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第15話 海賊頼みの島、ザイン

七島中、危険度Nо2!

だが、そこにこそポルトレシアに富をもたらすものが眠っていた!

 5つ目の島、ザイン。

 南北に長いその島の西にはセラフ島があり、2島の間にはセラフザイン海峡がある。その海峡で最も狭い海域では、2島は10数キロしか離れていない。

 島の周りは高い断崖が屹立し、その断崖が途切れた河口から川をさかのぼって行くと、やがて平らな土地が現れる。

 正面に屹立する断崖、背後には深い森を抱えるその町の川沿いに港が見えてくる。

 港には大小の船が何隻も連なり、岸に沿って船宿が立ち並ぶ。船着き場には人があふれ、喧騒に満ちているが、通りを歩いているのは一癖も二癖もありそうな人間ばかりだ。

 ウールクラール海軍の帆船を見て、近寄ってくる野次馬もいれば、その場からそっと去って行く者もいる。

 そこへ、馬車が数台、人ごみを押し分け、船着き場に入ってきた。デューン達がタラップから降りてくるのを見計らったように、馬車から使いの人間が降りてくる。

「デューン男爵ですな」

「そうだ」

「城で族長がお待ちしています。この界隈は王族と言えど危険です。馬車にお乗り下さい」

 デューンは、船着き場の人間たちを見た。

 その目はらんらんと輝き、何かに飢えているかのようだ。

「デューン男爵」

 何かをしそうな雰囲気に、ローディンがデューンに早く馬車に乗るよう促す。

 さすがのデューンも、船着き場の淀んだ雰囲気にのまれ、おとなしくローディンに従った。

 馬車の窓から見える町並みは、粗野でとても今までの島とは比べ物にならなかったが、活気に満ち、生気で溢れていた。

 馬車は、町の中央にそびえる城壁に囲まれた城へと向かう。

 城門をくぐり抜け、城へと到着したデューン達は、族長の待つ広間へと案内された。

「デューン・エイン・マクガイアス男爵!よくぞ、この粗暴で貧しいばかりのザインにお越しくださった!かつてマクガイアス王家の者でこの地に足を踏み入れた者などいなかったであろう!まずはその勇気に感謝を!」

「族長。ザインは、そんなに危険なのか?」

「デューン男爵も見たであろう。この島は切り立つ山と深い森ばかり。自然の恵みは多く、生きることに支障はないが、金を得られるような産業が何もないのだ。人は生きることに必死で、皆この地にない物を求めて海へと出ていく。わしらは、彼らが海から持ち帰ってくるもので何とかその日を暮らしているようなものだ。この街の者にとって、船の到着は恵みをもたらすもの。何も与えなければ、彼らは、王族だろうと関係なく奪うだろう」

「海から持ち帰ってくるもの・・・・。それは、魚の類のことか?」

「それもある」

「それも?」

 デューンの目つきが厳しくなる。

「族長。さきほど、この島には自然の恵みが多いと言っていたが、それは食べ物のことだけか」

 デューンがさらに突っ込もうとするのをローディンが止める。

「木の実や、キノコの類、それに川魚。味さえ気にしなければ、飢えることはない。だが、それだけだ」

「深い森を抜けて、その奥の山に踏み入ったことはないのか?」

「山に何がある?」

「ここへ来るまでの岩肌を見た。白や黒や黄色、様々な色の岩が見えた。それは、多くの鉱物を含む証拠。それらを掘り出すことができれば、その量は無尽蔵。この地を豊かにできる資源と心得るが」

「山までは遠く、深い森が横たわっている。そこまでの道をどうする?それを運び出せるよう道を建設するためには、莫大な費用がかかる。この貧しいザインにどうやってその費用を払うことができよう。マクガイアス王家がその金を負担してくれるというのか?」

 族長の強い口調に、ローディンも口をつぐんだ

「ザインは山をあてにできん。頼れるのは海だけなのだ」


「へどが出るな」

 町の住民がいない形ばかりのさみしい歓迎式典を終え、部屋に戻ったデューンはローディンに言った。

「資源がないという割には、街中は物で溢れている。あれはどこから来た物だと思う、ローディン」

「さあ」

 ローディンは、わざと知らんふりをしてそっけなく答える。

「奴らは、海賊たちの恵みで暮らしているんだ。海から持ち帰った物というのは、海賊が船を襲って奪った物のことだ。道を作るのに金が必要だと?道を作るのに必要なのは金じゃない。人だ。ザインの人々が力を合わせれば、何年かかろうと道はできる。それをしないのは、海賊たちが持ってくるもので暮らせるからだ。そのかわりにザインの人々は、海賊たちにねぐらを提供してやっているんだろう。苦しいことに背を向けて、楽ばかりしようとしていやがる。これでは、いつまでたったって、ザインは豊かにならないぞ」

「よくそこまで気付きましたね」

「族長の言葉をよく聞いてりゃ分かる。船が到着したら恵みを与えないと、ザインの人々はそれを奪うと言った。タダで恵みを与える船がどこにいる?それは、やばいことをしているからに決まっているだろ」

「族長の前でその怒りをぶちまけなかったのは賢明です。デューン男爵のおっしゃるとおりです。ザインは、目の前に宝の山がありながら、それを掘り出す努力より、盗人の恵みに頼る楽な道を選んだ。このままでは、ザインは堕落する一方でしょう。しかし、今ここで我々が何かをしようとしても無駄です。今は、七島の歓迎式典をすべて無事に終え、ポールトに帰ること。それが先決です」


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