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第35話 ボルテガの誇り

ブロトーンの誇りはボルテガの誇り!

それをけなすものを、じゅくじゅく坊ちゃんは決して許さない!

 山を大周りする間には、一晩泊まれる場所を提供してもらったテテマス族の集落で、地震で倒壊しかけた建物を突貫工事で修理してあげたり、ギャラディーの見張りをするのに、建築士どもが一晩中飲めや歌えでデューン達が睡眠不足に陥ったりといったアクシデントはあったものの、特筆すべきこともなく過ぎ去り、ようやくボルテガの集落に辿り着いた。

 ブロトーンがボルテガの集落を立って、5日目の朝だ。

 昨晩も、建築士達の歌でまともに眠れなかったデューンは、寝ぼけ眼でボルテガの集落に足を踏み入れた。

 途端に、ボルテガの武装した男達がデューン達を獲り囲む。

「ブロトーン、なぜまだこんなところをうろついているのだ」

 ボルテガの男が、まるで厄介者に対するような態度で言う。

「ブロトーンは、約束どおりカカモス峠を越え、俺たちをガルタスにまで連れて行き、今帰還したのだ。その言い草は何だ!」

 デューンの怒りが爆発。

 男はデューンの言葉を聞き、信じられないと言うような表情でブロトーンの方を見ると、隣の男に耳うちした。隣の男がどこかに駆けていく。

「後ろにいる男達は何者だ」

「アロスに連れて行く避難所建設の優秀な建築士達だ」

「建築士だと?この人数をガルタスから連れてきたと言うのか?」

「建築士でなければ何だ?まさか、この男達でボルテガを攻めようと考えているとでも?」

「そうでないとどうして言える?」

 集落から、さらに男達が出てきた。

 男達が荷台を調べ始める。棟梁がそれを見て言う。

「それは、アロスに避難所を建設するための建築資材だ」

 荷台を調べ終わった男が言う。

「資材の奥に武器が隠されているとも限らん。荷台はすべて没収する」


 棟梁が、男に食ってかかろうとする。

 それをデューンが止める。

「デューン男爵とブロトーンだけ来い。他の者はここで待機するのだ」

 男が言う。

 デューンは、拳を握りしめた。

「デューン男爵。ボルテガは、唯一メトローマスが攻め落とせなかった部族であることをお忘れなきよう。武力衝突は何としても避けることを第一に」

 キンムリが耳打ちする。

 族長の前に連れ出されるデューンとブロトーン。

「・・・・・わずか、5日でガルタスまで行き、そして戻ったと?ガルタスまでは最低でも片道6日はかかる」

 族長が言う。

「テテマス族の集落を通り抜ければ3日だ」

 デューンが言う。

「テテマス族?テテマス族がただで集落を通り抜けさせるはずがない」

「まあ、確かにただではなかったがな。優秀な建築士達が付いていなかったら、こんなに早くたどり着けないところだ」

「それにしても計算が合わんぞ。実際にはガルタスなどに行ってはいないのではないか?」

「族長、そんなにボルテガを貶めたいのか?」

「何?」

「お前が自らブロトーンに言ったのだ。俺たちを無事ガルタスに送り届け、ボルテガの真の強さを見せてやれと。俺たちがガルタスに辿り着けなかったということは、ブロトーンが命令に失敗したということ。すなわち、ボルテガは真の強さを持たぬ腰ぬけばかりだ。お前は自らそう言っているのだ」

 兵達が、デューンに槍を向ける。

「ブロトーンが、俺たちをガルタスに送り届け、無事に生還したことを認めろ。俺は、カカモスの刃の上で間違いなく見たのだ。ボルテガの誇りにかけたブロトーンの真の強さを」

「カカモスの刃だと?では、お前達はカカモス峠を越えたと言うのか?」

「そうしなければ計算が合わないだろう?」

「・・・・・途中で引き返せば5日で戻れる」

「族長、お前はそんなにブロトーンを鳥の餌食にしたいのか。ブロトーンこそ、ボルテガの誇る英雄であるというのに」

「本当にカカモス峠を越えたと言うのであれば、その証拠を見せろ」

「ブロトーン、雷の鉄鎚を見せてやれ」

 ブロトーンは、錆だらけの茶色い雷の鉄鎚を族長の前に出した。

「それが雷の鉄鎚だと?カカモスが持っていたとされるあの伝説の鉄鎚が、そのように錆だらけの薄汚い代物だと?」

 族長が、立ち上がり鉄鎚に触れようとする。

 慌てて鉄鎚を引っ込めるブロトーン。

「お待ち下さい、族長!雷の鉄鎚は神の持ち物。選ばれた者以外が触れた途端に、その者は雷の炎に焼き尽くされます」

「ならば、お前はなぜ焼き尽くされていないのだ」

「ブロトーンは、鉄鎚に選ばれたのだ」

 デューンが言う。

「お前が鉄鎚に選ばれたのであれば、その族長たるわしに扱えぬわけはない。わしに触れさせようとしないのは、それがただの鉄鎚だからだ。わしを騙そうと伝説の品を語るとは」

 そう言うと族長は、ブロトーンから強引に鉄鎚を奪った。

「族長、すぐに鉄鎚を離せ!なぜ、ブロトーンを信じないのだ」

 デューンが叫ぶ。

「敗者のたわごとなど聞く耳もたん。見ろ、何ごとも起きないではないか」

 そう言って族長が鉄鎚を天に掲げた途端に、青空が黒い雲にみるみる覆われた。

 辺り一面が急激に暗くなり、さすがの族長もただならぬ現象に気付く。

 黒雲の中で不穏な音がし始める。

 族長がその音に空を見上げたその時、

「危ない!」

 ブロトーンは、族長を突き飛ばし、その手から鉄鎚を奪い返すと、人のいない所に放り投げた。途端に、鉄鎚に落雷する。その場にいた全員が衝撃でその場に倒れる。

 デューンとブロトーンも地面に這いつくばった。

 暗雲は去らず、ゴロゴロと鳴っている。

 ブロトーンは、立ち上がり、地面に転がった鉄鎚を拾い上げた。すると、黒雲は見る見るうちになくなり、再び青空が戻った。

「族長。敗者にも誇りはある。そして、どんなにけなされようと、長に対する敬意を忘れない。その魂こそ、ボルテガの宝であると心得よ。再び、ブロトーンを疑うようなことがあれば、今度こそ雷はお前を焼き尽くすだろう」

 デューンは族長に迫った。

「俺は嘘は言わん。俺が連れてきた男達は建築士達だ。ボルテガを攻める兵などではない。そして荷台に武器など隠してはいない。建築資材を積んだ荷台は返してもらうぞ」

 デューンは、ブロトーンの方を見た。

「俺は、二度とレジオネルドに謝れなどとは言わない。お前とともにカカモス峠を越えられたこと、俺は生涯忘れない。俺は、お前の真の強さを見た。いずれ、その強さは、プリンテミリアに、いやウールクラールに必要になる時が来る。その時は頼むぞ」

 ブロトーンは、デューンに頭を下げた。


 それから2日後、デューン達は、王妃との約束どおり無事アロスに帰還した。避難所を作り上げる頼もしき建築士達とともに。 


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