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江戸の町は想像以上に賑わっていた。

どうもやはり童は小林がタイムスリップしてこの時代にきていることを知らないようで、町を散歩したいとわざわざ懇願してくるとは、別に人質にしているわけでもないから帰りたいなら帰ればよいぞとのことだった。そして屋敷を去り際、一枚の札を渡してきた。


「来週あたり百鬼夜行を行う。この札に書いてある日時に行うから時間になったらこの札を額にあてるのじゃ。お主に絶景を見せてやろうと思う」


来週と言われても自分はいつまでこの時代にいるのか。もしかしたら一生元の時代には戻れないのだろうかと不安を最初は抱いていたが、奇跡的にすぐに衣食住の確保は出来た。


「お、結構釣れているじゃないか」


ここ数日住ませてもらっている男、瀬川は嬉しそうにこちらに駆け寄ってきて籠に入っている魚たちを一匹一匹丁寧に数えた。

この男瀬川は川沿いに住んでいて、とりあえず腹ごしらえをせねばと最初簡易的な釣り竿を作って釣りをしていたところをたまたま目に留まられ筋を見込まれスカウトされて今に至った。


ここ数日町をぶらぶら歩いて住民の何人かと話をし、少しずつこの時代の情勢を理解することが出来た。最初はこんなことになるならもっと歴史の勉強をしておくべきだったと後悔していていたが意外に言葉は理解できるし、みんな聞いたら世間話をだらだらとしてくれるものでどうにかなった。


「今年はどこも不作みたいだなあ」


瀬川はふとそうぼやき出した。


「魚だけじゃ厳しいですか?」

「食料としては問題ないが、年貢がねえ。年々厳しくなってきて隣の町じゃ一揆があったって話だ」


実際後に天保の大飢饉と呼ばれる先駆けとなる時代で、この時期は冷害や洪水で不作が続くことは明白であり小林は先の流れをやんわりとだが知っているからこその辛さがあった。


「しかも最近気温の変化も激しいだろう? 元々隣の家の桜さん病気だったみたいだが、どんどん悪くなってるみたいでな。多分この調子でいくと……。小林、お前がせっかく釣って来てくれた魚で悪いがもしお前がいいなら何匹か持って行ってやってくれねえか。悪いことが続くからこそ助け合っていかねえとな」


瀬川のこの人情で自分のような人間の衣食住が助かっている。断る理由などなかった。

桜井と呼ばれる人の家を訪ねると女性が細身の女性が出てきた。瀬川から魚を託っていることを伝えると歓迎して中に入れてくれた。奥の部屋で布団に入っている男性の姿があった。


しばらく話して家を後にするとすっかり日が暮れていた。太鼓のような音がし、遠くの方が明るくなっている。ふと目を凝らすとなにやら蠢いているのが分かった。


「町の方へ向かっている、そうか。今日だったか」


町に行くと、村人が道を空けてその真ん中を魑魅魍魎が歩いていた。恐怖で叫び声が響き渡ると思いきや唖然とただ見ているものや両手をこすりお祈りするものさえいた。


「とにかく瀬川さんに知らせないと」


瀬川の家に戻る途中、別の妖怪の群れを見かけた。その妖怪は自分の横を素通りしていきその経路丸まるの田んぼの稲が生い茂っていった。


「瀬川さん!」


瀬川の家にはいなかったため、昼間に行った桜井の家に行くと夫婦と瀬川の姿があった。瀬川は小林に気付くと驚いた様子で駆け寄ってきた。


「おい、さっき変な生き物の群れを見なかったか。ありゃ凄いぞ。家の前を通りがかっていったんだが、川の魚は大量発生するわ稲は豊作になるわ。さらには桜井さんが急に起き上がって信じられないが、病気が治っているようなんだ」


絵にかいたようなご都合主義が目の前で繰り広げられていく。本で読んだようなものではなくまさに神の奇跡を起こしていく七福神のようにさえ感じた。


小林はいてもたってもいられなくなり。ポケットからお札を取り出すと額に押し当てた。次の瞬間瞬きすると巨大な獅子舞の背中に乗っていて、目の前には童の背中が見えた。


「お、来てくれたか。どうじゃこの見晴らしは」


普段なら寝静まっているはずの家の明かりが燦燦と照らされ、何とも風情を感じた。


「総大将様、どうして自分にこの景色を?」

「うむ? 実はまだ妾が妖怪になる前に実はお主の先祖に会っておってな。命を救ってもらったことがあったのじゃ。その時にいつか子孫が道に迷っていることがあったらよろしくなと頼まれての。その時にそやつの血に困ったときに子孫が妾の元を訪ねれるように契約を結んでおいたのじゃ」


その話を聞いて小林は全て納得がいった。実は自分の父は定年を迎えてすぐに足を悪くし、現在誰かの補助が必要な状態になっており、母はそれが負担となって精神的に余裕のない状態になっていた。そこで自分がここに呼ばれた理由を悟った。


「総大将様、実は私はこの時代の人間ではないのですが、元の時代に帰してもらうことは出来ますか?」

「うむ、妾を誰だと思っておる。造作もない。お主とはもう少し話してみたかったが仕方があるまいな、これを持っていけ」


童はそう言い。小林に一握りサイズの石を渡した。


「これは?」

「妾とおぬしの契約の証だ。もっておくがよい。ではゆくぞ」


童が右手を小林の方へ掲げると全身が光に包まれ、賑やかな町の中から消えた。

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