第74話 ハーディガン登場
執政官の嘘をひっぺ返すためには、その真意を突き止めねばならない。
そんなときに、いきなり登場するあの男‥‥!
その日も、空からフランチェを探していたロイメルは、デール川の北の方に立ち上る赤い煙を認めた。
大鷲バールは、その赤い煙に向かって飛んだ。
大鷲バールが舞い降りたのは、クランティカ平原の真ん中。
そこにいたのはほかならぬキャリオンだった。
大鷲バールから降りたロイメルは、キャリオンに駆け寄った。
「キャリオン、フランチェを見つけたのか?」
「ああ」
周りを見るロイメル。
「フランチェはどこに?」
「今ここにはいない」
「いない?」
「フランチェは、執政官の手に落ちた。フランチェは、自分にかかわったすべての者が、自分を騙し、裏切ったと思い込んでいる。もちろん、デューン男爵もだ。もう探す必要はない。フランチェは自分から姿を現す。すべての者に復讐するために」
キャリオンは、デューンの前に立っていた。
「結局、フランチェを取り戻すことはできませんでした。申し訳ありません」
「何を謝っている?あともう少しだったんだ。今回は、フランチェを取り戻すことはできなかったが、まだ終わったわけじゃない。フランチェは執政官の言いなりになっているだけだ。執政官の欺瞞をひっぺ返すことができれば、フランチェは誰が本当に自分を騙していたのか分かるはず。そして、その時、執政官の悪事がすべて暴かれることになるんだ」
デューンは言った。
「執政官の悪事・・・その悪事というのは一体何です?」
突然ローディンが、問いを投げかけた。
「決まっているじゃないか。俺の命を取るために、コカの軍隊を送り込み、それに失敗すると、今度はフランチェだ。これは、マクガイアスに対する反逆だ」
「それは、すでに皆が知っていること。執政官がデューン男爵の命を狙っていたのは、今となっては公然の秘密。しかし、執政官は、決して表に出てくることはなかった。それなのに、なぜここへきて突然自ら動き始めたのか?しかも、今までの慎重なやり方が嘘のように、手あたり次第だ。今までと違う何かが起きている。それが一体何なのか。執政官の真意を知らないまま動けば、むしろ危険になるのは我々の方です」
「危険になる?フランチェを取り戻すことで何が危険になると言うんだ」
「ピロテックスは言いました。フランチェを探すなと。人間が清廉な心を取り戻し、公平公正を世にあまねく広めること。そして、民族の違いや、能力の違いで差別し、排除することをやめるなら、フランチェは再び戻ってくると。だが、その前にフランチェが戻ってきたらどうなるのか。そのとき何が起こるのか、ピロテックスは何も教えてくれなかった」
「そんなことは、フランチェが戻ってきてから考えればいい。今は何より執政官の手からフランチェを取り戻すことが第一だ」
その時突然、ローディンではない別の男の声が割り込んだ。
「王たるもの、そのように性急な考えで政を行っては、国体は危うくなりますぞ」
デューンの言葉に反論した男は、一番後ろにいた。
その場にいた人々が一斉に後ろを振り向く。
その顔を見たデューンは愕然とした。
「・・・・ハーディガン」
ハーディガンは、ローディンの所に歩いていくと言った。
「ローディン・メクサス。お前の考え方は正しい。大事なのは、執政官の真の狙いをつきとめること」
エスペリエンザがハーディガンの前に出てくる。
「王妃様」
ハーディガンは、エスペリエンザに深く頭を下げた。
「頭を上げなさいハーディガン。お前を都から追放したことは過ちでした。お前なきあと、デューン男爵は何度も命を狙われ、西の塔は崩壊してしまいました。わたしの選択がそのような事態を招いてしまったのです」
「王妃様、ご自分を責めるのはおやめください。わたしがシデオールにいたとしても、それは止めようがなかった。マクガイアスの王はなぜ天命を全うできないのか。その呪いの謎をわたしは、探し求めてずっと旅してきました」
「その謎は解けたのですか?」
うなづいたハーディガンは言った。
「黒き鎧です」
「黒き鎧?」
「すべては黒き鎧の伝説が王宮に呪いをかけていたのです」
ハーディガンはゆっくりと語り出した。




