第2話 ハーディガンの後釜
最強バディ誕生の瞬間をご覧あれ!
そのローディン。
デューンとの最初の出会いから半日もたたないうちに、侍従長の執務室前の廊下に立っていた。
もう、だいぶ立たされているのか、手持無沙汰のように廊下の天井を見上げたりしている。
そのとき、目の前の扉が開いた。
「侍従長がお会いになる。入れ」
高飛車な態度の侍従が、ローディンを招き入れる。
例のように、数段高くなった所にある机で何かの作業をしている侍従長ドビュアー。
「ハーディガンに会いたいと?」
ドビュアーが机から目を離さずに聞く。
「はい。彼にわたしの知識を求められ、シデオールに招かれたのです。彼の居場所は王宮に尋ねれば教えてもらえると伺ってきました」
「知識?お主の知識とは?」
「ある時は歴史学者であり、ある時は建築学者、またある時は政治学者でもあり、魔術魔法研究者でもある。わたしの知識に肩書きはありません」
いぶかしそうな目つきでローディンを見つめるドビュアー。
「それで、ハーディガンは、お主に何を聞いてきたのだ」
「それは、直接会って話をするということでした。だからこうして、ハーディガンの行方を捜しているのです」
ドビュアーは、深いため息をひとつついた。
「ハーディガンは、ここにはいない。シデオールを永久追放されたのだ」
「永久追放?では、ハーディガンは今どこに?」
「分からん。追放された後の彼の足取りを知る者は誰もいない」
ローディンは頭を掻いた。
「まいったな。彼から大枚を積むと言われて、ここまでなけなしの金で旅してきたというのに。その金をあてにして最後の残金を酒屋に置いてきてしまった」
「あいにくだったな。当人に会う前に無一文になってしまうとは、自分の愚かさを恨むのだな」
ローディンは、その物言いにドビュアーを上目づかいで睨んだ。
そのドビュアーに、侍従がなにやら耳打ちする。
ドビュアーは、横目でローディンを見た。
そして、あらためてローディンと向き合うと、
「お主、街中でデューン男爵とひと悶着あったのか?」
「デューン男爵?」
「マクガイアス家の二男じゃ」
「ああ、あの酒屋にいた酔っ払いのおぼっちゃまですか」
「お主、デューン男爵を叩き伏せたらしいな」
「申し訳ないが、あのような男を将来王にいただくのだとしたら、この国の行く末は暗いと存じます」
ドビュアーはいかにも愉快そうに笑った。
「この王宮内で、よくもそんなことを言う勇気があるものよ」
「何、まだ間にあいます。しかるべき側近をつけて、徹底的に教え込むことです。この世の中で生きて行くために必要な事を」
ドビュアーは、机を叩いた。
「そのとおりだ。よし、気に入ったぞ。お主、先ほど無一文になったと申したな。ハーディガンが払うべきだった金をマクガイアス家が払おう」
ローディンは、顔をしかめた。
「それは、どういう・・・・」
「お主は本日から、デューン男爵の執事じゃ。お主がやりたいように、あのおぼっちゃまを徹底的に教育するんじゃ。将来お主が、あのおぼっちゃまを王としていただいても不安がないようにな」
こうして、ローディン・メクサスは、ハーディガンなきあとのデューンの執事となった。
「わたしの名前はローディン・メクサス。侍従長マロッコス・ドビュアー様との縁でデューン男爵の執事を仰せつかることになりました。過去のことは忘れ、今後はよろしくお願いします」
「・・・・・なぜ、よりにもよってお前なのだ」
「仕方ありませんな。あなたの悪さの後始末で無一文になってしまい、その食い扶持としてのこの役。すべては、あなた自身が招いたこと。まずは、それを肝に銘じてもらいましょう」
二度目の対面をあっさり済ませたローディンは、次にメイドの選定に入った。
「前のメイド、ミロディは、西のミラディスの出身。前任の執事はどうやってメイドを選定したのでしょうか」
ローディンがデューンに聞く。
「そんなこと。俺が知るわけないだろう」
デューンはそっけない。
「いや、一度だけ話したことがあった。自分がいなくなるようなことがあれば、西の次は北だ。ツンドラの荒原がどこまでも続くデールメティリアからメイドを選べと」
「デールメティリア・・・美しい原野が広がる呪われた土地」
「呪われた土地?」
「あなたの祖先、メトローマス大帝が七つの魔界を制圧した最後の土地。神の国と魔界が接していた境界線だ。そこでは、人間も魔物も入り乱れ、虐殺に次ぐ虐殺が繰り返されたと言います」
「その間、神はどうしていたんだ」
「神は、人間たちの戦場での狂ったような所業にあきれて、魔物たちに蹂躪されるのを黙って静観していました。デールメティリアは、神にも見放された土地だったのです」
「そんなところからメイドを招くのか・・・・」
「前任の執事が命令したことであれば、新米のわたしはそれに従うべきと心得ます。・・・・そうだ、前の執事の名をお聞きしてもよろしいですか?」
「ハーディガンだ」
「ハーディガン?ハーディガンは、デューン男爵の執事?」
「そうだ。それがどうした?」
「前の執事であれば、主であるデューン男爵はその居場所を知っているのでありませんか?」
「なぜ、ハーディガンの居場所を知りたい?」
「わたしは、彼にここへ呼ばれたのです。ハーディガンに会えれば、あなたの執事をしなくても済みます」
「残念だったな。彼は何も告げず、風のように去った。俺にもどこへいるのかは分からない」
「・・・・・そうですか。それは残念。・・・・デールメティリア。なぜ、彼がそこを次に決めたのかは分かりませんが、何か理由があるように思えます。手紙の内容からすると、ハーディガンは、思慮深い、かなりの見識者であることがうかがえましたから」
こうして、ミロディの後のメイドは、ツンドラの広がるデールメティリアから招かれることになった。




