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ある娼婦と化け物の話  作者: 檸檬型来良
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砂と化け物


 “お早うお姉様”

 「お早う、“東の”娼婦」


あの妹の綺麗な声はもう聞けない

変わりに聞こえてきたのは下世話な男の声だった

腕が痛い、足が痛い、声が出ない、嗚呼、現実だ

此処は...地下、だろうか

長く気をたっていた感覚はない

だとしたら未だ朝の筈なのに、差し込む明かりは皆無だった

唯一の光と言えば、私の目の前に居る声の主の男が持つ蝋燭位のものだ

暗い場所で灯る蝋燭というのはとても綺麗なもので、少しだけボーッとする

遠のく意識が蝋燭(ろうそく)所為(せい)(だけ)だとは到底思えないが


 「随分と余裕な顔つきだな、魔女」


声が出せないのだから答えようもない

怒りを買うと(まず)そうなので睨まないでいる

かと言って笑顔でいても気色悪がられるので笑わないでいる

男の顔もよく見えない程の明かりで確認も出来ないが、体に縄の感触があった

縛られているのだと分かった、そして、私を縛った目的も

この男、私を呼び出した貴族である

確か名はファーム・カイル子爵

闇市場で金稼ぎしてるクズだ

何故貧民街や家に襲いに来ないのか、答え等簡単だ

“貴族としての品格が落ちる”まあ簡単に言えば、私達の仕事や住む街をそれ程迄に嫌い蔑んで居ると言ふ事だ

もう慣れたから気にはしないが、矢張り思う所はある

私達は娼婦、この魔都では最も嫌われる職業だが、皆好きでやっている訳じゃないんだ

捨てられたり、親と死別したりして、其れでも皆必死になって生きてる

幾ら汚い生き方でも、それだけ生きる事に必死なんだ

売れるものが体しか無いンだから仕方ないだろうがよ

お前と一緒にするなよ...私はいいぞ?

卦度(けど)な、他の子達まで1括りにして蔑むのは許さない

ギリッと唇を噛み締めて、男の存在に耐えた

口の中に血の味が広がる

向い側からカツン、と誰かの足音がした

子爵がやっと来たかと言うような態度で言う


 「遅かったじゃないか、取引屋」


彼が持っているのは光灯(ランプ)だった

顔は見えなかった、仮面をしていたから

“取引屋”はとてつもなく不気味な男であった

雰囲気が何処と無く亡霊の様で、私を拘束したと見られる子爵よりも恐ろしかった

取引屋と呼ばれた男は此方に寄ってきて、無言で品定めのように私をジロジロと見つめた

何故か、嫌な気分ではなかった

彼には悪気が無い様な気がした

それは闇に沈み過ぎて感情が無くなったの彼を、いい人かのように錯覚しただけなのかも知れないが、その時の私から見れば、その男はそうであった


 「未だか?」


子爵が取引屋を急かす

取引屋の雰囲気が、変わった気がした

仮面の中で笑っている様に思える

その様子に子爵も怯え、腰を抜かして床に尻餅を付く

“どうかしたヵ?”取引屋が子爵に手を差し伸べる

子爵が手を取ろうとした瞬間、“ちょっと待ってくださいネ”と男は手袋を取って、再度手を差し伸べた

男性らしい、美しい手だった


 「な、何なんだ行き成り驚かせて...」


 「ははッ!嫌だなァ爺さん、俺ァ驚かせたつもりは無いンだ卦度、」


“じ.爺さん ?!”子爵が目を大きく見開いて.何秒かの沈黙の後に怒り出す

爺さんと呼ばれたのが初めてらしい

良かったな初めてをこの人に貰って貰えて(笑)


そして私達は異変に気付く


子爵は、服に砂なんて付いていただろうか

貧民街に来るのを嫌がるような子爵が砂を服に?

ましてや貴族の中でも最も潔癖だと噂されている子爵が?

子爵も気づいたらしく、青寒め(あおざめ)てからぱっぱと砂を払おうとする

“お前もしかして庭でも弄ってきたのか?”と子爵が取引屋に聞く

取引屋は何も言わなかった

仮面の中からくすくすと笑い声が聞こえる

私は“砂が付着している面積が広がって居る事”に気付く

服だけではなく、今度は顔やズボンに迄広がっている

...之は可笑(おか)しい

子爵は砂を払った手でズボンや顔等触って居ない

次第に砂は子爵を覆うように広がって、遂には流れるように崩れ始めた

数分経つと、慌てふためいていた子爵の姿はそこには無く、砂だけが残っていた

言葉にならなかった

幻覚?幻聴?そうとでも思わなければ

もし、もしも、之が現実であった楢、この男は一体、何、者、で、...

そこで又気付く

“こんな事、前にもあった”

笑う仮面(ますく)の男

彼と対面している時、今と同じ事を思っていた筈だ


 「ン?薬ヵ何か哉?喋れない?」


コクリと小さく頷くと、又しても彼は笑った

“ははッ!”とその陽気な笑い声は嫌いじゃない

莫迦にしたような笑いじゃないような気がした殻

また“それ”と呼ぶべきなのか“取引屋”と呼ぶべきなのな分からないが、今目の前にいるのは“男”なのでそう呼ぶ事にする

男は指をパチンと鳴らし、前に出会した時と同じ格好に早変わりした

こう言った事を見るのは前にあったのを合わせて二度目だ

トリックが()るとは思えないし、何よりも今回の子爵の件については“トリック”で説明出来ない点が多すぎる


 「声か、声ネ〜...」


フード(そう言えば之はマントの様な物で、そうとも呼べるのかもしれない)の中を間探って、小瓶のような物を取り出すと、これまた陽気に“ジャジャーン!”と言って私に差し出した

縛られていると思っていた体はからは、いつの間にか縄が解けていて、体も何処(どこ)か軽くなっていた(其れでも少し怠さが残っていたのだが)

このまま喋らないと言う訳にも行かないので、(信用は全くなかったのだが、矢張りこのままではと思い)男から差し出された小瓶を渋々受け取った

“飲めばいいのか”と視線で伝えると、にこりと笑顔で返された

それはきっと肯定なのだろう

コルクを開けると、嗅いだ事の無い香りが鼻を劈く(其れは良い香りだった)

もう一度確認のように匂いを嗅いで喉迄持っていき、口を付けて流し込み、躊躇なくゴクリと飲み干す

潤うと、言うか、喉に風が通ったように清々しくなった

不思議な事に味は全くしない


 「 A‐B‐C‐D‐ ? 」


復唱しろと言っているらしい


 「 A.B.C... コ ホ ッ ...」


途中で咳き込んでしまう

だが何とか声は出た

自分の声を聞くのが、何かと久しぶりな気がする

男は“もう少しすれば完全に治るサ!”また笑った


 「貴方、何なの」


1番の疑問を疑問その物にぶつけた

彼はキョトンとして、“何ッて、何が?”そう言う

事細かに質問して行く気にもなれなくて、単刀直入に聞いた




 “貴方は一体何なの”


































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