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第7話 メイドと設計士

おっと、こいつらなんか、いい感じになってね?

「王宮図書館に行ってくる。お前は自由にしていろ」

 そう言って、デューンがローディンと出かけてから2時間がたつ。

 ナターシャが控室にいると、西の塔の扉を叩く音がした。

 メイド控室には、客の到来が分かるよう、扉の音を反響させ、控室に届ける仕掛けがしてある。ナターシャは、その音に反応して、控室を出た。

 巨大な円形の吹き抜け壁沿いに、螺旋状に作られた階段を駆け降りる。

 扉を開けると、そこにアルギユヌスが立っていた。

「どちらさまでしょうか?」

「あー・・・・、ローディン様はおられますか?」

 アルギユヌスは、てっきりローディンが出てくるものとばかり思ってたので、動揺していた。

「ローディン様は、デューン様とともにお出かけしております」

「そう・・・」

 アルギユヌスは、持っていた荷物を下ろし、中から一枚の紙を出して、ナターシャに見せた。

「アルギユヌスだ。この塔の建物図面の作成をローディン様から依頼された」

「伺っております。部屋はもう用意してあります」

 ナターシャのその一言で、アルギユヌスの表情から緊張感が消えた。

「よかった。今日来ると言うことを伝えていなかったんで、門前払いされたらどうしようかと思ってたんだ」

「その懸念は御無用です」

 ナターシャは、下ろされた荷物を持とうとした。

 アルギユヌスは、その手を握った。

「その気づかいは無用。自分の荷物は自分で運ぶ。第一、あなたのような綺麗な方にこの荷物は似合わない」

 アルギユヌスはナターシャの手を離した。

「ではお部屋にご案内します」

 アルギユヌスは、荷物を担ぐとナターシャの後を追った。

「あー、あなたの名前は?」

「ナターシャと言います。デューン様のメイドです」

「それじゃ、いつもデューン男爵の近くにいるわけだ」

「そうですね」

「デューン男爵ってどんな人?」

「どんな、とは?」

「実は俺は、ボトスが大好きでね。特にデューン男爵のチームの大ファンなんだ。ナターシャはボトスを見たことはある?」

「いつも練習の時に、競技場まで付き添いますが、メイドはいつも控室に控えているので、実際のゲームを見たことはありません」

「競技場まで行っているのにもったいない!ぜひ、一度ボトスの試合を見てみるといい。まあ、女性から見たら乱暴な競技に思えるかもしれないが、デューンチームの戦い方は、実にスマートなんだ。デューン男爵の人柄なんだろうな。あれなら、子供でも安心して見られる」

 このアルギユヌスという男、大柄ガッチリで一見寡黙そうな外見に比してよくしゃべる。背の高いナターシャと並ぶと実にバランスのとれたカップルだ。

 おっと、勝手にカップルにしちまったい。

「シデオールの出身なら、ボトスはいつも近くにあったはずだ。実際のボトスを見たことないなんて、ナターシャはシデオールの出じゃないな。どこの出身?」

「デールメティリアです」

「デールメティリア?昔いたことがある。俺はウールクラール軍にいたことがあってね。辺境のモズリーがウールクラールに攻めてきた時に、応戦した部隊にいたんだ」

「モズリーとの戦争の話は聞いたことがあります」

「ナターシャは年はいくつ?」

「十七です」

「じゃあ、まだ、ナターシャが小さい頃の話だ。俺もまだ十二か十三くらいだった。俺は幼い頃両親と死に別れてね。やっつの時には戦場で雑用係をしていた。十数年間、俺の棲み家は戦場の砦の中だった」

 ちょうどその時、アルギユヌスに用意した部屋に到着した。

 扉を開ける。

「こんなところで寝ることができるなんて当時は夢にも思わなかったよ」

 アルギユヌスは部屋の豪奢な装飾に目を見張った。

「西の塔の図面作成は重要な案件と聞きます。何か不都合があればすぐにこのナターシャにお申し付け下さい」

 ナターシャがアルギユヌスに告げると、

「ナターシャ、俺は君の主じゃない。そんな仰仰しいしゃべり方はよしてくれ。これから図面完成までどのくらいかかるか分からないんだ。その間、ずっとそんなしゃべり方されたら気が滅入る」

「分かりました。アルギユヌス様」

「おいおい、全然わかってないぞ。普通の話し方を忘れちまったか?」

 アルギユヌスが、おどけたようにナターシャを覗き込む。

 ナターシャは、それをみて口元に笑みを浮かべた。

「分かったわ、アルギユヌス」

「そう、それで正解。俺がする仕事も結構ハードだ。ナターシャと話する時ぐらいは気兼ねなく話したい。心の中の安息所だ。それがあることで仕事もはかどるってもんだ」

「そんなこと言われたの初めて。うれしいわ」

 クールなナターシャの表情に笑顔が広がる。

「俺も、こんな綺麗な人と一緒に仕事ができるなんて最高にうれしいよ」

「デューン様たちがお帰りになったら、声をかけた方がいい?」

「そうだね。仕事の依頼主にまず挨拶しないと」

「じゃ、お帰りになられたら声をかけるわ」

「頼む」

 ナターシャは、部屋を出て行こうとした。

「ナターシャ」

 ナターシャが振り返る。

「部屋まで案内してくれてありがとう」

 ナターシャが満面の笑みを浮かべる。

「どういたしまして」

 アルギユヌスと話している最中、ナターシャの顔から笑みが消えることはなかった。


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