第1話 ローディン・メクサス登場
西の塔改築のために、元ウールクラール軍城砦築造部隊の男が招聘される。折も折、亡き王の弟が変死。王宮は喪中となるが、謎の行方不明事件が続発する。王宮騎士団の捜索の手は、メイドにまで及ぶ。果たして行方不明事件の真相とは?
2人目のメイドは厳しい北の大地に育てられた金髪の美女。そのきつい性格も、またよし。追放された執事の後釜は、どんな奴?その衝撃的な出会いもお見逃しなく!
(ナターシャ編 全15話)
じゅくじゅく坊ちゃん、なんとなくいい奴なんじゃないかって?
それはそうだろ、主役だもん。
これは、ろくでなしの王子が、様々な人との出会いと別れを繰り返し、次第に良くなっていく成長の物語・・・・・。
んなわけねえだろ!
だいたい、「三つ子の魂百まで」っていって、三歳でろくでなしなら、一生ろくでなしと昔から決まっている。
じゃあ、18歳でろくでなしなら?
気になるあなたには、最後まで付き合ってもらうしかないな。
あ、そうそう、これだけ。
くれぐれも言葉のマジックにはご注意を。
◆
なにしろ、デューン男爵の身の回りのことをみるべき執事とメイドがいっぺんにいなくなったのだ。
とりあえず誰でもいいから誰かをあてがわなければ、じゅくじゅくどころか、ずぶずぶ状態、泥沼はまってさあ大変、ということになりかねない。
だが、デューン暗殺未遂の話は、全国に知れ渡っている。
父、兄も暗殺。
父の執事は父とともに暗殺、兄の執事は処刑は免れたものの一生牢屋の中だ。
明日は我が身の危険な仕事に誰が就く?
爵位のある者なら、執事がいて当然。
執事がいなくなれば、自ら探してでも執事を見つけ、体面を保とうとするところだ。
だが、デューンは、探そうとするどころか、たがが外れたように羽を伸ばし、日夜街に繰り出しては、下級アルコール「チャッカー」三昧の日々。
西の塔の設計図はどうなったって?
デューンは、あれから一週間をかけて西の塔の蔵書庫をすべて確認したが、結局図面は見つからなかった。
で、
「探しているさ。ハーディガンが探してあてたという優秀な設計士を」
デューンはそう言って、優秀な設計士を探しに街中の酒屋めぐりを始めたのだ。
酒屋では、ドンチャン騒ぎ。
若い女の子に声をかけ、文句を言う男達に喧嘩を吹っ掛ける。だが、酒屋の店主は、デューンが王子であることを知っているから、何も言えない。
侍従長も、例の一件で、あまり文句が言えなくなった。
侍従長がつけたとされた監視役が暗殺者だったのだから、もう二度とデューンの行動に監視などつけられない。そうなれば、事実関係が確認できないのだから、巷の噂だけで呼びつけることもできなくなった。
おまけに、新たな図面を作成する設計士を探し当てたハーディガンを、有無を言わせずお払い箱にしたために、誰もその設計士を知らないという状況になってしまった。
その設計士を探しているのだと言われれば、探し方はどうであれ、文句は言えない。
今日も、デューンの傍若無人が、街中で炸裂する。
デューンが連れているのはボトスチームのメンバー。いかつい体の小山のような男達が後ろに控えている。そんなのに入ってこられた店はたまったもんじゃない。
その日も、すでに5件の酒屋をまわり、すっかり悪酔いしたデューンが6件目の酒屋に入ってきた。
カウンターにもたれかかるように手をついて、
「チャッカー、5つ」
連れは3人。1杯はデューンのおかわり用だ。
すると、L字型のカウンターの角に、黒髪のスタイルのいい女性が注文にきた。
「オキーニュを3つ」
オキーニュというのは、南国ポールトで産出される果実を発酵させた飲み物で、甘酸っぱいアルコール入りジュース。口当たりがよく、女性たちに好まれるものだ。
すると、何を考えたのか、デューンがその女性の方に寄って行く。
「昼間から飲むのなら、オキーニュなんて弱い飲み物はやめろよ。楽しい気分になりたいなら、チャッカーに限る」
話しかけるデューンをいやそうに見る黒髪の女性。
「その黒髪・・・・もしかして、ミラディスの出?」
「違うわ」
「そう・・・・昔、ミラディスの出の黒髪の女の子を知っていたんでね」
その女性を挟んで、デューンの反対のカウンターにいたフードをかぶった男が、チラリとデューンをにらむ。
デューンは全く関知していない。
そこへ、オキーニュとチャッカーが運ばれてくる。
女性がオキーニュを手に取ろうとすると、
「こっちを飲みなよ。一杯奢ってあげるからさ」
そう言って、酔って力の入らない手でチャッカーを女性に渡そうとしたデューンは、そのままチャッカーを女性の胸元にこぼしてしまった。
「あらら、しまった、しまった」
女性が、胸元を抑える。
「ごめんごめん、拭いてあげるよ」
デューンは、カウンターにあった布を手に取ると、その布を形のいい胸の谷間に突っ込もうとする。
「やめて!」
女性は叫んだが、お構いなく手を突っ込もうとする変態デューン。その時、女性の反対側にいた男の手が動いた。
胸の谷間に突っ込もうとしていたデューンの手を片手でねじ上げる。
酔って無防備だったデューンはたやすく腕をねじあげられた。デューンの後ろに控えていた3人の小山が動く。
すると、男はカウンター下に立てかけてあった杖のような物を手に取り、一人目の鳩尾に一撃した。
一人目が倒れる。
2人目が、その杖を掴もうとすると、杖を引いて肘のところで一回転させ、体勢を崩した2人目の背中に一撃。
2人目も倒れる。
3人目は椅子を持ちあげた。
男は、デューンの手を放して、カウンターの下にかがみ込んだ。そこに向かって椅子を振り下ろすと、椅子はカウンターに当たって砕け散った。その瞬間に、杖が3人目の顎を下から直撃する。
3人目はそのまま、仰向けに倒れた。
床に仰向けに倒れていたデューンが、起き上がろうとした途端、男は振り向いて、その首元に杖を突き付けた。
「お、おやめください!その方はデューン男爵。マクガイアス家の二男ですぞ!」
店主が慌てて叫ぶ。
「マクガイアス?」
男はフードをめくった。態度に比べると予想以上に若い。
「これが未来の王か。それなら、今のうちにきちんとしたしつけができる者をつけた方がいいな」
そう言うと、男は黒髪の女性を立たせ、カウンターに金を置いた。
「こ、こんなに・・・」
店主が言う。
「それで彼女の衣服替えを頼む」
そう言うと、男は店を出て行った。
それが、デューンと、ローディン・メクサスの最初の出会いであった。




