喪失
今日は仕事の予定がなく、だが何をする訳でもないので
只そこに座って客を待っている、それだけの事だ
当たり障りのない何時もの時間
空を見あげれば真っ青であんなにも素敵なのに、どうしても手が届かない
それが何処か切なくもあるけれど、自分は捨てられたのだから仕方ない
妹がいるのだ、大丈夫、切なくなんてない、そう言い聞かせるのが毎日の日課
嗚呼素晴らしい青空よ、美しい女神よ、どうか今日も妹を守ってくれ、
「ライラ ? 珍 しい 名前 だな ~ 」
静かに黙っていると、遠くから聞こえる音にも又敏感だ
何故自分の名を知っている?
声からして男か、客だろうか
「(いや...)」
スコットランドヤード_________?!
ドクン。
心臓が嫌な音を立てた
おい、やめろ
なんでこんな音を立てるんだ
まるで何かを察したように
まるで何かを怯えるように
ドクン
「いやあ、娼婦ッて大体名前が付いてないから探すの大変なんだけど...」
“お宅が有名で助かったよ”蔑むような声だった
娼婦を軽蔑するような眼差しだった
法律があるから、秩序が有るから守っているだけで
娼婦何かとは関わり逢いたくないんだ、と
『私達に』告げるようだった
その続きなんて手に取るうように分かるんだ、だから言わないで
「お宅んとこのライムさん、切り裂きジャックにやられたらしいんだ」
_________
切り裂きジャック娼婦を狙う
喉元を刃物で切り裂いて、臓物を抉り出す
それも極めて美しい手際で
その為犯人は医者なのではと言う意見もしばしば、
医者に芸術家、...出てくる職は後を絶たない
何故娼婦を狙うのか、あくまでも政府の考えだが、答えはこうだ
“娼婦から産まれ、捨てられた子供の仕返しではないだろうか”
娼婦に恨みを持ち、これ以上自分のような者を産まないために娼婦をこの世から消す
...切り裂きジャックがロンドンに現れて3ヶ月
政府に悪戯の手紙が届くようになった
“偽のJACK誕生の悲劇”である
自分がジャックだと名乗り人を殺す
だが、その偽は大体すぐに見つかるのだ
何故なら、“偽は本物に殺されるから”
_________
耳が焼けるように痛かった
目元が焦げるように熱かった
喉が破裂しそうだった
誰かの悲鳴が聞こえた
立てなくなってしゃがみ込んだ
誰だろうと思った
嗚呼、自分の悲鳴だった
「うわあああああああああああああああああ!!!!!!!」
ライム、お前って妹は、昔は凄く優しかったンだよ
お姉様お姉様ッて懐いてさ、可愛かった
今は今は凄い好きだッた、変わらず好きだッた
ほんのりと姉思いなんだよ、今も昔も変わらずさ
最後の家族、大切にしようッて、ずっと思ってた
御免、姉ちゃん守ってやれなかった
大好きだよ