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第1話 花屋の娘 

メイドに殺された兄王子の執事は、牢獄につながれていた。その執事が脱獄。王家に対する復讐の炎は西の塔に及ぶ。兄王子は本当にメイドに殺されたのか?その真実が解き明かされたとき、衝撃の結末が待っている。


3人目のメイドは、青い髪と青い瞳が印象的なアニメ系少女。しかも、花が大好きという典型的アレ。でも、そんな子に限って裏の顔は・・・・。


(ペイネント編 全14話)


挿絵(By みてみん)





 何?

 2人目の時は、じゅくじゅく坊ちゃんて、呼ばれなかったって?

 いいかい、命名者は変人ハーディガンだ。

 ハーディガンが出てこなきゃ、誰もデューンのことをじゅくじゅく坊ちゃんなんて呼ばないさ。そんなこと、王妃エスペリエンザに告げ口されたが最後、君はあっという間に首ちょんぱ!

 ハーディガンだからこそ言える、ハーディガンだからこそ許される呼称なわけだ。

 ならば、題名変えろって?

 いやだね。

 だって、たとえ呼ばれなくても、やっていることはじゅくじゅく坊ちゃんなんだから。


             ◆


 マーレヌノアの件では、相当数の遺体がデューンの浴室に転がった。

 遺体の検分を行ったローディンは、その遺体の一つ一つに、どこかで見たような印を見つけた。

「GP・・・・グローリンパストメント・・・・」

 そう、遺体には一人一人GPの文字が刻まれていた。

 デューンは、またしてもグローリンパストメントの襲撃を受けていた。

 それが、本物の秘密結社によるものか、その仕業に見せかけようとしているものかの真偽は分からぬまま。

「西の塔を出たい」

 デューンがそう言うのも無理はない。

 自分が切り倒した遺体が山積みとなっていた風呂に誰が入りたがる?

 だが、侍従長は、

「男爵は王位を継ぐまで西の塔にて住むのが習わし。それを曲げることは、いかなことがあっても認めぬ」

 王宮の中で侍従長にそう言われれば、従わざるを得ない。

 浴室は、壁の塗り替えが行われた。

 だが、床や壁にこびりついた血の匂いは消えていなかった。


 早朝の西の塔。

 そこには、その日の食卓に上がる食べ物の材料が山と運ばれてきていた。

「おはよう、ユーグ」

 食材の搬入業者の親父が、声をかける。

「おはよう、トゥーゲル。今日の食べ物の具合はどうだい?」

 言いながら、いくつかの野菜を取って、匂いや堅さなどを確認するユーグ。

「俺が言わなくても、ユーグの目利きの方が確実だろう」

 ユーグはにこっと笑う。

「ポロスはちょっと硬めだな。最近、熱い日が続いたから実が固まったか?」

 ポロスというのは、レタスのような緑の野菜だ。

「そうだな。葉っぱ系の野菜は固めになっている」

「一度火を通して、冷やそう。その方が栄養分も増える」

「食材を見ただけで、その日のメニューが決まるんだな」

「それが僕の仕事だからね」

 そう言った時、もう一台幌馬車が西の塔の前に止まった。。

 トゥーゲルとユーグがそちらを振り向く。

 幌馬車から降りてきた少女は、目を引くような青い髪をしていた。

「おはようございます」

 トゥーゲルとユーグに、笑顔で声をかける。

「おはようございます。・・・・・今日は何かありましたっけ?」

 こんな早い時間に動く業者はいない。ユーグは自分の知らないイベントがあるのか不安になり聞いた。

「今日は、お風呂場の匂いを消しに来ました」

「風呂場の?」

 ユーグは、幌の中を見た。

 中には色とりどりの花が積まれている。

「これはすごいな」

「東の地で栽培されている花です。この花の組み合わせで、匂いを消したり、気分をリラックスさせたりすることができるんです」

「東の地・・・・君も東の出身なの?」

「サームゲンシアの出です」

「サームゲンシア・・・・。四季が変わるごとに彩が変わる神々の箱庭。そこに住む人々はすべて草木や花々と話ができると聞く。君もそうなの?」

 少女は笑った。

「そんな、超能力は誰も持っていないわ」

 そのとき、少女のお腹がぐうっとなった。

 あわてて、恥ずかしげにお腹を押さえる。

「何も食べていないの?」

 ユーグが聞く。

 伏せ目がちに少女はこくりとうなづいた。

 ちらりと、ユーグが持ったままのポロスを見る。

「ああ、ちょっとかたいけど・・・・食べる?」

 少女は、大きくうなづいた。

 ユーグが渡すと嬉しそうにほおばる。

 少女にあるまじき豪快な食べっぷりに目を丸くするユーグ。

 ぺろりとポロスを食べ終わる。

「おいしかった。朝早くて朝食を食べてこられなかったから、どうしようと思ってたの」

「でも、だいぶかたくなかった?」

「このかたさなら、細く切って炒め物に和えると、食感がよくて食べ物が進むと思うわ」

 少女の助言に、ユーグは、トゥーゲルの方を見た。

 トゥーゲルが、肩をすくめる。

「ありがとう。参考にさせてもらうよ」

「参考?」

「僕は、この西の塔の厨房で働いているんだ」

「そう」

 少女は、幌馬車の方に戻ろうとした。

「あっ、君何て名前?」

 少女は振り向いた。

「ペイネントよ。あなたは?」

「僕はユーグ」

「ユーグ。朝食をありがとう」

 にっこりと笑ったペイネントは自分の仕事に戻った。


 その日、ドビュアーの元をローディンが尋ねた。

「何用だ」

 相変わらず、数段高くなった所にある机から目を離さないまま言う。

「今日伺ったのは、改築の資料の件について」

「完成したのか?」

「いえ、前の設計士が途中で契約を破棄しましたので」

「例の一件でメイドと一緒に逃げた奴か。仕事より女を取るとはまったく無責任な奴よの」

「実はその設計士、西の塔の図面は完成させておりました」

「ほう、ならばあとは、その図面をもとに著名な設計士に改築案を求めればよいではないか」

「ところがそうはいかないのです」

「何故じゃ」

「前の設計士は、建築士でもあり測量の技能にも秀でていました。その設計士が、こう書き残していったのです」

「・・・・何と書き残したのだ」

「何度測量しても、ありえない空間が存在する。他の者にも測量させ、自分の数値が正しいか検証させるように、と」

「あり得ない空間?」

 ドビュアーが顔を上げる。

「今度は、建築と設計両方できる者ではなく、一級の建築士と設計士を別々に仕事をさせ、2つの側面からそんな空間が実在するのか検証しようと考えております。さらにそんな空間があるなら、徹底的に調査をさせたいのですが、何しろ一級の建築士と設計士をいっぺんに雇おうと言うのです。お金がいくらあっても足りません。つきましては、費用の一部を王宮に負担していただけないかと」

 すべての塔で同じように対応していることなら費用は全て王宮持ちだが、それぞれの塔に特化したものについては各塔ごとに費用負担となる。男爵の地位のデューンにはほとんど自由に使える金は支給されていなかったのだ。

「金の無心か」

「恥ずかしながら」

「残念だが、西の塔にだけそんなに金をかけられん」

「しかし、それでは改築資料はいつまでも完成しません」

「ならば、改築の件は一時棚上げだ。しかるべく環境が整ったら改めて沙汰する」

「それでは、手立てが遅れてしまうのでは?何かあってからでは遅くなってしまいます」

「・・・・・この件はこれにて、終了」

 びしっと宣言すると、ドビュアーはローディンを無視し、机上の仕事に戻った。


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