第3話 厨房での再会
明るい少女と、やさしい男子。
なんかどこかで見たことがあるような、ありがちな組み合わせだけど‥‥。
「ペイネント、今日の夕食時間を一時間早めるよう厨房に伝えてきてくれないか?」
「分かりました」
ローディンに言われ、ペイネントは厨房に向かった。
その途中に配膳係のおばちゃまたちが掃除をしている。
「おはよう、ドリュー。ご機嫌いかが?」
ペイネントが声をかける。
「元気よ」
「あたしもよ、ドリュー。パーティルも元気そうね」
反対側にいたパーティルも振り返る。
「元気よ。いつもペイネントが声をかけてくれるから元気が増すのよ」
「そう言ってくれるとうれしいわ」
「どこへいくの?ペイネント」
「ローディン様の言いつけで厨房に」
「もしかしたら、今は誰もいないかもよ」
「そう・・・・。でも、行くだけ行ってみるわ」
ペイネントは、厨房へと急いだ。
「すみません」
厨房の扉を開けると、確かに中は空っぽ。誰もいなかった。
「どなたかいませんか。ローディン様からの伝言をお伝えに」
「ローディン様の?」
声だけ聞こえて、ガンと言う音がした。
「イテッ!」
厨房の中央に置かれた作業台の下から頭を抱えて、ユーグが姿を現した。
「ああ、あなたは・・・・」
「君は・・・・ペイネント。どうしてここに?」
ユーグは頭を抱えながらペイネントに聞いた。
「わたし、デューン様のメイドになったの」
「メイドに?花屋は?」
「あれは、メイドになるまでの橋渡しの仕事」
「橋渡し・・・・。そうか、そうなのか・・・・」
ユーグは少し間をおいて、笑顔でペイネントを見た。
「サームゲンシア出のメイドが新しく入ったって聞いたんだけど、それはペイネントのことだったんだな」
「期待はずれだった?」
「そんなことないさ。うれしいよ。ペイネントと同じ仕事場で」
「ありがとう。あたしもユーグと同じ仕事場になれてよかった。・・・・ところで、ユーグは今何していたの?」
「作業台がガタついていたんでね。補修工事をしていたところさ」
「ユーグはそんなことまでするの?」
「僕は調理人であり、栄養士であり、厨房のデザイナーであり、楽しい食卓のプロデューサーなんだ。他の調理人たちがその力を存分に発揮できる厨房にすることも僕の仕事さ」
「自分の仕事に誇りを持っているのね」
「ああ。そのことが、みんなの笑顔につながることだからね。ペイネントだってそうだろ?」
「あ、ええ・・・・」
ペイネントは笑顔を作ったが、その表情にわずかに陰りが。
そのことにユーグが気づいたかどうかは分からない。
「それはそうと、ローディン様の伝言て?」
ユーグが聞く。
「ああ、そうだったわ。今夜の夕食を一時間早めてもらいたいって」
「一時間?それはもっと早く言ってくれなくちゃ」
ユーグは、駈け出した。
「ごめんなさい。あたし、いつも余計なこと言って大事な時間を無駄にしちゃうの」
ペイネントが謝ると、ユーグは振り向いて後ろ向きに走りながら、
「そんなことない。大丈夫だ。十分間に合うさ。今夜もおいしい物を提供するとローディン様に伝えておいて」
「わかったわ」
ユーグのやさしさは、ペイネントの顔にいつもの笑顔を取り戻した。




