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「まずは私の側近からじゃな」


そういうと奥の襖から綺麗な女性が出てきた。おぼこい童とは対照的に目鼻立ちがはっきりしており身長も180cmは確実にあるほど大きめであった。


「彼女は濡れ女の雨じゃ。今はこんな人間に近い見た目をしておるが実際の姿はだいぶ違うから変な気持ちは起こさないようにな」

「はじめまして。雨と申します」


雨は深々と丁寧にお辞儀をした。童含めた歓迎ムードから若干だが恐怖心が和らいできたので粗相のないようにしっかり正座をしてお辞儀に応えた。


「怖がらずにぜひくつろいで下さればいいですからね」


優しい笑顔は美しかったがどうも含みのある表情にも見えて小林はそれ以上会話を広げようとはしなかった。


「よし、実は側近はもう一人いてな」

「よお」

「うわあ!」


気が付くと真横に細身の男が立っていた。青い服に縦縞の羽織を着ており、笠を深く被っていた。


「彼は北風小僧じゃ。今は冬じゃないから一仕事終えて比較的暇に過ごしておる」

「今代の総大将は大分人間に友好になりたいみたいでな。俺自身としてはそれに従うまでだからまあよろしく」


北風のような冷ための発言にひんやりした感情を覚える。どうも童以外はそんなに人間に友好的になりたいと思っていないみたいだった。


「後は幹部二人でも紹介しとくかの。おい、出てまいれ」


ドンドンドンと太鼓がどこからともかく鳴り響き、両隣から黄色と緑、二人の大男が出てきた。その見た目はさすがに有名どこなだけあってすぐにピンときた。


「まさか風神雷神?」

「お、もしかして知っておるのか。すごいのお。お前らもだいぶ活動してきた甲斐があったのではないか?」

「ははあ、有難きお言葉」


緑の風神の方が腕を地面につけ頭を垂れた。


「ところで人間。この屋敷に人間が呼ばれるのはかれこれ十年ぶりくらいになるのだがお前は何者なのだ?」


雷神が腕組をして見下ろしたまま話しかけてくる。自分が生きてきた時代は銅像や映像でしか見たことがなかったからどんな現代の技術でも再現出来ないであろう本物の質感に感動する。


「いえ、自分はただのしがないサラリーマンでして、今回ここに来たのも偶然というか」

「偶然だが、完全な偶然ではないぞ」


その表現に小林は首をかしげる。


「家族紹介も上澄みは終わったしそろそろ本題に入ろうかの。ところで人間、名前をまだ聞いておらんかったな。なんと申すのかの」

「小林信治と言います」

「こばやし……長いな。コバと呼ぶことにしよう。今回お主は実は妾に呼びこまれたのじゃ」


その事実に小林は驚くかと思いきや意外に納得してしまった。

たしかに今日の感情の変化は少し自分でも分からないほど無理やり感があったからだ。

この小さな女の子はこう見えても妖怪の総大将をしているらしいし、自分のようなちっぽけな人間の一人くらい簡単に操れるだろうと思った。


「で、具体的に妖怪の総大将様はなにようで私のような人間を?」

「うむ、実はな。この江戸の町で百鬼夜行を起こそうと考えておるのじゃ」


そう高らかに発表した童の目はきらきらと輝いていた。どうやら周りも聞かされていなかったようで、まっさきに雷神が手をあげて疑問を呈した。


「百鬼夜行っていうとあの先々代がやったっていうあの百鬼夜行ですかい。なんでまた」

「雷神よ。おぬしは最近活躍しておるからあまり気にもとめてなかったかもしれぬが妾ら妖怪にとって一番の恐怖はなんだと思う?」

「へい、恐怖ですか。でも私らは怖がられる側だから恐怖を感じるってのはあまり無縁な気も」

「はい、これが偶然人気になったものの視点じゃ」

「へ、へい……」


雷神はなんとなく自分の回答が不正解だったと悟りシュンと落ち込んだ。


「では北風小僧、お主はなんだと思う?」

「ずばり忘れ去られることですかね。我々の存在出来る源は人間から認知されるところにある」

「死なない妾らにとって人間から忘れ去られた時こそ死となる。有名な妖怪はいいが、末端の妖怪は存在力を少しでも保持しないと刻一刻と忘れられ死んでいくのだ。分かったかの、雷神」

「それで百鬼夜行ですかい」

「そうだ。末端だけがなにか怖がらせたりで人間に認知させるのにも限界があるからの」


百鬼夜行が漫画や小説で恐怖の対象として描かれていることが多かったことを小林は思い出す。しかしそれよりもさらに聞き捨てならないフレーズがあったことがあった。


「今、え、江戸って言いました?」

「うむ? それがどうした?」


童は小林がなににひっかかっているか分からない様子だった。


「非常に当たり前のことを聞いて差し出がましいとは存じますが、今は何年なんでしょうか」

「今? 今は天保二年だが?」


小林はその言葉に耳を疑った。本来ならこんな言葉簡単に信用したりはしないところであったが、疑いながらも目の前に広がる存在達をこの目は容認しているのだから脳を疑ってはしょうがないと無理やり理性で落とし込んだ。この妖怪の総大将が自分をこの時代になぜ呼び寄せたのか尋ねようと思ったが、妖怪の真意など自分のような存在が理解できるはずもあるまいとやめた。そしてある提案をした。


「あの、総大将様。もしよろしければ江戸の町を散策してきてもよろしいでしょうか?」

(この作品は)5年ぶりの投稿になります。

よろしければ最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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