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stage1_ゴロツキと魔女 5

「おい、修道士。燃えてんぞ!!」

「えええ、ちょっと待ってください!!!」

 首筋が熱いです。どこが燃えているのか分からなくて困惑してしまいましたが。確実に燃えているのは私、私はおさげを触ります。髪は女の子にとって魂のような物。死んでしまうかと思いましたがセーフです。じゃあどこでしょう。どこが燃えているんでしょう……!?

「滑稽だな。まるで自分の尻尾を追いかける犬のようだぞ」

「フードが燃えています!! 私の大切な修道服のフードが燃えているんです!!!」

 もう脱ぐしかないと思いました。でも、この服脱ぎにくいんです!

 窮地に陥った私に向かってジークベルトの手が伸びてきました。フードを毟り取るつもりでしょう。

「ぐえっ……」

 横から引っ張られて首が絞まりました。調理前のチキンになった気分です。結局、フードは千切れませんでしたが、勢い余って転がった結果、泥に擦られて無事に鎮火することが出来ました。

「ふぅ、九死に一生を得ました!」

「油断するんじゃねぇ、次が来るぞ!!」

 はっとして顔を上げると、扉の前に立つマヤトーレの、その左手に赤い弓が握られていました。

「気を付けろ。あれが奴の放火道具だ」

「魔法弓って奴ですか。飛び道具は恐ろしいです」

 揺れるランプに照らされて、マヤトーレが不気味な微笑を浮かべます。怒っているかと思えば楽しそう。あの目は間違いなく狂人のそれですよ。

「眠りを妨げたことは大目に見てやろう。その代わり、貴様らを狩りの練習台にさせてもらうぞ!!」

「どうしてそうなるんです!?」

 マヤトーレの右手が凄まじい勢いで動き始めました。何が始まるのか、そう思った次の瞬間には空が明るくなっていたんです。

「我が魔法術を見せてやる。永劫の塵になれ、ファイア・アロー・サウザンレイン!!!」

 真っ赤な火炎の矢が、辺り一面を吹き飛ばす勢いで迫ってきます。これはそう、この世の終わりです。

「構えろ、叩き落せ、焼かれんじゃねぇぞ!!」

「何で私がこんな目に……!!?」

 眠りを妨げたと言いますが、屋敷の周りに音の鳴る仕掛けを用意したのはマヤトーレ自身でしょう。だいたい、寝るのが早すぎます。まだ陽が落ちたばかりだというのに!!!!

「ああ、もう!!」

 泣き言を言っても仕方がありません。私はモルゲンロッドを構えます。こんな時、矢の一つ一つを叩いていたら絶対に間に合わないでしょう。だからロッドの中心を握り、クルクルと回して壁を作っていくんです。

