第一部 一
機構長室の木目鮮やかな扉をノックする前から、岡森琉也は少しだけわくわくしていた。
これが、普通の学校で、普通の生徒なら、校長から呼び出されたとなれば、緊張の一つもしないわけがあるまい。
だが、量錬機構付属高専は、そもそもが普通の学校ではない上に、琉也は普通の学生でもない。
なにしろ、機構長と個人的に親しいのである。隣りの家のおばさんと話す方が、まだ緊張するくらいだろう。とはいうものの、最近は寮生活なので隣りの家のおばさんも何もないのだが。
ノックをすると、すぐにどうぞ、という聞き慣れた声が聞こえた。
遠慮なく、自室へと戻るのと変わりない速さで扉を開けると、応接セットのソファに腰掛けていた機構長、高原日向がにかっと人なつこい笑みを向けた。
「やぁ、君と話すのは気が楽でいいなぁ」
第一声がこれである。琉也の方も、さっさと対面するソファの方へ歩み寄りながら、ゆるりと笑って応じた。
「何かそれだと、他の人と話をしてたばかりって感じですね」
一応軽く頭を下げてから、ソファに腰を下ろす。機構長室そのものはほんの二、三度しか入ったことがないが、高原の個人宅でソファに腰掛けた数は知れないほどなので、腰掛けるタイミングさえもいつも通り、といった感がある。
「鋭いねぇ、相変わらず。全くその通りなんだよ。この話をするのは、これで――何人目だったかな? 二十人くらいかな?」
「……それはまた、どういう話か想像がつきませんね」
さすがに驚く琉也の前に、高原がばさっと新聞を広げて見せた。
一面の下半分を占める大きな記事は、佐岐野から発信されたメッセージに関するものだ。『佐岐野から無線信号。封鎖区域の生存者か』と、でかでかと文字が躍っている。
内心、この件に関する話ができるのではないかと期待しながらこの機構長室に来た琉也である。驚くこともなく、むしろ身を乗り出す勢いで問いかけた。
「これって、報道されてることしか分かってないんですか? 機構だけが掴んでる事実とかメッセージとか、ないんですか?」
「さすがに話が早くて助かるが……悪いな、本当にあれだけしか分かってないんだ」
申し訳そうな内容とは裏腹に、高原はどこかにやけた表情をしている。
もしかすると、何か知っていることがあるのかもしれないが、簡単には教えてやらない、といった風情を感じる。
意地悪ではないだろう。機密事項が無数にある――どころか、機密に触れない内容の方が少ないくらいだということは、量錬機構に関係する人間であれば誰もが心得ていることだ。
だがしかし、ここに呼ばれたからには、琉也にも触れられる可能性のある機密だと考えていいはずである。
どう切り崩したものかと思案していると、高原がどかり、とソファに背をもたせかけた。改まった話をする姿勢である。
「琉也君、憶えているかな? サキノの件で、誠一から来た二通目のメールの内容」
「え、あ、はい、」
唐突な問いかけに戸惑いつつも、琉也はすでに完璧に諳んじている内容を淡々と述べた。ほとんど言い終わらないうちに、高原の次の言葉が飛んでくる。
「君は、どう思う?」
曖昧な問いかけは、そもそもどこに着目するかも含めた問いかけである、ということを、この学校の生徒は嫌と言うほど思い知らされている。
だから、琉也は、何を、などと間抜けに問い返すことはしない。そして同時に、たとえ相手が家族といってもいいほど親しい相手であっても、心の奥底で何年もの間温め続けている考えをこんな場で披露するほど、迂闊でもない。
「生存者はいた。だが、世間には知られてはいけない状態になっていた。だから、街ごと隔離することで全てを隠蔽することにした」
高原の鋭い眼差しが、琉也の脳を透視するかのように突き刺さる。
別にそれほどおかしな想像ではない。
二通目の内容に関しては、そもそも表現が少しおかしいのではないか、と幾度となく、数多の人間から指摘されてきたことである。
