第15話 祝福と報酬
後悔あとに立たず、早まったなアルギユヌス‥‥だが、またしても最後にサプライズが!
それから3日後。
西の塔の玄関の前に幌なしの馬車が止まる。
御者は、アルギユヌスだった。
部屋にあった測量器具や作図の器具を荷台に運び出す。
「手伝おうか?」
扉から出てきたローディンが言う。
「いやいい」
一人黙々と荷物を積み終わると、西の塔を見上げた。
「どうしてもいくのか?」
ローディンが聞く。
「依頼主にあんな暴言を吐きながら、おめおめ仕事を続けようとは思わない。だが、俺が測量してきた部分は完成させてある。あんたが必要としている最低限のところまではやり尽くしたつもりだ。それはあとで見てくれ」
アルギユヌスは、御者台に乗ろうと手をかけた。
「待て!」
振り返るアルギユヌス。
アルギユヌスを呼び止めたのはデューンだった。
アルギユヌスは、デューンの方を向き、頭を下げた。
「金はいらないと言っていたが、王宮のルールでな。俺が払いたくなくても払わざるを得ないんだ」
そう言うと、デューンはアルギユヌスに金の入った袋を渡した。
「こんなに・・・・」
「当初契約の半分だ。出来高を計算させればいいが、面倒くさいのでやめた。で、その代わりをつけることにした」
「代わり?」
デューンは、扉の方を振り返った。
扉からナターシャが現れた。
メイド服ではなく、正装のドレスを身にまとっていた。
「ナターシャ・・・・・もう、傷はいいのか?」
「医者も驚いていた。言い伝えによれば、マーレの血は傷を修復する魔力を持つと言う。マーレの流した血が、傷口に入り込んだのかもしれない」
ローディンがうんちくを言う。
「アルギユヌス。俺の前で言ったことに今も変わりないか?」
デューンがアルギユヌスに聞く。
「デューン男爵の前で言ったこと?」
「金よりもナターシャを連れて行くと言ったあの言葉だ」
「・・・・いや。ナターシャを追われる身分にしたくない。浴室でデューン男爵の言葉を聞いた時、気付いたんだ。デューン男爵が、王宮騎士団の前でしたことは、ナターシャを怪しませないようにするために、ナターシャの命を守るためにしたことだったんだと。俺と一緒でなくても、ここにもナターシャの幸せはある。それで、俺は十分だ」
「残念ながら、ナターシャはもうここにはいられない」
「ここにはいられない?・・・・どういうことだ?」
「ナターシャは、レディプラウド褒章を与えられ、メイドを解任された。今は自由の身だ。お前が奪わないのなら、とんでもない男が彼女を奪って行くぞ」
「じゃあ・・・・・」
ナターシャは、アルギユヌスに近づいた。
「わたしのことを自分の未来だと言ってくれたあの言葉。それをわたしもあなたに返します。アルギユヌス、あなたはわたしの未来。あなたの行くところであれば、どこであろうとついて行きます」
アルギユヌスは、ナターシャを抱きしめた。
そして、その唇に口づけをした。
その唇を離したアルギユヌスは、ナターシャの紫がかった青い瞳を見たまま言った。
「お前を必ず幸せにすると誓う」
2人は、ローディンとデューンの方を振り向いた。
「やはり2人並ぶと釣り合いが取れるな。このカップルを西の塔から送り出せることを俺は誇りに思うよ」
デューンの言葉に、アルギユヌスは言葉を詰まらせ、頭を深々と下げた。
御者台の上には、ごつい大男と、正装のドレスを身にまとった金髪の美しい女性の姿。
ナターシャが、御者台の上からデューンに呼びかける。
「デューン様に、竜の守りの恩寵がありますように」
幌のない馬車は走り出した。
あてはない、しかし間違いなく明るい未来に向かって。
デューンの表情は、晴れやかでもあり、どこか寂しげでもある。
「行ってしまいましたね。唯一のデューン男爵の大ファンが」
「唯一の、は余計だ」
ローディンの言葉に、反論するデューン。
「お前こそ、すぐ忙しくなるぞ」
「新しいメイド探し・・・・。やれやれ、執事の仕事は尽きませんな」
2人は言い合いながら、西の塔に入っていった。
これが、デューン男爵18歳の時に起こった出来事である。
そして、このとき二つめの卵が割れた。
髪の毛に爪、次のメイドの必殺技は?
3人目のメイドもお楽しみに!