「これならいけるはずです」

 名付けてローリング・モルゲン・シールド。こいつも教会時代の産物で、暇な時に回していたらいつの間にか出来るようになっていたという技です。

「ほう、やるではないか……」

「杖を回させたら私の右に出る者はいませんよ」

 ロッド捌きには自信があります。見るとジークベルトも頑張っていて、上手い具合にマヤトーレの矢を叩き落としていました。

「こいつは良い。昼間、鳥とやりあってたのが効いてるぜ。分かるか、目が慣れてんだよ」

 無駄だと理解したのかマヤトーレの攻撃が止まりました。しかし、未だ楽しそうに笑っていますね。これは次が来そうですよ。

「ならばこいつはどうだ。貴様らはこいつに耐えることが出来るか?」

 飛び上がったマヤトーレが窓に足を掛けます。身軽な動きで屋根の上へと駆け上がっていくじゃありませんか。

「何をする気です?」

「先ほどと同じだ。だが、今度は高さがあるぞ?」

 弓を構え、先ほどと同様に物凄い速さで連射を始めます。目で追えないような素早い手の動き、そして迫ってくる矢は鋭く重い、槍で突くような射撃でした。

「攻撃が重い。これは弾ききれねぇぞ!!」

「軌道が違うんです。軌道が違うから……!!」

 飛び道具の本領は上からの攻撃ということでしょう。昔、教会で習ったような覚えがあります。

 山なりに放たれる矢も十分に恐ろしいですが、斜めに撃ち下ろすことで弓矢は一段と強力な武器になります。反撃も難しいですし、これはちょっと厄介です。

「火炎の矢はさらに加速するぞ。そしてこの圧倒的な貫通力。大地と共に体を抉ってやろう」

「これ酷いです。人に使う技じゃないですよ」

「あいつは人間をやめてんだよ。頭おかしいんだ。服も着てねぇしな!!!」

 だんだんと、彼女がロンベルンへの立ち入りを禁じられた理由が分かってきたような気がしました。これは堪えきれません。逃げろ逃げろと後方へ避難します。

「馬鹿め、そうはさせるか!!!」

「この人、対応が早いです」

 矢の弾幕が包囲網のように行く手を阻みます。上手く逃げ道を潰されてしまいましたが、距離が出来て角度が緩くなった分、多少は持ちこたえられるかもしれません。

「ジークさん。何か防御魔法はないんですか?」

「ねぇよ、そんなもん!!」

「ああもう、仕方がないです。こうなったら、一か八か」

 私が使える数少ない防御魔法のうち、この場面を切り抜けられる可能性があるのはたった一つだけ。

「大いなる女神エル・リールよ。我らに聖なる盾を与えたまえ。光魔法、パリン・シールド・ドゥーム」

 私たちを取り囲むように半球状の光の壁が姿を現します。こいつは防御魔法パリン・シールドの応用版。ガラスのような硬い壁が、次々と迫るマヤトーレの矢を弾き飛ばしていきます。

「やるじゃねぇか、見直したぜ」

「ジークさん。そんなことを言っている場合じゃありません。何か遠距離攻撃が出来る魔法はありませんか?」

「ねぇよ、そんなもん!!」

 心の中で思わず舌打ち。ジークベルト、こいつは全く使えない男です。遠くから反撃できれば楽でしたが今の私たちの戦力では不可能なようです。私には陣魔法がありますが、それだってある程度の距離まで近づかなければ相手に届かせることすらできないんです。

 火炎の矢を掻い潜って、接近してマヤトーレを叩かなくてはならない。こいつは中々厳しい戦いになりそうです。

「そろそろ時間切れみたいですね。いいですか。私は左から行きますから、貴方は右から走り込んでください。大きく弧を描いて走るんですよ」

 ピシピシと光の壁に亀裂が走り始めました。パリン・シールドはかなり特殊な魔法です。一時的な防御力には目を見張る物がありますが、欠点があるから教会の人間は誰も使いたがりません。

「もう持ちませんね。割れたら速攻ダッシュです!」

「よく分かんねぇけど、分かったぜ」

 防御魔法としては致命的なんでしょうが、パリン・シールドが硬さを保っていられるのは短時間、その後は酷く脆くなるんです。しかも割れると鋭い破片が降ってきます。パリンと割れるからパリン・シールド。私以外に使ってる人を見たことがない希少な魔法です。

「なんと脆い防御魔法、パリンと割ってやったぞ!!」

「おお、パリンと割れやがった!!」

 落ちてくる光の破片を避けるように飛び出していきます。私は上手く避けましたが、ジークベルトは分かっていなかったみたいですね。出遅れた彼は不運にもパリンの洗礼を浴びてしまいました。

「畜生、壁の破片が刺さりやがった!!」

「作戦が台無しです!!!」

 憤慨しながらも全力疾走します。シールドを突き破った後、マヤトーレが一瞬でも手を止めている今がチャンスだと思いました。

「くるか、修道士」

 少しでも接近しようと試みますが、ここでもマヤトーレの判断は素早く的確でした。遅れたジークベルトを矢の弾幕で牽制し、すぐさま私の方へ狙いを定めてきます。

「走れ走れ、愉快な修道士狩りといこうじゃないか!!!」

 私の後方、走り去る残像を射抜くように連続して矢が放たれます。今までのような数で圧倒する攻撃も厄介でしたが、こうやって冷静に狙いを付けられる方が何倍も恐ろしく感じられます。

