魔女の子
「死に、神...」
喉は、もう動かないと思っていた
もしかしたらかき切られたのでは、と、あの短い時間の中で思った程だ
目の前にいるのは人間、それとも...それ以外の“何か”なのか
自分には分からないし知る術も持っていなかった
名前も何もわからないので、今は“それ”と書いておこう
それは私の言葉に首を傾げて
「死神?へへッ、俺がァ?」
声は仮面をしているからなのか莎もッており、少し聞きずらかったが、何となく言っている事くらいは分かッた
明るい声に驚く素振りを見せると、私が死神だと思っていたそれは“俺にそんな大層な名前着いてたんだなァ”と、またケラケラと笑い出した
「いやァ怖がるのは分かるがヨ。卦度俺、あの歌声が気に入ったんだ。もう1回歌っちゃくれねェ哉~」
よく見るとそれは背が高く、人間にすればモデルのような体型のだった
私の身長は英国では低い150
とすると、それは2m程、は、あると思う。
「ありャ、やっぱシ駄目ヵ ネ?」
私は切り裂きジャックを殺すんだぞ、これくらいで怯えるな
そう何度も言い聞かせる
決心が着くも着かないもない、なにか返さなければ失礼だ
もしかしたら幻覚かもしれないし変装してるだけかもしれない
「いいわよ、だけどそれ脱ぎなさい、目立つでしょう」
「ソレ...ッ、てフードと仮面哉?」
付け足すように“鎌とかも、危ないでしょう”と言う
黒いフードに鎌だなんて、悪目立ちすぎる
一昔前にオカルトが流行り、まだ街には名残があるのだ
と言うか現にまだそう言う危ない輩が居る時代、変装だとしてもこんな服装は避けるべきだ...
「やァすまねェ...こりゃ何方も外せねェンだ...
鎌くらいなら消せるが ネ ...」
それは鎌に触れると、何か呪文のようなものを唱え始めた
最初こそ何やってんだ頭飛んだのか此奴状態だったのだが、鎌から煙が出てきたりして流石に疑うのにも無理が出始める
一分くらい経つと、あったはずの鎌は“無くなっていた”
空いた口が塞がらずどうしたらいいのかも分からなかった
魔法?魔術?ドッキリ?マジシャン?
否、どれも此処迄込んだ(こんだ)トリック等仕掛け(しかけ)ない
「誰しも譲れねェモンッでのがあるだろ?俺にとっちゃ之が譲れねェモンなのよ、御免ネ」
“これ”と指したのは顔をつけてある仮面と身につけているフードの事らしかった
そしてまたそれは会話を笑ッて流す
何処と無くライムと面影が重なって腹が立った
「ねぇ貴方、」
“人様の会話で笑い流すなんて失礼よ”、そう言おうとして止めた
言いたいの事は山々だったけれど、今回の之は殺された妹と面影が重なったと言う私の私情に過ぎない
ならばせめて睨んでやろうと仮面の中の瞳を探す
「ン?俺ノ顔が見てェ、ッてか?」
此処で正直にYESと頷くのにも気が引けて、だが嘘をつくというわけにもいかなかったので
「かもしれないわね、貴方は珍しいから」
強がって嘲笑うように言えば、“お嬢さんのその瞳と髪も、俺ァ随分と珍しいと思うがね”私の一番求めていない返事が帰ってきた
...ライムは、英国人らしく金髪碧眼、私は、_________
“虹色の瞳に白い髪、俺ァ好きだがな”
「ヱ...」
本当は何処かで分かっていた
この言葉が“全て嘘である事位”
それでも喜びたかった
人から貰った“好き”ッて言葉を大事にしかった
ライムでさえもこの髪の色や瞳の事は口に出さず、家の皆は哀れんでさえいた
だのに今になってこんな言葉を貰えるだなんて、嗚呼、世界は思ッた以上に残酷だ
「...貴方は知っている?白い髪は、この瞳の色は、童話に書かれた“魔女”の見た目そのものなのよ。この瞳を持つものは世界から嫌われた“忌み子”。この髪を持つものは魔女の子供。“東の醜き魔女”の子供よ。」
その昔、彼の魔女は魔法で国を滅ぼそうとした
その魔女は、王直属の部下だったらし
つまりは“反逆”である
多くの仲間を集め王に対抗し、最終的には毒を盛って殺害した
それはそれは大層立派な王だったと言う
国民は魔女等に怒り、魔女対国民の全面戦争が始まる
次々に殺されていくのは国民の方だ
魔女に対して為す術を何も持っていなかった
魔法、魔術、様々なもので魔女は国民を支配し、城下は激しい混乱に陥る
だがそんな魔女もまた一人の人間であり、食べ物を食べなければ生きてゆく事を出来ない
人々を洗脳し畑を作らせ、金銭も自分達に捧げさせた
そんなある日、“一番従順だった筈の洗脳者に、魔女が一人殺された”
魔女も国民も之は一体どういう事だと焦る
事実、“一部の人間には魔術が効かない”と言う事が判明した
魔女の混乱で彼女等の力は落ち、国民の状況が有利に立つ
魔女を殺せる“魔女に対する反逆者”が増え、日に日に魔女は減って行った
そして行われた“魔女狩り”である
王を殺したと言う筆頭であった魔女は捕まらなかった
もう何年も過ぎており、何処かで死んでいるのか、それとも身を潜めて暮らしているのか、子供を作り幸せに居るのか、...誰にも分かりはしなかったが、一つだけ確かな事があると言う
その魔女は、アルビノ...白髪だったと言う
そして魔女として認められるには、自らの瞳に薬を流し込み、虹色に輝かせる事
それは片方でも認められるが、もし失敗すれば体は腐敗し目は見えなくなり、3日以内に死んでゆく
忌み子の印である虹色の瞳と、筆頭であった“東の醜き魔女”の子孫と示す白髪を持った子供は“次の反逆者”になりうる為、産まれて直ぐに殺さなければならない...
「俺だッて莫迦じゃァねェ、それ位知ってるサ。魔女狩りは本当にあった、だからその童話も全て本当なんじゃねェかッて話も出てンだろ?」
“そうよ、”と小さく肯定すれば
「だから?」
それからは予想外の答えが帰ってきた
“例え手前が其の魔女ノ子供だッたとして、今反逆してる訳じゃねェだロ?”
「私は魔女の子供よ」
再度確認をとるように言い放った
又それは笑ッて流すと思っていたのだが、今回は笑いはしなかった
嗚呼、やっと引いてくれるか、と思っていたのだが、それの答えは思っていたのとはまた違った
「手前は忌み子“かもしれねェ”。ならば俺は“本当の”忌み子さ」
意味が分からずに首を傾げると、今度は笑い飛ばされた
“冗談だヨ”と言って
冗談じゃなかったら、貴方は一体何者か
いずれ知る事になる“それ”の存在は、私の人生を大きく揺さぶる事になる
私は未だ知らなかった。“それ”の恐ろしさを
「おっと、すまねェ時間だ、又機会があったら会おうゼ」
教会の大時計を見れば、それは焦り、闇の中に消えていく
不思議だ、“居た痕跡が何処にも無い”のだから
偶然か必然か、何方にせよこの出会いは、今後を大きく変えることには違いなかった
時は魔女狩りが終わった頃。
後に語り継がれることになるこの話は、
娼婦と化け物の話。