琉也の語った内容も、基本的にはすでに語り尽くされた憶測の、一形態でしかない。高原も当然、把握していることである。
「……まあ、それくらい慎重なら安心できるってもんだな」
しばしの沈黙を破った高原は、やれやれ、とばかりに呟いた。呆れているような、疲れているような、どうにも年寄りっぽい仕草だ。
ここ数年――機構長に就いて以来、高原は随分と年をとった、と琉也は思う。昔はもっと、子供みたいな人だったのに。まあ、ようやく年相応になってきたとも言う。
「……で、えーっと、結局お話というのは」
黙り込んでしまった高原に声を掛けると、ああそうだったな、と高原は苦笑した。
「いやつまりだね、単刀直入に言うが、佐岐野に救助隊を送ることになった。さすがに無視はできん、ということだね。で、目下メンバーを選定中なんだが、どうだ? 行ってみる気はないか?」
あまりにもストレート過ぎる内容は、さしもの琉也の想像をも越えるものであった。
だが、躊躇したのは一瞬にも満たない。ほぼ間髪を入れずに応じた。
「行きます。よろしくお願いします」
今度は高原の方が意表を突かれたようで、またも口をつぐんだ。
二人で睨み合うように向かうこと一分あまり。
ふ、と高原が小さく笑みを漏らした。
「やっぱり君と話すのは楽だな。さっきも言ったが、もう二十人以上にこの話をしてるんだが、みんなあれやこれやと細かい話をまずは訊こうとするもんで、まあ当然といえば当然だが、一々説明したり、ものによっては説明できなかったりと色々面倒でね」
もううんざり、とばかりに愚痴のように言う高原がおかしくて、琉也はつい吹き出していた。
「いやもちろん、僕だって細かいことは聞かせてもらいたいですけど、何を聞こうがとにかく行くものは行きますので」
「いやぁ、なかなかみんなそう竹を割るようにはいかないんだよ、何があるかわかんないし、生きて帰れるかもわからんわけだし」
あっけらかんと言うのは、琉也の前だからであろう。「生きて帰れるかわからない遠征隊」などと聞いて加わろうという酔狂な者は、いくら変わり者揃いの量錬機構とてそうはいないに違いない。
思わず俯いて黙り込んで琉也を気遣うように、高原が顔を覗きこんで来た。
「不安か? 私が言うのも難だが、この遠征は極めて危険だ。ぶっちゃけたことを言うと、全滅の可能性もあり、というのが知財本部の見積もりでね」
本当にぶっちゃけている。つい笑みがこぼれた。機構長になっても、やっぱり本質のところは、若い頃から変わっていないのだろう、
「不安は不安ですし、まあいろいろ聞きたいといえば聞きたいんですけど、どうせ遠征そのものとか佐岐野の状況とかに関する詳しい説明は、また改めてきちんとあるんですよね?」
「それはもちろん。追って連絡がいくはずだ」
「だったら、今お訊きしたいのは、二点だけです」
「ほう、二点だけか。逆に、こっちが答えたくなる言い方をしてくれるじゃないか」
にやにやと高原が人の悪そうな笑みを浮かべる。といっても、本当に人が悪いのではなく、心躍るとこんな感じのワルい笑いになってしまうのが、高原の残念なところである。
「まず、一つ目。そんな危険な遠征に学生を連れて行くのはいろんな意味で問題があると思うんですが、僕の他では誰が入ってるんですか?」
理由を聞かずとも、面子を聞けば思惑が分かると考えての問いかけだったが、高原は親切にもあっさりと思惑までかみ砕いて説明してくれた。
「なるほどな。まあこれは君の言うとおりで、あくまで遠征そのもので成長が期待できそうな、つまり実務経験が意味を成しそうな若手をごく少数、ということになっていてね。五年から瀬月、四年から朝比奈、三年から君と天池で四人だけだ」
高原の口にした名前に、琉也はある種の衝撃を受けた。瀬月、朝比奈、天池といえば、それぞれの学年でずば抜けて優秀な生徒として、他学年ばかりか、機構全体にまで知れ渡るほどの逸材である。文句なしのトップ陣を惜しげなくこの遠征隊に投入しようというその姿勢が、今回の遠征に対する機構の本気度を窺わせる。