 火炎の矢は鋭さを増し、私の行く手を阻むように大地を削り取っていきます。足が止まった私へ向けて、容赦のない連撃が発射されました。

「がふっ……!!!」 

 心の中で私はエル・リール様を呪いました。所詮、乱射は乱射だったということです。狙いを付け、強く力を込める。それだけでマヤトーレの火炎弓は全く違う武器に変貌しました。例え足を止めて杖を振り回しても、防げるのは数発が良いところでしょう。

「とはいえ、大いなる女神エル・リールよ……劇薬コロリ……!!」

 草場に倒れ込んだ私は、とっさに回復魔法を発動させました。劇薬コロリは中級の治癒魔法。効果が期待できる分反動も大きいですが、私自身に使う分には耐性がありますし、死んだ振りをするつもりなので問題ありません。

「はっはっは、修道士の方は呆気なかったな」

 凄まじい気分の悪さ。寝ながらゲロを吐いたのは久しぶりでしたが、おかげでマヤトーレを騙すことに成功したようです。仮に全快しても勝てる相手ではないでしょうから、ここは様子見に徹することにします。

「貴様はどうだ、ジークベルト」

 動かない私を見て、マヤトーレの標的が変わりました。走り出すジークベルトに向かって左右から矢が襲い掛かかります。

「ぐあっ……この野郎!!」

 直線的な軌道だけでなく、カーブをかけた撃ち方も出来るようです。ギュインと曲がって思わぬところへ飛んでいきます。

「ファイア・アロー・クロスシュート。これこそが、大天才の本領という奴だ」

 速さや弧の大きさを変えながら、相手を翻弄し隙を生み出す。足が止まり防御にまわったジークベルトへ向かって、四方八方から矢が迫っていきます。

「終わりだ、燃え尽きて灰になれ」

 何て鮮やかな攻撃でしょう。いつの間にか火炎の矢がジークベルトを取り囲むように動いていました。前方はもちろんのこと、強烈にカーブをかけることで背面にまで矢を届かせることが可能なようです。まさに集中砲火、全ての矢が同時に襲い掛かっていきます。

「天才って奴ですか……!」

「ぐああああああああああああっ!!!!!!」

 灼熱の炎に包まれて、ジークベルトが苦しみの絶叫を上げています。本当に灰になるんじゃないかと思ってしまう程の苛烈な攻撃。マヤトーレは勝利を確信したことでしょう。私だってもう駄目だと思いました。

「ぐああああああっ!! 覚悟しろ、マヤトーレ!!!!!」

「うわ、凄い根性です」

 なんとジークベルトは立っていました。恐ろしい程の頑丈さですが、ほとんど全身が燃えていますね。もう火炎人間って感じです。

「絶対に許さねぇ!!!!!」

 火炎人間ジークベルトが突進していきます。鋼の胸当てと、両手に魔法で生み出した石のガントレッドを装備していますが、丸腰同然です。マヤトーレ相手では分が悪いと思いますが、何か作戦があるんでしょうか?

「がはっ……!!」

 何も考えていなかったみたいです。連射を食らって倒れてしまいました。三歩くらいしか進めませんでしたが、一応息はあるようです。地面を転がって消火しています。

「ふん、貴様のようなゴロツキが私に挑むなど千万年は早いと知れ」

 マヤトーレの高笑いが森に響きます。屋根から飛び降りて、そのままジークベルトの方へ向かっていきます。止めを刺すつもりなんでしょうか?

