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第76話 隠れ家を求めて

フランチェを救おうとするなら、探してはならない。

そして、彼女に見つかってはならない。

「これが?」

 ハーディガンは、キレミチリアの抽出液は初めてだったが、口に含んでも嫌な顔一つしない。

「・・・・大丈夫なのか、ハーディガン」

 デューンがその表情を見て聞く。

「・・・・悪くない。強いて言えば、少しクセはあるけどな」

 それを聞いて、デューンは、あらためてハーディガンの変人ぶりを痛感した。

「執政官は、レオノラ夫人の最後をフランチェに伝えたはず。そうなれば、カシーネもフランチェの復讐の対象だ。王妃様を含めて、マクガイアス王室にゆかりの者は、全員そこに身を隠すのだ」

 ローディンの一言で、ハーディガンやキャリオンらを含む総勢20人以上の人間が、ピロテックスの生息する聖域の森へと向かうこととなった。

「エルデラの族長たち。これから何が起こるか分からないが、俺の心配より、まずは自分たちの部族の安全を第一に考えてくれ。コカの軍隊の時と同じだ。俺は、必ずここへ戻ってくる」

 エルデラの族長たちにそう告げると、デューン男爵らは、聖域の森へと踏み込んだ。

 ピロテックスは、すぐに現れた。

 まるで待ち構えていたかのように。

「おぬしらは、何を求めてここへ来た?」

 脳に直接問いかけるピロテックス。

 それを受け、ローディンが言う。

「我々は、コカ中毒の軍隊を争うことなく追い払った。新たな争いの火種を残すことなく、多くの命が奪われる危機を回避したのだ。だが、もう一つの脅威が迫っている」

「・・・・・ユナイトマスターか?」

「そうだ。ユナイトマスターであるフランチェは、悪意に飲み込まれてしまった。自分はすべてに裏切られたと思い込み、デューン男爵に、いや全人類に復讐しようとしている。我々が探すまでもなく、フランチェは我々の前に現れる」

「ユナイトマスターに滅ぼされるのも、滅ぼされる前にかの者の命を奪うのも、すべてはおぬしらの選択次第だ」

「そのどちらも選択しない」

「ではどうするのだ」

「フランチェの心を再び取り戻す」

「そんなことができると?」

「そのカギを握る人物はいずれ現れる。だが、その前にデューン男爵が、フランチェに見つけられるわけにはいかないのだ」

「それと、おぬしらがここに現れたこととどういう関係が?」

 その問いには、ハーディガンが答える。

「フランチェはユナイトマスターだ。伝説の四大奇獣を駆使して、デューン男爵の命を狙うだろう。その中でも最も恐ろしいのはメロキモスだ。

 メロキモスを倒すことなかれ。

 その呪いは勝者を焼き尽くす。

 メロキモスに襲われたものは、それを倒した瞬間、紅蓮の炎で焼き尽くされる。メロキモスに狙われたら、この世界に逃げ場はない。だが、メロキモスが唯一入ることができない場所がある」

「・・・・それが、ここということか」

 脳に響いた言葉に、うなづくハーディガン。

「かつて、メロキモスは、ガイモスの領域を侵し、その子供を食らったが、ピロテックスの領域を侵すことはなかった」

「グリムウェルに向かっていたメロキモスも聖域は迂回した」

 ハーディガンを後押しするように、デューン男爵も言う。

「わしらを、人間たちの争いに巻き込むな」

 ピロテックスがくぎを刺すように言う。

 その言葉に、ハーディガンが反論した。

「かつて、四大奇獣こそは、地と空と森であり、この世界と闇の世界を隔てる防波堤だった。それを人間たちは、自分たちの領域を広げるために滅ぼした。防波堤が崩れ去った世界は、闇の国とつながり、魔族の侵入を許すこととなった。メトローマス大帝が現れるまで。もし、ここで、我々を見放すなら、人間たちは四大奇獣を敵とみなし、この世界から再び排除するだろう。それが、何を意味するかも知らずに。我々がどんなに説得しようと、一度間違った方向に転がり出したら、人間たちを止めるのは不可能。そうなれば、黒き竜の魔力がなくても、再び扉は開かれる。魔界と地上を隔ててきたメトローマス大帝の抑止力はもはや働いていない。四大奇獣亡きあとは、魔族と人類の血で血を洗うおぞましい争いが世界を覆うことになるのだ。慈悲深く、英知の広さ限りなき、ピロテックス。あなたたちは、それを望むのか?」

「・・・・おぬしは何者だ」

「ハーディガン。元王宮騎士団長にして、デューン男爵の元執事。今は世界を放浪する単なる旅人だ」

「・・・・おぬしらが待ち望む人物は必ず現れるのだな」

 ローディンがうなづいた。

「ならば、その人物が現れるまで、おぬしらをかくまおう。何があろうと、おぬしらをユナイトマスターの前にさらけ出すようなことはさせない」


「もう、デューン男爵に手出しはできなくなってしまいました」

 グルテスコは、片膝をついてゲイレン六世に言った。

 ここはエルデラの森の中。地面から張り出した巨大な根の上に腰かけているのはゲイレン六世。その背後には、フランチェが立っている。

「どういうことだ?」

「デューン男爵は、ピロテックスの神殿に入ってしまいました。ピロテックスの聖域には、他の奇獣は決して入りません。我々ができるのは、デューン男爵が自ら聖域から出てくるのを待つだけ」

 ゲイレン六世の問いにグルテスコは答えた。

「わたしから逃れようとしても無駄だ。たとえそこが聖域と呼ばれようと、わたしのしもべを拒むことはできない。わたしはユナイトマスター。ピロテックスもわたしの言いなり」

 フランチェが言う。

「本当にピロテックスを言いなりにできるのだろうな。万が一、ピロテックスの怒りを買うようなことがあれば、破壊の神が降臨するのだぞ」

 そのグルテスコの問いにフランチェは答えた。

「わたしは、禁断の地とされた聖域に踏み込んだ。他の人間たちとともに。聖域を侵されたピロテックスの怒りはいかばかりか。だが、破壊の神など降臨しなかった。そのような言い伝え、恐れるに足らず。いざ、聖域へ」


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