そして、別の意味で衝撃的なのは、その中に自分が紛れ込んでしまっている点である。たとえて言うなら、ダイヤモンドの中に石英が混じっているかのような、不自然な人選とも言える。
そう、これではまるで――。
「……なんか、僕だけおかしくないですか? まさか、」
「それは違うと断言しておこう。別に君が岡森誠一の子だから、ではない。それに、それを言うなら、天池君だって、実力を鑑みてのことだ。別に、彼女が天池陽輝の娘だから、というわけではない」
琉也と話すときはいつも砕けている高原の口調は、このときだけは、鋼のような堅い信念を湛えていた。だから、琉也はすんなりと信じることができた。
天池陽輝――アルケミック・コクーンの開発者として、また特に開発後間もない時期に材料科学へ応用して数多くの新たな材料を作り出したことで、今に至るまで世界的に名を知られる科学者である。
琉也と同学年に在籍する天池凜佳は、そういう意味で最初から特別な存在であった。いわばアルケミック・コクーンの申し子とでも呼ぶべき人である。だが、彼女が真に周囲を圧倒したのは、間違いなくそんな彼女の生まれとは全く関係のない側面からであり、――
うん、まあたしかにね、と琉也は内心深く納得した。
あの天池凜佳が含まれるのだ。この人選に、生まれなんて関係ないのだろう。
しかし、そうであるとすれば。琉也の胸中に、次なる懸念が膨れあがる。
まさか、あれが知られているなんてことは。
それとも、あっちか。よもや、あのことではあるまい。
どうにも、疑わしい秘密がありすぎるようだ、と今さらながらに琉也は自らの特殊性にげんなりさせられる。
高原がははは、と乾いた笑みを浮かべた。
「いや、そんなに疑心暗鬼にならないでくれよ。君だって充分優秀だろう? 元からこの学校の生徒は、ただペーパーテストができればいいという基準では選ばれていないが、中でも君はそういう目立たない方向で優秀だと、私は評価しているんだ」
何やら微妙なほめ方であったが、まあいいかと諦めておく。さしあたって、今回の遠征のメンバーに自分が含まれていることそのものを、まずはありがたく受け取っておくべきだろう。
とはいえ。
漠然と大雑把に期待されても困るのである。
「評価していただいてるのは感謝しますけど、実は二つ目の質問、そこと関係してまして。雰囲気的に、遠征の承諾を取るのは僕が最後ですよね。どうにも後から追加したっぽい気配を感じるんですけど、高原さんは、具体的に僕に何を期待してるんですか?」
その質問は、琉也にとってみれば、諸刃の剣にも等しい危うさを孕んでいる。だが、だからこそ、今、この場でしか、この人相手でなければ、訊けないのだ。
果たして、一瞬きょとんとした後、高原はにやりと不敵に笑んだ。
「言うようになったねぇ、昔はあんなに純朴で素直だったというのに。嬉しいような惜しいような、微妙な気分だなぁ。これが親心というものなんだねぇ」
「あのぉ、僕は高原さんの子供じゃないですけど。っていうか、自分の子供いますよね」
「いや優季はなぁ。あぁ、そういえば昨日、優季のやつが何やら君のことを気に掛けてたぞ? 次はいつ来てくれるのかな、とか」
相変わらずからかうような笑みを浮かべながら、高原がそんなことを言う。
優季というのは、琉也と同い年の、高原日向の娘である。違う高校に通っているので、頻繁に顔を合わせるわけではないが、小さい頃からほとんど毎週末のように高原宅での夕食にお呼ばれしている琉也にとってみれば、「知人」と呼んで差し支えない間柄になる。
そう、あくまで「知人」であって、まちがっても「友人」とかではない。「宿敵」と書いて、あえて「とも」と読んだりすることなく、普通に「しゅくてき」と読む――そんな間柄といっても、大間違いではなかろう。といっても、琉也の側は特に嫌っているつもりもないし、なぜ嫌われているのかも――そもそも嫌われているのかどうかさえ、いまいちよくわからないのだが。