「私の完全勝利だな。貴様の灰はロンベルンの川に流してやろう」

 倒れている私の横を素通り。完全に気絶していると思っているみたいですね。屋根から降りてくれたのは幸運ですが、ジークベルトがやられてしまった以上、私もそろそろ動かなくてはならないでしょう。

「大いなる女神エル・リールよ、私にごにょごにょ……」

 私のオリジナル魔法、ハピートリガー。エル・リール様から聖なる力を引き出し、こっそりと形を変化させて解き放つ。気分を高揚させて幸せな気持ちになるための魔法ですが、同時に恐怖心を塗りつぶして気持ちを前向きにしてやることもできます。ついでにコロリの反動まで忘れさせてくれるので願ったり叶ったり。ここからが私の本領です。反撃の時へ向けて一気にボルテージを高めていきます。

「騒音を立ててくれたお返しだ。覚悟しろよ」

 これは屈辱的な仕打ちを始めました。マヤトーレが動けないジークベルトを踏み付けています。

「やりたい放題ですね。噂通りの酷い女です」

 罵詈雑言を吐いたり、唾を吐いたり蹴飛ばしたり。これはさすがに助けてやろうかと思いましたが、突然状況に変化が起こりました。何ということでしょう。ジークベルトがマヤトーレの足を掴んだんです。

「貴様、まだ息が……!?」

「俺がこの程度でやられるかよ。もう許さねぇ!!」

 マヤトーレが引きずり倒されました。ジークベルトが馬乗りになって、凄いですよ。壮絶な殴り合いが始まりました。

「マヤトーレ、今日がてめぇの命日だ!!!」

「がふっ……ぐぇ……。し、死にぞこないが調子に乗るなよ!!!」

 草の上で男と女が転がり回っています。力が強いのはジークベルトの方でしょうが、相当なダメージを受けていますからね。見た感じは互角の争いを繰り広げています。

「くそ、無茶苦茶にしてやるぜ」

「望むところだ。だが、貴様にこの私が捉えられるかな」

 立ち上がっての格闘戦へ突入しました。掴みかかろうとするジークベルトをマヤトーレが足技で捌いています。炎の魔法を得意にしているようですが、素手の戦いも出来るらしいですね。

「はぁ、てめぇ……いい加減に」

「いい加減にするのは貴様の方だ。今一度、我が魔法弓を食らわせてやる!!!」

 マヤトーレが赤い弓を取り出しました。さっきまで何も持っていませんでしたから、多分魔法で生み出しているんでしょう。ジークベルトが血相変えて飛び掛かっていきます。

「ここで会ったが百年目!!!」

「馬鹿が、貴様は既に死地にいると知れ!!!!!」

 さっきも見た光景ですが、ジークベルトが腹に連射を食らっています。驚いたのはここからでした。

「うおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

「何!?」

 またしても彼は倒れませんでした。大地を強く踏みしめて、炎を纏った砲弾となって突進していきます。

「てめぇの炎で焼かれやがれ!!! うおりゃああああああああ!!!!」

 燃える炎の体当たり。異常な頑丈さ、そしてゴロツキ特有の負けん気の強さがあってこその捨て身の攻撃でしょう。

「寄るな、鬱陶しい!!!」

 瀕死の状態で良くやります。その頑張りには拍手を送りたいですが、無残にも足払いで一蹴。追い打ちの回し蹴りで吹っ飛ばされて火炎の餌食。今度は完全に気を失ってしまったみたいです。

「ようし、これで私の勝ちだな。ざまあみろ」

「いや、まだ私がいますから」

 その驚いた顔と来たら、思わずにやりと笑ってしまいました。私が立ち上がるだなんて想像もしていなかったのでしょう。勝ったと思った時にこそ隙ができるもの。今が好機です。華麗に反撃と洒落込もうじゃないですか。

「燃える炎は赤いロージィの輝き。ジークさんのロンベルン魂は私が受け取りました」

「貴様、何を言っている?」

「マヤトーレさん、上空に注意してください」

 人間の精神というのは動揺に弱いものです。ジークベルトが反撃してきたことで一回、死んだと思っていた私が案外元気だったことで一回。連続して驚いたところへこの警告です。一瞬とはいえ意識は上へ向かってしまいます。

「本当は下でした。エンジェル・フープ・カノンです」

 気づけば雨も止み、月明かりが森を照らしていました。 

 距離は十歩、素早く魔法を発動させます。描いた魔法陣が私の足元からマヤトーレの足元へ。本来なら魔法に慣れた相手にこの攻撃は当て辛いでしょうが、隙を生み出したことで見事に成功しました。

