちの後を追ってきたグリムウェルの人々がその門番の言葉に反応する。
「黒き鎧?」
「黒き鎧が復活した」
「黒き鎧をまとえば、魔族など寄せ付けない」
「黒き鎧をまとったものは、助かるぞ」
「黒き鎧をまとえば・・・」
「黒き鎧は俺の物だ!」
誰かがそう叫んだのをきっかけに、人々は我先にと黒き鎧に向かって走り出した。
デューンは、押し寄せてくる人々をとどめようとした。
「待て!黒き鎧は、自分の身を守るだけじゃない!それをまとったものは、黒き竜と対峙しなければならないんだぞ!鎮まれ、よく考えるんだ!」
だが、デューンの叫びも、暴徒と化した人々の耳には届かなかった。
一番最初にたどり着いたものが、黒き鎧を持ち上げようとすると、別のものが最初の者を突き飛ばし、落とした黒き鎧を拾い上げる。途端に、男は目を見開いて動かなくなった。
男は背後から、短い槍のような物に貫かれていた。
短い槍を男から引き抜くと、刺した男は黒き鎧を拾い上げた。それを奪おうとした別の男は、隣に立っていた男の短い槍に突き刺された。
2人目を刺した男は、黒き鎧を拾い上げた男の隣に駆け寄った。
人々が、その2人に詰め寄ろうとするのを、デューンは両手を広げて押しとどめた。
「無駄だ。お前たちもああなりたいのか」
デューンは、短い槍に突き刺され、倒れた2人を顎で示した。
2人は、人々を短い槍で威嚇しながら後退していく。
人々は、2人が自分たちから離れていくのをただ見守ることしかできない。
人々の間を、短い槍を持った者たちが走り抜ける。
そして、2人の周りに集まった。
その中に、顔を黒いベールで覆い隠した者が混じっていた。
男は、黒き鎧を拾い上げた男の隣に立つと、ベールを外した。
「・・・・執政官・・・・」
それは、どさくさに紛れて姿を消したはずのゲイレン六世だった。
「その男たちは何者だ?もうコカの兵士はいないはずだぞ」
デューンが問う。
「この者たちは、コカの兵などではない。金のためなら何でもする超人集団、ペールギャンだ」
「ペールギャン?」
「カリギャンと分裂し、北方にとどまった者たちだ。彼らを倒すのは、常人には不可能。カリギャンでない限り」
すると、デューンの背後にいる人々の間からカリギャンたちが姿を現した。
ペールギャンたちが手に握っているのと同じ、短い槍のような物を一斉に手に取る。
デューンは、その気配を察知し、カリギャンに待つよう手で指示した。
「たったそれだけの人数で、俺たちに挑もうというのか。いくらペールギャンが超人だろうと、我々全員が束になってかかったら、ひとたまりもないぞ」
「わしらが、これだけと思ったら大間違いだぞ」
デューンたちの右手にある小高い丘の上に、一斉に人が並んだ。その数、優に千人を超す。千人を超すペールギャンが丘の上にずらりと並んだのだ。
「あきらめろ。奴らは、一人で20人を叩き潰せる実力の持ち主だ。手を出せば痛い目に遭うのはそっちの方だぞ」
ゲイレン六世は、愉快そう言った。
その時、キャリオンは何かに気づいた。
そして、デューンの隣に立つと言った。
「ならば、こちらも人数を増やすだけだ」
キャリオンの視線の方を見ると、左手の奥の方にある丘の上に何人かの人が姿を現した。その何人かに続いて人々が次々姿を現す。その数は、右手の丘の数を遥かに超えた。
「あれは、何だ?見た感じはウールクラール軍には見えないが・・・」
デューンが言うと、キャリオンは突然膝をつき、デューンに頭を下げた。
「デューン男爵、あれこそは、グローリンパストメント。黒竜王の血筋につながるものを探し出し、この世界に危機が訪れた時、その者を支え、仕える者」
「グローリンパストメント?グローリンパストメントは、マクガイアス王家の滅亡を狙う暗殺集団ではなかったのか?」