この辺りの、いまいち馬が合わない若者同士にわだかまる機微を、果たして目の前の一風変わった父親は理解しているのだろうか。
「まあたぶん、今週もまた土曜にお邪魔しますので、そうお伝えください」
また、高原夫妻のいないところで微妙な舌戦を繰り広げることになるかと思うと元気が少し蒸発していくような気分になるが、独り暮らしの琉也にとってみれば、高原宅での夕食はほとんど唯一のまともな団欒なので、行かないという選択肢は端からない。
ははは、と屈託なく笑ってから、高原はにわかに真面目な顔をした。
本題が来るな、と琉也は気を引き締める。
「機構長ともなると、いろんな権限があってね。たとえば、誰がどんなシードを持っているか、なんてことも分かっちゃうわけだ。君の場合は臨床試験までこぎ着けた薬学系シードもたくさんあるし、その辺の期待は当然あるわけだよ」
なるほど、そこか、と琉也は納得する。ある意味、最も自然で、無難な話題を出されたといってもいい。
シード。この概念とそれにまつわる規則が導入されたのも、佐岐野事件以後である。
シードとは、アルケミック・コクーンによって生み出された新たな素材や物質を指す。元々、古くから創薬において利用されていた語彙・概念であるが、アルケミック・コクーンの開発以降は、あらゆる分野の新奇材料に対して用いられるようになった。
ここで重要なのは、シードはあくまで実用化の候補に挙げられたものに過ぎない、という点である。アルケミック・コクーンによって作り出されたものの、その実際の環境や条件における有用性や有害性といった、実用化に際して問題となる点は、実際に使ってみなければわからない。誰かが評価を行わなければならないのだ。
だが、アルケミック・コクーンによって生み出されるシードの中には、実は恐ろしく危険であったり、思いがけない作用があったり、といった性質を備えているものも数多い。その性質がよく知られる前に、迂闊に公になることは、避けなければならない。それに伴って、情報の浸透は最小限に抑えられることが望ましい。
そこで、次のような慎重を期す規則が導入された。シードの基本的な初期評価は、シードの開発者が単独で行う。ここで、開発者とは、提案書を書いてアルケミック・コクーンを稼働させ、そのシードを生成することに成功した責任者を指す。したがって、開発者としては、ただアイディアを出してアルケミック・コクーンを走らせるばかりでなく、その性能評価までもきちんと完結させるまでが一連の仕事である、ということになる。この初期評価が終了し、実用化の意義ありと判断されたシードが、実用化に向けて正式に公開されていくことになるのである。
この一連のプロセスを別の側面から見れば、初期評価が終わるまでは、開発者しかシードを知らないとも言える。この仕組みのために、しばしばシードは開発者が保有している、と表現される。
当然、現時点で誰がどんなシードをどれだけ保有しているのか、というのは、量錬機構の中でもかなりレベルの高い機密情報に分類されている。それこそ機構長を含めたほんの一握りの上層部の人間以外はその閲覧を許されていないし、また開発者側も自らの保有するシードに関する情報を口外することは厳しく禁止されている。
例外は、動物実験で良好な結果を得た薬物系のシードを、人体において臨床試験にかける場合である。このような場合には、さすがに全て秘密にというわけにはいかないので、機構長や薬理課長、および患者とその主治医の間で情報を共有することになる。
これらの仕組みは本来、量錬機構職員の中でも、アルケミック・コクーンの利用資格を持つ、開発本部の研究員にのみ適用されるものである。だが、付高に通う生徒にはアルケミック・コクーンの利用が許可されるため、一応この仕組みに従わなければならないことになっている。一応、というのは、さすがに学生レベルでは、まともに提案書を書いて承認を取り、アルケミック・コクーンを動かしてシードを生成するところまでをやり遂げる者があまりいないためだ。