「ぐがっ……貴様!!!」

 聖なる光がマヤトーレの身体を焼き払います。ただでさえ下着姿だったのがもうボロボロ。半裸というよりは全裸に近いです。

「行きますよ。えーい!!」

 間髪入れずにモルゲンロッドで攻撃を仕掛けます。エンジェル・フープ・カノンは見た目ほど威力があるわけではないですから。これもあくまで次への布石。本命はこっち、杖を使った接近戦です。

「小癪な小娘が、目にもの見せてくれる」

「やれるものなら」

 ハピートリガーのおかげで気分は上々。何だか楽しい感じになってきました。マヤトーレが弓を構えますが、さすがに私のロッドの方が速いです。狙いは左手、弓を持つその手に向かってロッドを叩きつけていきます。

「ほらほら、さっきより動きが鈍っていますよ?」

 接近戦でも弓を使って戦えるんでしょうが、私のモルゲンロッドがそれを許しません。マヤトーレもそれが分かったようで、弓を手放して蹴り技主体の戦い方に切り替えてきました。

「なかなかやるじゃないか」

「当然です。私だけ武器を使わせてもらっていますから」

 離れた場所なら弓が使えるマヤトーレの独壇場。近くでの殴り合いも彼女の方に分があるでしょう。そうなると、私に有利な間合いはこれしかありません。

「大したロッド捌きだ。久々に汗をかいたぞ」

 飛び上がって私の攻撃を避けたマヤトーレが空中で一回転します。天地逆転。その手には赤い弓が握られていて、火炎の矢がこちらに向かって燃えていました。

「甘いです!!」

 ステップを踏んで体を回します。モルゲンロッドの重い先端に操られるように、私の身体はくるりと一周、発射された矢を打ち砕くようにロッドが素早く弧を描いていきました。

 さらにその重さを利用して蹴りを繰り出します。私のロッドは自由自在。この距離ならそうそう後れを取ることはありません。

「さあ、そろそろ終わらせてしまいますよ」

「どうかな、私を誰だと思っている」

 マヤトーレの目がきらりと光りました。ロッドで殴りかかった瞬間、私と彼女の間に炎の壁が出現します。

「ファイア・カーテン」

 ゆらゆらと揺れる炎。私の視界からマヤトーレの姿が消えます。

「終わりだ、修道士」

 ロッドを振りかぶり、無防備になった私へ向かって、カーテンの奥から現れたマヤトーレが火炎の弓を構えました。

「赤いロージィは、ロンベルンの誇り……」

 矢が脇腹に突き刺さる瞬間、私はジークベルトの勇敢な姿を思い出していました。体を焼かれながら、彼は決して倒れなかった。それは彼が頑丈だったからでしょうか。いいえ、それだけではないはずです。

「ロンベルンの魂は私だって、持っているんです!!!!!」

 歯を食いしばって、倒れながらモルゲンロッドをぶん投げます。サイクロン・モルゲン・ブーメラン。私の奥の手でしたが、なんとマヤトーレは弓を持つのとは反対の手で回転する高速ロッドを掴んで見せました。

「そんな馬鹿な!!?」

 思わず声が裏返ってしまいました。仕方がないですね、奥の手の奥の手。両手が塞がったマヤトーレに向って、禁断の陣魔法を走らせていきます。

「二度も同じ手が通じると思うなよ?」

「同じ手を……二度も使う間抜けに見えますか?」

 魔法陣の上にいなければ攻撃は当たらない。エンジェル・フープ・カノンを避けるならそれで当たりです。ですが今度はもっと禍々しい物――。

 こんな胸躍る戦いは初めてでした。だから私は軽々と、簡単にいつもの自分を飛び越えてしまったんです。調子に乗ると碌なことがない。そんなことは重々承知のはずだったのに。

「デイモン・スローター!!!!」

 割れる魔法陣から突き出したのは鈍色の鉈。そして鉈を掴む黒々とした巨大な腕でした。


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