「そう誤解されても致し方ありません。グローリンパストメントは、その存在理由も、その存在そのものも誰にも知られるわけにはいかなかったのです。求める者がいれば、その反対に排除しようとする者も必ずいる。遥か昔から、黒竜王を滅ぼそうとする者は存在していました。それらの勢力との争いを避けるためには、すべてを隠し続けなければならなかったのです。我々は、お互いの顔さえ知らぬまま黒竜王の血につながるものを探し続けました。我々が集うとき、それは黒竜王の血につながるものを探し出せた時のみ。ただ、自分が探し出したものが、黒竜王の血につながるものでなかったとき、我々はそのことを他の者に知らせる必要がありました。その伝達手段として使ったのは、現場に残したGPというイニシャル。王族の誰かが亡くなるたびに残されていたGPのイニシャルは、不吉なものとして世に知れ渡ってしまいましたが、我々にはその方がよかったのです。GPの本当の意味を知られない方が」
「それが誤解の元だったのだな。しかし、それならどうやってあの者たちが集まったのだ」
「マウリンガが赤色に染まったときは、すべてのグローリンパストメントが集うとき。その合図があったからです」
「黒竜王の血につながるものが見つかったということか?」
「そうです」
「・・・・一体それは・・・・」
「デューン男爵、あなたこそは、黒竜王の血につながるもの。この世界を救えるのはあなただけです」
そう言うと、キャリオンは、再び深く頭を下げた。
それを聞いたゲイレン六世は吠えた。
「デューン男爵が、黒竜王の血を継ぐだと?王宮では、ボトス三昧で、挙句の果てには西の塔を崩壊させた。王宮の外に出れば、海賊どもやジャングルの部族どもと交わり、放蕩三昧のデューン男爵のどこに黒竜王の血が?この黒き鎧は地上と闇の国を統べる者に与えられたものだ。そのような者に渡すわけにはいかない」
ゲイレン六世は、黒き鎧を拾い上げたぺールギャンを見る。
だが、ペールギャンの方は、ゲイレン六世の方を見向きもしない。
「黒き鎧は、黒竜王の血につながるものが所有すべきもの!その鎧はデューン男爵に渡すのだ!」
キャリオンが叫ぶ。
「この黒き鎧は、わがカルモス一族が求め続けたものだ!この鎧はマクガイアスなどには渡さぬ!」
ゲイレン六世は、宣言するように叫んだ。
それが合図になったかのように、まずグローリンパストメントが動いた。丘から雪崩うったかのように人の波が押し寄せる。
それを見た、反対側のペールギャンも動いた。
数は圧倒的に少ないが、その戦闘能力を考えれば、2つの集団の衝突は双方に多大な被害を及ぼすのは明らか。
それを見たデューンはブロトーンに近づき言った。
「ブロトーン、雷の鉄槌を」
ブロトーンはうなづき人々の前に出ると、雷の鉄槌を天に掲げた。青空はみるみる曇り、上空に黒い怪しい雲が集まる。
ブロトーンは、鉄槌を地面に叩きつけた。
巨大な稲妻が、天と地をつなぐ。
凄まじい衝撃が丘の上まで伝わり、動きだした集団はその場にとどまった。
「双方鎮まれ!」
デューンが叫ぶ。
「魔界の扉が開いた今、人間同士が争っている場合ではない!いかにして魔族の襲撃に備えるのか!今考えるべきはそのこと!鎧のことで争ううちに、魔族はここへ到達してしまうぞ!」
人々は、稲光の幻惑から覚め始め、デューンの言葉に耳を傾けた。デューンは続けた。
「執政官、繰り返し言うが、その黒き鎧をまとったものは、それだけで地上と闇の国を統べるわけではない。同時に、黒き竜を倒さなければならない宿命を負うんだ。お前にその覚悟はあるのか?」
ゲイレン六世は、それを聞いていやらしい笑顔を浮かべた。
「よこせ」
ゲイレン六世は、黒き鎧を抱えたままのペールギャンに言った。
だが、隣に立っているペールギャンは、黒き鎧を渡すそぶりを見せない。ゲイレン六世は、隣にいるペールギャンを睨んだ。
「どうした!早くよこせ」
「聞けば、この鎧の価値は見た目の数百倍、いや数千倍はありそうだ。あの程度の金額であっさりと俺たちが渡すとでも?」
「何だと?」
「この鎧が欲しいのなら、あの金額の数千倍、いや数万倍の金額を払え。それができないというなら、この鎧はペールギャンがいただく」
「わしがそんな脅迫に屈するとでも?」
「俺たちを敵に回すといかに大変か一番知っているのは、執政官じゃないか?」
ゲイレン六世は、苦虫をかみつぶしたような表情になった。
執政官は、人を顎で使うことはあっても、自分の手は決して血に染めない。
男はそう高をくくっていた。
だから、自分の剣を奪われ、その胸に自分の剣が突き刺さった時も、何が起きたのか分からなかった。ゲイレン六世が自分のことを刺したと気付いた時は、その命は燃え尽きていた。




