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第33話 人質にされたメイド

じゅくじゅく坊ちゃんの怒り心頭!

だが、そんな時こそ、冷静にゆっくりと‥‥光は向こうからやってくる!

「デューン男爵!このままでは浮遊舞台は沈みます!まず船に退避を!」

 海中に消えたダイアンを追おうとしているデューンを引き止めるボトスの仲間達。その間にも、大きなきしむ音を立てて、浮遊舞台が不安定に揺れ始める。

 これにはさすがのデューンもあきらめ、他の仲間とともに船に向かった。

 いつの間にか、踊り子たちを救う船は数隻に増えていた。富裕層の中には、成り上がりのつわものもいる。ホストであるノーケイマン自ら海賊に立ち向かっていく姿を見て、つわもの血が船を浮遊舞台に向けたのだ。彼らのおかげで、100人以上いた踊り子たちは、なんとか舞台から避難させることができた。

 ただ一人、ダイアンを除いて。

 デューンが、ノーケイマンの船に戻る。

 そこへ、ローディンが駆けつけてきた。

 大砲の音がやみ、海上でめらめらと燃え続ける船はいるものの、その炎に照らされた海賊船は不気味に沈黙している。

「やけに静かだな。ローディン、海賊船はどうなっている?」

「沈黙したままです。海賊船はこちらに正面を向けている。砲台は左舷と右舷についています。こちらに横を向けていないということは、少なくとも大砲の砲撃をする気はないということ。下手にこちらが動くのは得策ではない。相手の出方を待つべきとノーケイマン公爵閣下には伝えました」

「それでいい。今ここで砲撃が始まれば、海の波も大荒れだ。海に投げ出されたダイアンが助かる可能性が少なくなる」

「ダイアンは海に投げ出されたのですか?」

「ああ、俺が付いていながら・・・くそっ」

 と、そのとき、目の前の海賊船の艦首に明かりが灯った。

「望遠鏡をよこせ」

 艦首で海賊船の様子を見ていたノーケイマンは、乗組員から棒状の望遠鏡を受け取り目に当てた。

 そこへ、デューンとローディンもやってくる。

「ノーケイマン公爵、何が見える?」

「・・・・・ご覧頂いた方が・・・・」

 ノーケイマンから望遠鏡を受け取り、覗くデューン。

 そこには、両手を後ろで縛られたダイアンの姿が。

「ダイアン!」

 望遠鏡から目を離し、デューンは思わず叫んだ。

「なんてこった!奴らの船に救いあげられているとは・・・・」

「デューン男爵!この女を助けたければ、お前一人でこの船に来い!そこで、この女と交換だ!」

 ダイアンの隣にいたビーチャムが叫ぶ。

「だめです。これは罠だ。デューン男爵が行こうと行くまいとダイアンは殺される」

 ローディンが言う。

「いいか、お前が来なければ、今この場でこの女をバラバラにしてやる!」

 ビーチャムの声に、デューンは、望遠鏡を覗いた。

 ビーチャムが、ダイアンの素肌がさらされた腹部を鉤爪で引っかく。ダイアンの顔が痛みで歪む。ダイアンの腹部に赤い線ができる。そこから血が滴り落ちる。

「ほう、これでも声を上げないとは大した女だ。だが、今度はどうかな?返事がなければ、次はもっと深く切り裂く」

 ビーチャムの鉤爪が、赤い線の上に再び当てられる。

「やめろ!俺が行く!それ以上、ダイアンを傷つけてみろ!きさまのはらわたを引きずり出してやるぞ!」

 デューンは叫んだ。

「デューン男爵!」

 ローディンがデューンを引き止める。

「自分のメイドの命を救えなくて、主を名乗れるか」

 デューンはそう言うと、ローディンの手を振り払った。

 ノーケイマンの船と、ビーチャムの船に板が渡される。

 海賊側の板が掛けられた先に、ダイアンが後ろ手に掴まれたまま立たされている。

「まず、お前がこっちに来い!」

 ビーチャムが言う。

 デューンは板の上に乗った。

「おっと、腰にさした剣を捨てろ!」

 デューンは、腰に差した剣をさやごと外すとノーケイマンの船の甲板に放り投げた。

 板の上をゆっくりとビーチャムの船に向かって歩いて行く。

 丸腰のままビーチャムの船に乗れば、デューンはビーチャムの思うがままだ。ダイアンも、約束どおり解放されるか分からない。自然と、歩くスピードも遅くなる。

 こんなとき、ハーディガンならどうする?

 突然、デューンの頭にハーディガンの姿が浮かんだ。

 シデオールを追放されてもなお、ウールクラールの未来を思い、はるかポルトレシアの海にまで足を延ばしていたハーディガン。

「時をくときと、稼ぐ時を誤ってはなりませんぞ。時を稼ぐ時は、ゆっくりと、どんなに心が急いても、その歩みを速めてはなりません。チャンスは向こうから転がってきます」

 そんなハーディガンの言葉が頭に響いた。

 この状況のどこにチャンスが転がってるんだよ!

 思わず、脳内突っ込みを入れたそのとき、目の前が不思議な明るさに包まれた。その明るさは足元から。デューンは、板の上で立ち止まり、足元を見た。

 海の中を黄金の光が進んでいる。その中に明滅する色とりどりの光。

「これは・・・・・」

 ノーケイマンは、甲板の手すりから海を見下ろして言った。

「ビラキュール・・・・・」

 そこにいたすべての者が、その美しい明かりに目を奪われた。

 その光は麻薬のようにポールト湾にいる全ての者の心を奪い、幻の中に誘った。

 キャプテンベロキーとその仲間たちを除いて。

 突然、凄まじい音がして、海賊船同士が衝突を始めた。


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