高原がここでこの話を出したのは、要するに琉也がすでにシードを保有していることを知っているからに他ならない。琉也はこれまでに幾度も薬物系のシードを臨床試験まで持って行っているため、自然と機構長に話を通す機会があったわけである。
そして、話の流れを考えれば、こういうことになる。
「……つまり、この遠征に僕の持っているシードを持っていって使ってみてくれ、とそういうことですか」
しかし、こうして口にしてみると、なかなかにチャレンジングというか、ちょっと異常な感じさえする。遠征先に何があるか分からないのに、何がどう転ぶかわからないシードを持って行けというのは、正しい判断なのか? 毒をもって毒を制す、みたいな感じだろうか。偉い人の考えることはよく分からない。
内心の不満めいた思いを、高原は正しく見通していた。
「君の考えていることは分かる。だから予め言っておくが、私だってこれぞという決定的な考えがあるわけじゃない。簡単に言えば、保険だよ。何が起こるかわからないから、手札の数はできるだけ増やしておきたい。そういうことだ。もちろん、手札というのは、シードだけじゃなく、君自身も含まれているってことは、理解しておいてほしい」
どうやら、高原の中では琉也はずいぶんと高く評価されているらしい。とはいえ、最後に追加される形でメンバーに選ばれているらしきこの状況は、その評価とは矛盾するような気もするが。
ふと、シードの使用に関して気になったことを訊ねた。
「あの、シードは一つだけ持っていけ、ということですか? 複数となると承認の過程が大変だと思うんですけど」
通常、シードの初期評価のための使用には、厳密な手続きが必要となる。書類を出し、審査を待ち、承認されてようやく使用可能となって持ち出しが許可される。使用後には、初期評価用のレポートとは別に、使用時間や使用場所などを記載した書類を別途出しておかなければならない。有り体に言って、ものすごく面倒くさい。しかも、複数のシードを使いたければ、この面倒なプロセスをシードの数だけ繰り返す必要があり、保有するシードをいくつも持っていくとなれば、考えただけで気絶しそうな手間暇がかかる。
幸いにも、高原は話の分かる人であった。
「いやいや、そこはこっちの方で適当に融通するよ。最近、ようやくこの辺の融通が利くようになってきてね。まあ単に特例に関する条項が規約に追加されただけなんだがね。そうだな、選ぶのも面倒だろうし、君の持ってるの、全部持っていっていいよ」
ははは、と気楽に言う高原とは裏腹に、琉也は琉也で固まっていた。話が分かるのはありがたいが、しかし、全部となると……。この人は、中身を分かって言っているのか。
しばらく高原の様子を窺っていたが、どうやらそれ以上は言うこともないようであった。つまりは、本気ということである。本気で、全部持っていかなければならないらしかった。
変な妖怪にでも取り憑かれてしまったかのように、どっと疲れた気分になっている琉也に、高原は気軽に告げた。
「じゃ、土曜日、待ってるよ。時間はいつも通りだね?」
「はい、よろしくお願いします……」
「いやなんか気重に感じてるみたいだけど、全然気負うことはないんだよ? たしかに危険はあるだろうけど、あくまで君は保険であって、どちらかといえば、この遠征を通じて色々学んで欲しいという私の思いもあってだね。ほら、やっぱりちょっと危険なくらいの方が本気も出るだろうし。それに主任務は運用本部の人たちが担当するわけだし」
「あ、はい、わかってます、大丈夫です」
何やら説得のような、言い訳のような口上を滔々と述べ始めた高原は、やっぱり少し年寄りくさくなったと思う。
琉也は、話をやや強引に打ち切って、軽く頭を下げてから機構長室を辞した。